第17話〜比例×反比例〜
大分肌寒くなってきたため、2人は名残り惜しさが残る思いで、明日壁丘を下りて、ホテルに向かった。
ちなみに美久はジェットで強制にホテルに送還。ダミーはもう必要ナシなのでジェット側で処分した。
ホテルに着いてからは、恵夢やその他の女子たちに「どこ行ってたの!?」っていう質問攻めの嵐。
美輝はなんも変哲のない表情で
「ちょっとねぇ〜。他のクラスの友だちのとこ行ってただけだよ〜」
そう軽くあしらっても・・・尚も続く質問攻め。
あしらい続け、気づけば・・・辺りは、寝息に包まれていた。
それからは、難なく旅行が進みに進んで・・・
「な〜んか、あっと言う間だよね・・・」
帰りの機内・・・恵夢は、名残り惜しそうにそう呟く。
「う〜ん・・・」
そんな呟きに相反する想いを抱いていた美輝は、曖昧な相槌を打った。
―――いろいろあったよなぁ・・・
拓海との再会。
拓海の新カノの謎。
美久との初対面。
大輝との付き合いの始まり。
最高に幸せだったキス。
ダミーの世話・・・
美輝の頭の中には、限りないほど、2泊3日のたくさんの出来事が思い浮かんだ。
中でも、最高に幸せだったことは、大輝との付き合いが始まったこと・・・
―――スキナヒトと付き合えるって、こんなにも嬉しいことなんだ。
“二従兄妹”という関係でありながら、好きな人というには少し抵抗があったが―――関係がどうであれ、意思には無縁。
“二従兄妹”という関係・・・血のつながりが、とても薄い。そんな中で、2人は出逢い、約束を交わし、擦れ違い、結ばれた。
擦れ違った間は・・・想いが隠れて、見つけられなかった。
でも、だからこそ気づけたのだろうか・・・“かくれんぼ”している想いに、必死に気づきたくて、いつのまにか・・・気づいてた。気づかされていた。
気づかされてくれたのは・・・全て、日数と周りの比例から。意思と動悸の反比例から・・・
それらが重ねに重なり・・・格子点が、打たれた。
今では素直に、その現状を受け止めれる。
―――幸せ。
そうとさえ、難なく言える。
美輝は飛行機の窓から見える、限りない雲や空に目を向けた。
心の中で、そっとお礼を言いながら・・・
―――大輝に出逢わせてくれて、恋する気持ちに出逢わせてくれて、ありがとう。
両親に。
亡き大輝の両親に。
神様に。
―――「ずっと一緒だよ。」
そんな約束によってつくられた、比例のグラフに。反比例のグラフに。
普通なら、「どうでもいい」と言って放棄するであろうグラフの直線を、2人とも伸ばしに伸ばしたのは・・・共通する想いがあったからなのだろうか・・・
それくらい、2人は想い合っている。
幾年経っても、絶えることなく・・・
こっから先は、変わり者な“神楽美輝”の“神楽美輝”に当てた手紙。
普通、自分が自分に当てる手紙は未来の自分にあてるものなのだが・・・何故かこいつは、過去の自分に書いてしまっている。
「なんで過去のお前なんざに手紙書くわけ?」
風呂上りの、首にタオルをかけた少年・・・いや、いつしか青年と化した男が、年甲斐もなくワンピースを着ている美輝にそう問う。
「なんざって何!?なんざってぇ!」
「はいはい。え〜、どれどれぇ〜・・・」
顔を近づけて、内容を見ようとした男の目の前から、美輝は急いで手紙を隠して
「大輝は見ちゃダメッ!」
男の名前を叫び、また年甲斐もなく舌を出した。
“大輝”は、また息を吐くと・・・
「じゃ、俺にも何枚か紙ちょうだいや。」
紙を何枚か取って、傍にあるペンを取って何かをサラサラと書き綴った。
「・・・大輝って、昔っから書くスピード速いよねぇ〜。頭のスピードは無駄に遅いくせに〜」
「うっせぇ。」
そう言い、額を軽く小突く大輝の手を押さえ、美輝は幸せそうに微笑んだ。
「ヒロのバ〜カッ!」
とびきりの、満面の、幸せそのものの笑顔で・・・
ヒロ
そう呼んでた頃。
大輝
そう呼び始めた頃。
2つの頃の、自分に当てた手紙。




