104、最悪の事態
●【No.104】●
ここ "バイオメドリグス" の国の "西の森" にて。
この森の奥深くに《巨紅龍》が暴れている。 これに対して、なんとか[黒兵]が抑え込んでる状態。 このまま強引に森を出て、街に入ればさらに犠牲者や破壊損害が増加するけど、それすらやらない。 まるで単なる時間稼ぎに見える。 このドラゴンの目的が、一体何なのか? まぁ…[黒兵]もこの国を守る為に必死に頑張っているのは、凄くわかるけど、意外にしぶとい彼らの抵抗に、なんだかドラゴンが少し呆れてる感が否めない。 十分に時間稼ぎもできたことだし、ここいらでそろそろ引き上げも検討している段階だ。
さらに言うと、あの《ミスカラスレディ》・《ミスターカラスポーン》・《カラスナイトクリムゾン》ら幹部の様子もおかしくなってきてる。 これは一体どういうことなのか?
また "西の森" から少し離れた場所で、様子を見ているポグルス・ヴァグドゥルス・上位魔族トウも不思議に思いながら、あのドラゴンの行動を注視していた。
「おかしい……あのドラゴンの勢いが弱くなってきたぞ……?」
「何故なんだ?」
「一体何が起こっている?」
「アイツら……動きが鈍いぞ……!」
「バカな! あのドラゴンも激しさがなくなり、あの幹部連中も必死さが失せてきた!」
「こ…これは一体……っ!?」
確かに不思議である。
もはや《巨紅龍》にかつての勢い激しさが感じられなくなった。 また《ミスカラスレディ》・《ミスターカラスポーン》・《カラスナイトクリムゾン》ら幹部も動きが鈍くなり、何処か虚ろで必死さが伝わってこない。 まだ『聖女』カロテラや[黒兵]たちが《巨紅龍》相手に命を懸けて必死に対応しているにもかかわらず…だ。 まるで今にも消えそうな感じだ。
「まさか…奴らの攻撃が効いて、あのドラゴンが弱ってるワケではあるまい?」
「まさか…そんなことが…? あんなザコ共にそんなことが…?」
「なら…一体どうなってるんだ? さっぱり解らん…」
遠くで様子を見ていた三人でも、あのドラゴンの勢いがなくなり、弱々しくなった意味が解らず、首を傾げている。 でも、これなら…あの《巨紅龍》を倒せることができるはず…? だけど…それだと《ミスカラスレディ》・《ミスターカラスポーン》・《カラスナイトクリムゾン》ら幹部も何処かやる気がなく、本当に勝つ気があるのか? というような感じで、どんどんとグダクダになっていき、なんだか奴らも消えそうなのだ。
そして、遂に―――
「あっ、アレよ!」
「見えてきたわ!」
「ようやく来たわね!」
「アレが《巨紅龍》ね!」
ようやく勇者マイカたちを乗せたドラゴンが、あの "バイオメドリグス" の国の "西の森" に到着した。 もう既に《巨紅龍》の姿も肉眼で見えていた。 おそらく私にとっては、凶悪モンスターのドラゴンと対峙することになるはず…。 ドラゴン飛翔の高速飛行で、予想よりも速く目的地に到着した。 これで、あの《巨紅龍》と対決できる。
その時だった。
シュッ!
なんと……いうことなのかぁっ!?
突如として、あの《巨紅龍》の姿が消えた。 さらに《ミスカラスレディ》・《ミスターカラスポーン》・《カラスナイトクリムゾン》の姿も消えた。 それから某所にある暗黒空間にいたはずのカラスクイーンアテナやプリンシパリティや蒼い巨体のドラゴン《巨蒼龍》の姿も消えていた。
「「「「えっ!!?」」」」
「「「何っ!!?」」」
「「「「なんだとっ!!?」」」」
「バカなっ!!?」
『ギョッ!!?』
これにはさすがの私たちやポグルスたちや[黒兵]たちや『聖女』カロテラや【デスキラー・シャ】までも驚愕する。 まぁ…当然の事だろう。 さっきまで "西の森" で暴れていた《巨紅龍》や、それと戦っていたはずの《ミスカラスレディ》・《ミスターカラスポーン》・《カラスナイトクリムゾン》が一斉に消えたのだから、こいつは驚きである。 これは何かの冗談なのか? 否、これは何かの手品なのか? 意味が解らない。
「こ…これは一体………っ!?」
「どういうこと……っ!?」
「目の前にいたはずの《巨紅龍》が消えた?」
「と…とにかくポグルスに聞いてみましょう…」
「「「はい!」」」
事態が全く飲み込めない私たちは近くで隠れていたポグルスたちに理由を聞こうとした。 ドラゴンに乗って上空からやって来た私たちには、隠れているポグルスたちが丸見えである。 すぐにポグルスたちがいる所へ降り立つ。
すると、またあり得ない事が起きた。
「し…しまった! ま…まさか……あの…カラスクイーンアテナが……連れ去られるとは―――」
「……!?」
「えぇっ!!?」
ピキピキピキピキピキ―――
なんとポグルスの身体がどんどん石化していく。 これには近くで隠れていたヴァグドゥルスや上位魔族トウも驚く。 すぐにポグルスの全身が石になった。
ピッキィィィーーーーッ!
「「「「………」」」」
これにはさすがの私たちも絶句する。
すぐにトウがヴァグドゥルスに詰め寄る。 私たちも無傷のヴァグドゥルスの所へ行く。
「これは……一体どういうことだ!?」
「一体何が起こっているの!?」
「に…任務に……失敗した……?」
「「「「えっ!?」」」」
「任務……だと……?」
「あ……ああ、おそらくポグルス個人に課せられていた任務に失敗したからじゃないか……?」
「課せられた任務って、なんだ?」
「一体どんな任務が―――」
「……」
「ま…まさか……カラスクイーンアテナを誘拐・拉致されてはいけない……?」
「あ……ああ……おそらく……」
「「「「!?」」」」
「さっき……ポグルスが石にされる前に言ってたわね? 『まさか……あの…カラスクイーンアテナが……連れ去られるとは―――』ってね」
「あの…カラスクイーンアテナが……何者かに連れ去られた……のか?」
「……くっ!」
あのカラスクイーンアテナを倒すことが目的のポグルスにとって、倒す前に何者かに連れ去られることは、彼個人の任務失敗を意味する。 その代償として、彼の身体が石化したのね。 結局、私たちは《巨紅龍》と対峙することができなかった。
その石化したポグルスを "西の森" から見ていたカロテラが―――
「ま…まさか……カラスクイーンアテナ様の身に何かが起きたのか……? くっ!」
シュッ!
ここでカロテラがカラスクイーンアテナの安否確認の為、その姿を消して別の場所へ移動した。