第3話〜オトナの四角関係〜
この話では、自慰的な内容が含まれています。苦手な方はご注意ください。
時は、自分たちがまだ幼少の頃・・・
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「ヒロッ!遊ぼうよぉっ!」
美輝は、大輝の元に週に最低5回、最大毎日通っていた。
そんな異様な訪問回数にも、大輝は眉ひとつ顰めないで、喜んで遊んでいる。
誰がどう見ても、仲のいい“二従兄妹”。
そんな2人を、美輝の母・・・当時まだ無名だった麗沙と美輝の父の従兄弟の拓哉・・・つまりは、大輝の父は、微笑ましく眺めていた。
―――だが、“あの事件”の問題だったのは、美輝と大輝では―――ない。
微笑ましく見ていた―――この2人だったのだ。
大輝の母・・・つまり、拓哉の妻、美咲は、学校の教師。しかも、スーパー進学校として有名な高校の最優秀教師なのだ。
単身赴任していた美咲は、1ヵ月に最高1回のペースで家に帰ってくるような毎日・・・
そんな妻を持つ拓哉の身近にいる女性と言えば・・・自分の妻ではなく・・・
―――まだ無名で、仕事もハードではない“従兄弟の妻”だった。
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最悪な事態は、美輝が7歳3ヵ月を迎える頃。
大輝は美輝の年齢に比例するように定数を重ねて、7歳5ヵ月を迎えていた。
そんなある日。この日は珍しく美輝の家・・・神楽家に、大輝と拓哉が泊まりに来た。
「美輝ちゃん、こんばんわっ!」
「わぁいっ!ヒロだぁっ!」
自分の家に初めてくる大輝の姿を見た途端、美輝は思い切り大輝に抱きついた。
「こらこら美輝。大輝君怖がっているでしょう?離れなさい。」
「や〜だっ!美輝、ヒロ大好きだもん♪」
「僕もだよ〜っ!」
・・・幼い頃は、簡単に交わせていた「大好き」っていう言葉も・・・今となっては、「心の拠所」ということさえ、この2人は伝え合えない。
比例のグラフを伸ばしながら・・・いわゆる歳を重ねるということは、そんな伝え合う手段さえ失ってしまうものなのか。
そんな手段を手軽に使ってた時代は、もうこの2人の脳内には残っていない。
歳を重ねることは・・・記憶が薄れてゆくこと。恐ろしいことである。
そんな恐ろしいことを、ステキナコトに変えるのは、その人次第だが。
「やれやれ・・・全くこの2人は仲がいいね。」
「そうね。美輝のお婿さん候補第1位はやっぱ大輝君ね。」
「2人に“輝”っていう文字入れて正解だったな。」
親同士は、微笑みながら抱擁を交わす幼い2人を眺めていた・・・
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合鍵を使って水瀬家に帰宅した美咲は、冷蔵庫に張ってあった予定表に自然と目がいった。
水瀬とは、大輝の前の名字。大輝の前の名前は水瀬大輝だった。
「・・・“翔一郎”の家に泊まり・・・?」
翔一郎・・・というのは、前述の通り美輝の父。
その名前と文を見ただけで、“高校教師”の頭はフル回転する。
翔一郎の妻である麗沙は、前述通りまだ無名で、芸能界でも目だっていなかった。
が、町内・・・市内・・・いや、県内でも有名な八方美人。そんな言葉でもさえ、その美貌を表せれないほどの究極美女だ。
翔一郎はこの時、IT企業の若社長という地位にいた。・・・残業は日常中の日常。絶対帰宅なんてしていない。
そんな中、美輝と大輝が早めに寝静まったら・・・神楽家は、防音セキュリティも万全。部屋も100通り以上ある。階数も半端ない。
そして何より・・・拓哉は、“男”だっていうこと。
今傍にいるのは・・・究極美女。“女”・・・
時計の方を勢いよく見ると、短針は2・・・長針は6を差していた。
そう。深夜2時半・・・
