100、巨紅龍A
●【No.100】●
ここ "バイオメドリグス" の国の "西の森" にて。
そこに到着したポグルス・ヴァグドゥルス・上位魔族トウの三人が、少し離れた場所から森の奥深くを見てみると、その正体が遂にわかった。
「「「なんだとっ!?
ドッ……ドラゴン……だとっ!!?」」」
なんと "西の森" の奥深くにいたのは、身体が紅く燃える火のドラゴンだった。 その姿は巨大で紅い龍だった。 この大きいドラゴンが何処からやって来て、一体何しに来たのか? 何故こんな森の奥深くに突然出現したのか?
その巨大なドラゴン相手に、勇猛果敢にも[黒兵]の大軍が、森の外に出さないように足止めする。 だけど…そもそも巨大なドラゴンと人間では話にならない。 しかも、そのドラゴンの身体は、全身が炎をまとっている為、そもそも近寄って攻撃することが難しい。 だから剣での斬撃も腕ごと燃えてしまうかもしれない。 何より固い鱗で覆われていて、果たして普通一般の剣で斬れるのか?
そこに《ミスカラスレディ》・《ミスターカラスポーン》・《カラスナイトクリムゾン》ら幹部が、[黒兵]の大軍に指示を送る。
「おい、あのドラゴンを街に近づけるな!」
「お前ら、アイツをこっちに来させるな!」
「防げ防げ!」
ズゥン、ズゥン、ズゥン、ズゥン!
あの火の巨大ドラゴンが、森の奥深くから "バイオメドリグス" の国の方に向かって、ゆっくりと歩き始めた。 当然だけど、[黒兵]の大軍もあのドラゴンの行く手を遮って、ドラゴンの前で陣形を組んで攻撃する。 強力なドラゴン相手に、なまじ特攻である。 だが…それも仕方がない。 黒き兵士たちは国や市民を守る義務・責任がある。 無理でもなんでも戦わなければならない。
少し離れた某所から、ポグルス・ヴァグドゥルス・上位魔族トウが見物する。 この三人にとっては、この国がどうなろうともどうでもいいこと。 正直いって、この国の市民なんかもどうでもいい。
しかし、あのドラゴンが一体何処から現れて、一体何の目的があって、あんな森の奥深くにいるのか? これが重要で調べなければならない事案なのだ。
「…アレは巨紅龍か……」
「まさか…あの巨紅龍が…こんな所に…?」
「ちっ、あんな所にまた厄介なヤツが……」
ポグルス・ヴァグドゥルス・トウが、あの巨紅龍の出現に、それぞれ感想を述べてる。
この巨紅龍といえば、あのヴァグドーの最初の相手だった。 あの時は、当時から最強だったヴァグドーが一人だけで、あっという間に倒してしまった。 けど…それでも相手はドラゴンだ。 普通の人間だけで、そんな簡単に倒せる相手ではない。 この巨紅龍も身体が燃えていて、口からは炎を吐く。 果たして、こんなヤツを倒せるのか?
「おいおい、ここでドラゴンかよ? ヤバイぜこれは…」
「ちっ、いくらなんでもドラゴンなんて、あり得ないだろう? アレをどうしろっていうんだ?」
「上位魔族である私でもドラゴン相手には勝てないぞ? 一体どうすればいいんだ?」
さすがのこの三人でも、あのドラゴンには勝てないようだ。 でも…勝てないとわかって、わざわざ自分から向かっていくこともないだろう。 そこまでバカではない。 だから少し離れた所で待機するしかない。
だがしかし、これから一体どうすればいいのか? 正直いって、いくらこの三人でもアレをどうすればいいのか、よく解らないのだ。
「ん?」
よく見ると、なんと『聖女』カロテラが巨紅龍と対峙する。 カロテラが宙に浮いていて、巨紅龍の顔の目の前で向かい合ってる。
「アイツ……あんな所にいたのか? 道理で私の所に来ない訳だ。 だが…いくら聖女でもドラゴン相手に勝てるのか?」
その巨紅龍もカロテラの方を見ていて、大きな口を開ける。
グゴゴゴゴゴゴゴォォォォォーーーー―――
『グゴゴゴゴゴォォォォォ』
「ちっ!」
ササッ!
巨紅龍が炎を吐いて、目の前にいるカロテラを焼き尽くそうとする。 ただカロテラも炎をなんとか回避して、直撃を免れる。 ここから反撃体勢に移る。
「でぇぇいいいぃーーーっ!」
グググググググゥゥゥ―――
カロテラが弓を持って、矢をつがえて、巨紅龍の顔に狙いを定めて、矢を離す。
パッ、ヒュッ、パキッ!
だがしかし、ドラゴンの身体に矢が刺さらない。 否、鱗が硬すぎて、あの程度の矢では全く刺さらないのだ。 それでもカロテラは巨紅龍の炎を避けながら、矢を連打で射ち続ける。 だけど…矢は巨紅龍の顔に刺さらないで、そのまま跳ね飛ばされる。
「……」
その様子をトウが無言を見ている。
「チッ、チクショオオオオォォォォッ!!」
「なんとか押さえつけろぉーーーっ!!」
「なんとしても街に入れるなぁぁーーーーっ!!」
ここでも[黒兵]の大軍が、巨紅龍の足に攻撃する。 けど…やっぱり力の差がありすぎて、あの大きな足で踏みつけられたり、あの大きい尻尾を振り回されたりして、どんどん[黒兵]の大軍が数を減らす。 やっぱりドラゴンは凄く強い。 特攻・上下同時攻撃もドラゴンの前では、無意味なのか?
「ちっ、アレでは…ダメだな。
あの程度の武器では、ドラゴンの鱗にキズもつけられないぞ。 それに…あのドラゴンには、数も時間稼ぎも通用しない。 このままでは時間の問題だな」
その様子を見ながら、トウが現状の感想を述べる。 一方、ポグルス・ヴァグドゥルスの二人も様子・戦況を見ていて、それぞれ感想を述べてる。
「しかし、あのドラゴン相手によくもってる方だ。 たとえ勝機がなくとも……なんとか森からは出していない…」
「だが…このままでは埒があかん。 奴らの数が、どんどん減っていくだけだ。 いずれ全員殺られれば、あのドラゴンは森から出て、街の中に侵入する。」
「ああ…そうなれば…この国は滅ぶ。 たった一匹のドラゴンによって…」
「まさか…ドラゴンによって国が滅亡するとはな…。 さて、どうする?」
「俺たちには無理だな。 ドラゴンなんか相手にできない…」
「確かに無理だ…」
「だがしかし、彼女なら―――」
「もしかしたら、彼女ならば―――」
「否、もう彼女しかいない…」
そこでポグルス・ヴァグドゥルス・トウの三人は、それぞれ同時にある女性のことを考えてた。 三人共に同じ女性を思い浮かべる。 おそらく彼女ならば、あの巨紅龍を倒せるかもしれない…と。
そう…勇者マイカのことを―――