103、巨紅龍D
●【No.103】●
ここ "バイオメドリグス" の国の "西の森" にて。
森の奥深くに《巨紅龍》が出現した。 火を操るドラゴンが猛威を振るい、どんどんと[黒兵]の大軍の数を減らす。 いくら援軍が来ても、一向に《巨紅龍》を倒せる気配がない。 このままだと消耗戦どころか全滅の危険もありえる。 また『聖女』カロテラも[黒兵]に援護するように応戦してるけど、あのドラゴン相手では、どんどんと圧され気味になる。 でも…なんとか森から出さないように押し留めている。
「おい、なんとか止めろ!」
「身体を張れ!」
「逃げるな!」
「こんなドラゴン相手に…!」
「チクショオオオオウウウウ!」
こんな狂暴なドラゴン相手に大勢の人間がなんとか止めてる状態に見えるけど、このドラゴンが森から出る気配がない。 勿論、《巨紅龍》がその気になれば強引に森から出て、街に侵入し暴れて蹂躙して、人間を殺して建物を破壊して被害が拡大するだろう。 だが…それをしないで森の奥深くで[黒兵]相手に暴れてる程度で留めている。
『グオオオオオオオォォォォ』
「ぐおっ!?」
「ぐあっ!?」
「何っ!?」
「ぶあっ!?」
ブオオオオオオオオオォォォォォ―――ドカッ!!
この《巨紅龍》が尻尾を振り回して、眼下に群がる人間共にぶつけて吹き飛ばす。 この程度の攻撃で済ませるこのドラゴンは、明らかに人間相手に手加減している? まさか…これはただの時間稼ぎなのか?
一方で "バイオメドリグス" の国に向かっている勇者マイカたち一行が、アロトリスの所有するドラゴンの背中に乗って先を急ぐ。 肉眼でも "バイオメドリグス" の国が見えるほどに近づく。 でも…まだ "西の森" までは見えない。 まだもう少し先まで行かないと、森まで見えてこない。
「見えてきたけど、まだドラゴンの姿がないけど…?」
「あら、本当ね」
「ドラゴンなんて何処にいるの?」
「西の森よ」
「「「西の森?」」」
「そう…あの国の西に森があるのよ。 前に来た時には、西側までは行かなかったから…よく解らなかったけど、西にも森があったみたいなのよ。」
「へぇ~」
「なるほどぉ~」
「そうなんですねぇ~」
「そこで暴れているみたいね」
「「「……」」」
『……』
巨大なドラゴンなので街中で暴れているなら、すぐ見えるはずなのに、街中は静かで穏やかに何も起こっていない。 ドラゴンが暴れて建物を破壊したり、人々を焼き殺したり、国の防衛部隊とドラゴンが戦闘したりしていれば、すぐわかるはず。 だが…それがない。 つまり、まだ[黒兵]が "西の森" で食い止めて頑張っているのか、それともそもそも《巨紅龍》が "西の森" から出るつもりがなのか、いずれにしても…今のうちね。
「とにかく急ぐわよ!」
「「「はい!」」」
『……』
勇者マイカたち一行を乗せたドラゴンが、そのまま "バイオメドリグス" の国の "西の森" を目指して飛んでいく。 その後ろを巨大カマキリモンスター【デスキラー・シャ】もついていく。
あの "バイオメドリグス" の国の "西の森" から少し離れた場所にて。
そこにポグルスとヴァグドゥルスと上位魔族トウの三人が、それぞれ別々の所で隠れている。 未だにまだ…あの《巨紅龍》が、あの森の奥深くに留まっていることに、若干の疑問を持ち始めてる。
「おかしい?」
「確かに、[黒兵]が頑張っているはわかるけど、あのドラゴンも何故、あの森の奥深くに留まっているのか?」
「あのドラゴン……一体どういうつもりなのか…?」
「あのドラゴンなら、その気になれば、あんな街……いや、あんな国くらいは、一瞬で焼き尽くすこともできるはずだ。」
「それなのに、あのドラゴンは未だに、あの森の奥深くに留まって動かないようだ。」
「確かに、おかしい?」
「ちっ、本当にどうなっていやがるんだぁ!?」
本当に意味が解らない。
あの《巨紅龍》が激しく暴れず、あの森の奥深くで留まっていることに異常を感じる。 ドラゴンは本能のままに暴れ回る。 勿論、理性を持つドラゴンやアロトリスのように指示に従うドラゴンもいるけど、基本的にはドラゴンは本能のままに動くモノだと思ってる。 そのため、あの《巨紅龍》のように、何か目的があって動くドラゴンは、非常に珍しい。 そして、もうひとつの可能性としては、何者かによって操られてる可能性もある。 そう…何者かによって―――
━ー━・●・━ー━
某所にある暗黒空間にて。
ここにあのカラスクイーンアテナがいる。正確には隠れている。 しかし、今となっては、それも無意味。 何故なら、とんでもないヤツに見つかってしまったのだから―――
「くっ、お前がプリンシパリティ……?」
「うふふ、そう♪」
「ちっ、私を捕まえに来ただとぉ!?」
「うふふ、そう♪」
「な……何故……っ!?」
「うふふ、あなたは少しやり過ぎたわ♪ 知らないとは言わさないわよ♪ イザベリュータ様がどれだけ "悪魔神復活阻止" に尽力してきたかを♪」
「くっ……」
どうやら大魔王イザベリュータの逆鱗に触れたようだ。
「まぁ…俗に言うと "お仕置きが必要" ってヤツね♪」
「この私がお前ごときに、そう簡単に捕まるとでも思っているのか!」
「あらあら、あなたがアタシに勝てるとでも? それともあなたに何か奥の手でも?」
「ッ!?」
「うふふ、今はあなた一人だけよ♪ タナトスちゃんもマイカちゃんもポグルスちゃんもカロテラちゃんも助けに来てくれないわ♪ こんな所ではね♪」
「くっ……」
このプリンシパリティ。 紫色のショートヘアーに水色の瞳。 紫色のロングスカートのメイド服と白いエプロンを着用している上位魔族の女性。 大魔王イザベリュータお付きのメイドにして、かなりの実力者。 さらにこのプリンシパリティの後ろには、あの蒼い巨体のドラゴン《巨蒼龍》も控えている。 そう簡単には勝てない。
「うふふ、さぁて、そろそろ捕まえちゃおかしら♪」
「ちっ、そうはいくか!」
「うふふ♪」
絶体絶命の大ピンチ。
このプリンシパリティの実力では、おそらくカラスクイーンアテナに勝機はない。 加えてお供の《巨蒼龍》も、あの《巨紅龍》と同等の力を持ってる。 さらに西の森で暴れている《巨紅龍》もここに呼び戻られたら、たまったモノではない。 このプリンシパリティは……誰よりも先に、遂にあのカラスクイーンアテナを追い詰めてる。