101、巨紅龍B
●【No.101】●
ここ "バイオメドリグス" の国にある "西の森" にて。
その森の奥深くに、突如として出現された《巨紅龍》が森の奥で暴れている。 そこに『聖女』カロテラ・《ミスカラスレディ》・《ミスターカラスポーン》・《カラスナイトクリムゾン》と、[黒兵]の大軍が防いでいる。 でも…どんなに大勢の兵士がいたとしても、所詮は人間とドラゴンとの戦いであり、ほとんど話にならない。 このままだと巨紅龍が森の外に出て、夜の中…人々を…街を…国を襲い蹂躙されるのも、もはや時間の問題だ。
これは本当に、一体どうすればいいのか?
森から少し離れた場所に隠れるポグルスとヴァグドゥルスと上位魔族トウの三人。 そこから森の奥の様子、ドラゴンの暴れ具合を見ている。 さすがにドラゴン相手では、この三人でも手は出せないので、ただじっと見ているだけだ。
「ちっ、あんな武器や人員では、とてもじゃないけどドラゴン相手に勝てないだろう?」
「あれでは殺されに行くようなものだぞ。 増援も無さそうだし、あの森から出たら、この国も危ないぞ!」
「へぇ~、カロテラのヤツも結構頑張っているよな? アイツ…このままドラゴン相手に戦い続けるつもりか?」
「ちっ、このままだともたないだろう?」
「これは…朝までもつのか?」
「まぁ…カロテラの体力じゃあ無理だろうな?」
「ここはやはり勇者マイカしか―――」
「もう最後の砦の勇者マイカの力を借りるしかないな?」
「なるほどな、ここで遂に勇者マイカの投入か?」
しかし、今は真夜中。 さすがの勇者マイカでも、今頃はアリスノヴァイン王国の街の宿屋で熟睡しているよな? 今から起こすのもどうかと思うけど…。 仮に起きていたとしてもアリスノヴァイン王国から、この "バイオメドリグス" の国へ行くのに、かなりの距離があって時間がかかると思うけど…? そもそも連絡する手段がない…? それに圧倒的に時間が足りない。 何かするにしても時間が無さすぎる。
「その心配はない。 こんな時の為にアオを預けている。 だから連絡手段はある」
俺が目を閉じて意識を集中させて、マイカの所にいるブルームスライムのアオに語りかける。
ブルームスライム……聞こえるか……?
??
ブルームスライム……聞こえるか……?
??
ブルームスライム……俺だ……ポグルスだ……。
ポグルス……?
そうだ……ポグルスだ……今……お前の心に問いかけている。
一体どうしたんだい……? こんな夜遅くまで……?
今……緊急事態でな……マイカは起きているのか……?
うん……まだ起きているよ……なんだか眠れないみたい……。
そうか……それは良かった……マイカと代われるか……?
うん……やってみる……。
…………。
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…………。
……どうしたの……ポグルス……?
その声は……マイカか……?
ええ……そうよ……。
大変な事が起きた! あの "バイオメドリグス" の国の "西の森" の奥深くから、突如として身体が炎のように燃えてるドラゴンが出現した! そのドラゴンは、どうやら火を操れるらしい! 至急応援を求む!
えっ、ドラゴン……ッ!?
あぁ……そうだ……一体何処から現れて、何がしたいのか、全くもって不明だが、このまま放置しておくて、非常に厄介だ。 このままだと "バイオメドリグス" の国はおろか…アリスノヴァイン王国まで被害が出るかもしれない。 あの森から出したくないけど、なんとかならないか……?
わかったわ! 私に考えがあるわ! 少し待ってね!
あぁ……わかった。
それと……ブルームスライム……ありがとう……。
うん……すぐ行くよ。 少し待ってて……。
ヨロシク!
ここでマイカやブルームスライムの心の通信は途絶した。 だが…どうやら俺の言ったことはわかったようで、すぐにこちらに向かってくるそうだ。 だが…今から馬車に乗って、こちらに向かってくるのか……? 一体どうやって時間を短縮してやって来るのか……? それでも俺たちはただ……彼女たちの到着を待つだけだ。
深夜、アリスノヴァイン王国の王宮内にある豪華な来客用宿泊部屋に、一人一部屋ずつ泊まることになった私たち。 ちなみに巨大カマキリモンスター【デスキラー・シャ】は、このアリスノヴァイン王国のはるか上空で待機している。
みんなが寝静まった中、私は椅子に座り、窓の外の星々が輝く夜空を眺めながら、一人物思いに耽っていた。 すると突如としてアオを通じてポグルスから緊急事態を知らせる通信があった。 このブルームスライムって、意外に便利ね。
私は仲間であるラグレテス・アロトリス・シャニルの三人だけを起こして事情を説明する。 今回は私たち四人だけで王宮を出た。 これから馬車で行くにしても夜で暗いし、馬車なので速度もほとんど出ないため、アロトリスにドラゴンを出してもらい、みんなでドラゴンの背中に乗って、上空から行くことにした。
こっちの方が馬車よりも早く到着するとの計算だが…勿論、こういった緊急時以外でドラゴンを乗り物使用はしない。
「みんな悪いわね。 寝ているところを」
「いいえ、大丈夫です」
「はい、私も大丈夫です」
「はい、徹夜も大丈夫です」
「みんな…ありがとね」
「それで "バイオメドリグス" の国の "西の森" って所に、火のドラゴンが出現した…ってことでしたけど…?」
「ええ、そうらしいわね。 ポグルスからの連絡では、身体が炎のように燃えてるドラゴンらしいのよね。 なかなか強力なドラゴンでね、てこずってるらしいわよ?」
「身体が炎のように…?」
「燃えてるドラゴンですか…?」
「ええ、そうらしいわね?」
「………」
アロトリスが何か考え込む。
「今回はマトオたちは連れていかないんですか?」
「今は真夜中の出来事だし、どうせお楽しみの最中でしょ? だから…今回は遠慮してもらったわ」
「……」
「なるほど、そうですか…」
「でも…王様にも報告してないんですよね?」
「ええ、そうね。 今は真夜中だし、もう寝てると思うからね。 一応は衛兵には言ってあるから、あとは事後報告ね」
「なるほど、そうですね」
「……」
「そのドラゴンって、もしかして巨紅龍ですか?」
今まで何かを考えてたアロトリスが突然…口にした。
「…巨紅龍…?」
「さぁ…名前までは聞いていないわ…」
「その巨紅龍って…何?」
「はい、巨紅龍は火を操る龍です。 ドラゴンの中でも四大元素を操る龍は特に強力だと聞きました。 その巨紅龍はなかなか強いですよ?」
「えっ、そうなんですか?」
「へぇ~、四大元素を操る龍ねぇ~」
「……」
その巨紅龍は炎を操り、巨蒼龍は氷を操り、巨緑龍は風を操る。 一般的には、こういった四大元素龍は人間や魔族・魔物やエルフや獣人・亜種といった種族などで対抗することが非常に難しく厳しい。 あの一部の例外を除いては、神や大魔王といった絶対強者しか対抗することができないとされている。
その巨紅龍と勇者マイカたちが、これから対峙することになる。