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わがまま坊や

作者: 香月 風香

 とある小さな町のこと、それはそれはわがままな男の子がいました。

 嫌な事があると自分よりも小さな子や物にあたり暴れます。気に入った物なら友達の物でも奪い自分の物にしてしまいます。

 お母さんが泣いて頼んでも、お父さんが大きなげんこつを落としても次の日にはケロリとします。

 その男の子の名前はムギ。町一番の嫌われ者の名前です。


 ある日、ムギが棒で畑を荒らしていると、畑の脇にある草むらの一部の草が揺れているのを見つけました。その草むらはムギの肩の辺りまで背の伸びた草が生えています。

 ムギは近所で飼われている老犬が草むらを歩いているのだろうと思いました。

(またあのクソ犬が脱走したんだな! 飼い主も間抜けだな、何回も同じように逃げられているじゃないか! )


(よーし、間抜けな飼い主の代わりにオレが懲らしめてやる!)

 ムギは気づかれないように静かに近くまでよると棒を持って飛びかかりました。


「クソ犬め! 脱走したのは分かってるんだぞ!」


 ――ゴツンっとムギの持った棒が大きな音を立てました。しかし、当たったのは近所で飼われている老犬ではありませんでした。


「うっ、うわー! 痛いよー!」


 なんと、ムギに棒で叩かれたのはムギの腰辺りの背丈をしたロバでした。


「ひどいや! ひどいひどいっ! いきなり何をするんだよ!」


 ロバは頭に大きなたんこぶを作って泣いています。


「ちぇっ! なんだ、クソ犬じゃあ無かったのかよ!」


 ムギは舌打ちをして機嫌を悪くします。


「お前が悪いんだぞ! こんな草むらなんか歩きやがって!」


 ムギはロバに向かって怒鳴ります。しかし、ロバも負けじとばかりに言い返します。


「草むらを歩いたっていいじゃないか! ここが家まで一番の近道なんだから!」


 ムギは言い返されるとは思っていなかったのでさらに機嫌を悪くします。最近は近所の子供達もムギに言ってもムダだと口をきいてくれなかったからです。


「ああ、なんて事だ、今日は速くお母さんにケーキを届けないといけないのに……」


 そう言うロバの背中には目立つ大きなケーキが乗っていました。ムギも初めて見る美味しそうなケーキです。


「うまそうなケーキだな! オレにもよこせ!」


「えっ? ダメだよ! これはお母さんの誕生日ケーキなんだ! 今日のために一生懸命に作った大事なケーキなんだ!」


「なんだよ! ロバのクセに生意気だぞ!」

 

 ムギは逃げようとするロバの尻尾を素早く掴み、ケーキを食べます。


「わぁ! うまいや! こんなにおいしいケーキは初めてだ!」


 とうとう、ムギはロバのケーキを全て食べてしまいました。


「うう、ひどいや……ひどいや……」


 ロバは泣く泣く帰って行きました。


「ああ、旨かった!」


 一方のムギはにこにこ笑顔。さっそく家に帰り皆に自慢して周りました。

ですが、皆はそんなに小さなロバはいない、ロバが喋るのはおかしいと相手にしてくれません。それどころか、どこのケーキを盗んできたのかと父親からげんこつを落とされて頭に大きなたんこぶができてしまいました。


「くそう! 本当のことなのに何で誰も信じないんだ!」


 ムギは悔しくてたまりません。


「そうだ! あのロバを捕まえて皆の前に連れて行ってやろう! ついでにあの旨いケーキの作り方もききだせばいつでも食べられるようになるぞ」


 ムギはさっそく草むらに向かいました。

 しばらく待っているとあの日のように草が一部だけ揺れながらこちらへ近づいてきます。

 

 しかし、出て来たのはあのロバではなく、近所で飼われている老犬でした。


 その後もムギは毎日草むらでロバを待ちましたが、ロバが来ることはありませんでした。

 ケーキもあの日ロバから奪って食べたケーキが忘れられず、どんなに高級で腕の良い者が作った物も美味しく無くなってしまいました。


 ですが、町の人々はいつも草むらに張り付くようになったムギを見て、大人しくなったと喜びましたとさ。


読んでいただきありがとうございました。


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