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スミンさんがどれだけ食べるのかわからないし、なんなら約束もしていないからお昼ご飯もっているかもしれない。
ていうか嫁がいなくても恋人がいて愛妻弁当あるかもしれない!!ということに家を飛び出して職場まで来て気がついた私です。
どあほなや、うん。
どうしたもんか、と悩んでいると扉が開いておでこをぶつけた。
よかった下向いてて、顔あげてたら鼻血でてるわ。
「…ごん?」
「ん?」
音に反応しただろう人はでかかった。
クマかな?これ。すごい迫力。クマって日本ではかわいらしくデフォルメされてるけどさ?や、あの北海道のやつ以外。
顔のところに傷まであってこの人、やくざみたいな空気すんごい。
ほーと感心していると、すみませんでしたぁぁぁぁあああっと叫んで奥に引っ込んでしまった。
「あれ…え?」
わーお目つき悪かったかしら?いやまぁ奥二重だし、化粧もしてないですし?
ちょっと人相悪いかもしれません、すみません。
お邪魔しまーすと中に一歩進んだら一斉にいろんな獣人が振り返った。
「え…う…あの、スミンさん、います?」
さすがに迫力やばいっす。
なんだろう、このジャングルとか動物園の檻の中に放たれた気分。
へにゃっと愛想笑いで切り抜けようとしたら一斉に目をそらされた。
まて、これはこれで傷つくんですが。
「夕月!?」
バンッと開いた扉の先にはスミンさん。
あ、よかった知ってる人だ。そしてその後ろにはさっきのクマさん。
「大丈夫か!?頭をぶつけたと聞いたが!?あぁ赤くなっているじゃないか!!」
「いや、扉の前にいた私も悪かっ」
「おい!濡れたタオル!
あれよあれよとおでこが冷やされました。
おう、私の言葉遮られるぐらいにばったばたしていたけど大丈夫だろうか。
そして今いるのは中庭です。
隊長の部屋があるらしいけど、超絶散らかっているという理由でした。
スミンさん几帳面そうなのに意外と伝えたら、副隊長が荒らしに来るからと言われた。
なるほど、やっぱりスミンさんは几帳面でしたか。
「それで、なにかあったのか?」
「あ!忘れてた」
そうだったそうだった。
ランチを一緒にと思ってたんだったっていうことを思い出したと同時に悩んでいた理由も思い出した。
突っ走るのちょっと考えようぜ、私。
「やー、スミンさんお昼ご飯どうされます?」
「あぁ、いつも適当に食べに行くことが多いが…」
「あぁよかった!持ってきたんです、一緒に食べないかなって」
いやよかったのか?彼女いるかもしれないのにこんなことしていいのか?
でも、いつもより揺れが少ないとはいえ、尻尾揺れてます。
あ、仕事中は自制がきくのかしら。うーん、あの千切れそうなぐらいぶんぶんしてるのもかわいいけど、耐えてるのもかわいい。
「私の世界の料理に近いんですけど、おいしくできたので」
はい、とひとまず一つ渡す。
中身はローストビーフにサラダ菜っぽいもの。ソースは昨日のもの。
「は!食べられないものあります!?」
今更感すごいけど、犬とか猫とか食べちゃダメなやつあるよね!?と思って聞いたが、そんなものはないらしい。
強いて言うなら、個々で好き嫌いがあるぐらいだろうとのこと。
それなら安心。
「いただきまーす」
もふっとスミンさんがかぶりつく。
そして目をカッと見開いた。すごい反応があるからこの人みてて飽きない。
「うまいな!」
にっと笑ったその仕事中用の笑顔も素敵です。あぁカメラが欲しい!残したい!毎日眺めたい!
しげしげと中身をみているが、耐えきれずにまたかぶりついている。
あぁよかった!美味しいんだ!
「この肉、昨日買ったやつか?こんなにうまくなるんだな」
「そうですよ。スミンさん仕事中だし手軽に食べられて、お肉の方がいいかなって思って」
手に付いたソースを舐める仕草で私ノックアウト寸前です。
色っぽい。そう、色っぽい!なんだろう、スミンさんって色気醸し出してる。なんかでてるんじゃないのってぐらい。
あ、フェロモンですか。
もう一個渡せばいそいそと食べ出す。
来てよかった。これで気が滅入りそうだった薬作りも頑張れます。
「こんなうまいもの食ったんだから、午後も仕事がんばれそうだ」
「それはよかった!」
さすがオオカミ。いや、成人男性?隊長さん?めっちゃ食べたね。
手のひら大のローストビーフサンド6つは食ったよ。たくさん持ってきたけどまだ食えるなとか呟いてるからね。
おやつにどうぞ、と昨日も食べたマドレーヌを渡せば出ました!輝かしい笑顔!!
私も頑張れる!!
また今度差し入れしよう。この笑顔のために!!
カメラって開発できますかね?神様。