・・・心臓を抉り取るように・・・胸が痛んだ。
嫌な予感が、美咲の頭の中を駆け巡った。
美咲の足は、無意識に車の方に向かっていた。
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2時半・・・美輝と大輝は、勿論とっくに寝静まっている。
麗沙は、自室のベッドに身を任せて、本を熟読していた。
本を持っている手の反対の手は―――今は隣にいない夫、翔一郎のことを想いながら・・・
“オトナ”な時間を過ごしていた麗沙の自室のドアが・・・いきなり、思い切り開いた。
「きゃあっ!?」
条件反射的に“その手”は、パジャマから抜き取られる。
ドアの向こうの人物は・・・紛れもなく、“夫の従兄弟”だった。
「・・・麗沙さん・・・」
拓哉は、低い・・・熱を持った声で麗沙の名を呟く。
そしてそのまま、ゆっくりと麗沙に近づき・・・無理矢理、麗沙に覆いかぶさった。
麗沙の体は、まるでレイプに遭うときのように硬直し、後退りさえできなかった。
そしてそのまま、拓哉は麗沙の唇に無理矢理自分の唇を押し付ける。
「んっ・・・」
酸素を求めて、少しだけ開いた麗沙の唇を割って入って、拓哉は麗沙の口内を舌をつかって荒らす。
「ふぁ・・・ぁっ」
口から、麗沙の熱を持った声が漏れた。
麗沙の手から、本がパタリと音を立てて床に落ちた時・・・
「―――拓哉っ!?」
「麗沙・・・?」
・・・女の、男の、声がした。
その声を聞いた拓哉は、ハッと気づいたような表情で麗沙から離れる。
「美咲っ・・・翔一郎・・・」
拓哉は、ドアのところにいる女・・・美咲の方を見る。
美咲の表情は青ざめて・・・唇さえ、青白かった。
そしてそのまま、涙を流しながら出口へ向かった。
「おい待て美咲っ・・・」
拓哉は、美咲の後を追って部屋を後にした。
残された男・・・翔一郎は、麗沙に近寄り、麗沙の唇にかかっている唾液を指で拭いながら・・・
「・・・お前・・・拓哉とヤッてんだな。」
溜息混じりで、吐き捨てるように麗沙にそう告げた。
「やっ・・・翔一郎、違・・・」
「もういいよ。―――距離を置こう。」
麗沙の胸が、心臓が、弄くっていた性器が・・・ドクンと、波打つ。
『距離を置こう。』
この言葉が・・・全ての、起源だった。
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「待てよ美咲っ・・・」
拓哉は、逃げる美咲を追いかけていた。
美咲は道路の真ん中で止まり、きつい目線で拓哉を睨む。
「・・・だよね・・・」
「・・・え?」
その視線は、涙腺を崩す傾向を見せる。
「麗沙さんの方が美人だもんね!?私よりも長い時間一緒にいられるもんね!?そりゃあヤりたいに決まってるわよねぇっ!?」
「違っ・・・」
否定する拓哉の声を遮り
「・・・もういいっ・・・」
今まで、聞いたことのないような弱弱しい声で・・・美咲はそう呟いた。
悲哀に満ちた声・・・表情・・・
「だから違うってっ・・・」
道路の向こうから来る物体にも気づかない拓哉は、無我夢中で美咲の肩を掴む。
「俺はお前を愛して・・・」
語尾は・・・爆音で、かき消された。
推定時刻。3時5分。
2人が立っていたその道路は―――血の海であった。
―――数ヵ月後。翔一郎は企業を蹴って麗沙とは別のプロダクションに所属し・・・別のプロダクションである麗沙を奨励し、麗沙を一躍有名にさせた。―――有名にさせ、仕事を増やせて、帰宅させないように。
翔一郎は、早い日。『有名IT企業の社長から華麗に転身』という見出しで、TVを飾った。
―――『オトナの四角関係』という記事にも、華麗に名を轟かせて・・・
一晩を通して起こった事件は、メディアをあっという間に引きつけた。
しかし、その事件は・・・梅雨のように、すぐに掻き消されて。




