102、巨紅龍C
●【No.102】●
ここ "バイオメドリグス" の国にある "西の森" にて。
森の奥深くから、あの《巨紅龍》が暴れている。 身体が燃えてるような紅く巨大なドラゴンが口から炎を吐いて攻撃する。 そこに『聖女』カロテラ・《ミスカラスレディ》・《ミスターカラスポーン》・《カラスナイトクリムゾン》ら幹部と、[黒兵]の大軍が応戦する。 また少し離れた場所で、ポグルス・ヴァグドゥルス・上位魔族トウの三人が隠れていて、その様子・戦況を窺っている。 そして勇者マイカたち一行が《巨紅龍》をなんとかするため、遂に動き出した。
西の森で、次々と殺られる[黒兵]は、その数をどんどん減らす。 何度か、増援の[黒兵]が到着して、あの《巨紅龍》討伐に加わるが、あまり役に立たない。 何度援軍が到着して戦闘に参加しても、一向にあの《巨紅龍》を倒せる気配がない。 このままだと消耗戦どころか全滅の恐れが出てきた。
「チクショォおおおおおおお」
「何故だぁーーーーーっ!!」
「このままではぁぁぁぁ―――」
「うわぁぁぁぁ助けてくれぇぇぇぇ」
「カラスクイーンアテナ様ぁぁぁーーーーーっ!!」
ふん、あの臆病者の薄情カラスクイーンアテナが助けに来るはずがないだろう!
だがしかし、あの《巨紅龍》の真の目的は、そこではなかった。
私・シャニル・アロトリス・ラグレテスの四人がドラゴンの背中に乗って、大急ぎで "バイオメドリグス" の国へ向かう。 その後に巨大カマキリモンスター【デスキラー・シャ】がついてくる。 一体何で大急ぎで "バイオメドリグス" の国へ向かっているのか、よく解ってないけど、とにかくついてきてる訳ね。
「……」
『どないしたんや?』
「ん、あの "バイオメドリグス" の国でドラゴンが出現したらしいのよ。」
『ドラゴンやて?』
「そう、一体どんなドラゴンなのか、見ておきたくてね。」
「何でも火を吐くドラゴンらしいです。」
『物好きやなぁ?』
「あわよくば、そのドラゴンを倒せるものか、と思ってね。」
『えっ、ドラゴンを倒せるのか?』
「それを試すために行くのよ。」
『試すやと? 大丈夫なのか? 下手すると殺されるでぇ?』
「ふふふ、ドラゴンだからね」
「だけど、試してみたいよね? 私たちの今の実力で、果たしてドラゴンに勝てるのか?」
「その強力なドラゴンを倒すことができたなら、もしかしたら…あの "バイオメドリグス" の国に借りができるかもしれない…」
「そして…この先、ドラゴンと対峙した時の参考にもなるはず…」
『アンタら…イカれとる…』
「ふふふ、そうかもね…」
「普通なら、そうでしょうね。」
「ところでアンタもついてきてるってことは、ドラゴン退治に協力してくれるってこと?」
『どこまで役に立つかは解らんけどな…』
「いいえ、なかなかの戦力になるわよ。 その巨体は…」
「私もそう思います」
『そ…そうか…』
「さぁ…急ぐわよ」
「「はい、判りました。」」
「ええ、わかったわ」
『おう』
私たちを乗せたドラゴンが高速飛翔で "バイオメドリグス" の国に向かっており、その後を巨大カマキリモンスター【デスキラー・シャ】も高速飛翔でついてくる。 確かに相手はドラゴン。 倒せるかどうかを試す相手ではないわ。 でも忘れてない? 私たちの最終目的は、あの悪魔神の打倒・封印よ。 別に大魔王を相手にする訳でもないし、今の段階でドラゴンを倒せるか、どの程度の実力かを試しておかないといけないわ。
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某所にある暗黒空間にて。
ここにあのカラスクイーンアテナがいる。 否、正確には隠れていると言った方がいいだろう。 今や彼女はあらゆる者から命を狙われてる身。 身を隠すのは、当然の事であろう。 今は確かに隠れているはずなのに―――
「………」
「うふふ、みーつけたぁーー♪」
「……ちっ!」
「ここまで来れば、あとはあなたを捕らえるだけねぇ~♪」
「お…お前は一体………っ!?」
「うふふ、アタシの名前はプリンちゃんよぉ♪」
「……プリンちゃんだと………っ!? ふざけるなぁぁ!?」
「ふざけてないわよぉ~♪ アタシはプリンちゃんよぉ~♪」
「お……お前………一体何しに来た………っ!?」
「あらあら、だぁかぁらぁ言ったじゃない? あなたを捕まえに来たって……ねぇ♪」
「クソッ!」
「うふふ、どうやらタナトスちゃんやマイカちゃんやポグルスちゃんよりも早く、あなたにたどり着けたようねぇ♪ カラスクイーンアテナちゃん♪」
「………」
このプリンちゃんと名乗る謎の女性。 紫色のショートヘアーに水色の瞳。 紫色のロングスカートのメイド服と白いエプロンを着用してるけど、決してふざけている訳ではない。 顔は真面目だ。 さらにこのプリンちゃんの後ろには、あの蒼い巨体のドラゴン《巨蒼龍》も控えている。
「お…お前……人間ではないな? 人間ごときがドラゴンを従えているはずがない!」
「うふふ、そうね。 アタシは人間でもなければ、エルフでもないわ。 勿論、獣人ではないわ。 ……魔族よ」
「ま……魔族だと……っ!?」
「うふふ、そうね。 ただし、この大陸出身の魔族ではないけどね。」
「!!?」
「うふふ、アタシはあの大魔王イザベリュータ様お付きのメイドで上位魔族のプリンシパリティよ。」
「な…なんだと……っ!? ……プリンシパリティだとっ!?」
「これで誰があなたを捕縛できるか? おわかりかしら?」
「……くっ!」
遂に明らかになった。
このプリンちゃんとは、なんとあの大魔王イザベリュータお付きのメイドで、上位魔族のプリンシパリティだった。 今回はお供の《巨蒼龍》を引き連れて、このカラスクイーンアテナを捕獲しに来ていた。 そして西の森に出現した《巨紅龍》は、ただの時間稼ぎと陽動。 それは女神タナトスよりも勇者マイカよりもポグルスよりも誰よりもカラスクイーンアテナに近づく為に―――
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一方で、勇者マイカたち一行はドラゴンの背中に乗って超スピードで、あの "バイオメドリグス" の国へ向かっていた。 あともう少しで到着するほどの勢い速度で―――
「あっ、あそこ!」
「ようやくね」
「見えてきたわね」
「あの国に再び…」
ようやく…あの "バイオメドリグス" の国が肉眼でも見える所まで接近していた。
プリンちゃんことプリンシパリティとは、天使の階級で『権天使』(第七番目)を指す。 または『権天使』のことをアルケーとも言うらしい。