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大量の荷物を持って帰ってきて、お茶でもと思ったらスミンさんはなにやら行かなければならないという。
私には全く聞こえないが、集合がかかっていると。
なんとまぁ素晴らしい聴力ですね、本当に。
気をつけてーと見送り、じゃあ折角だから焼き菓子でも作ってみるかと本を開いた。
元々お菓子つくるのは好きだし、苦ではないはず、と思いきや。
なんと計量カップが存在しないではないか。
お菓子とか薬が衰退した理由がわかった気がする。細かい分量が存在しないから失敗するのではないだろうか。
これはどうしたものか。
いやでも食べたい。うーん。
本をぱらぱらめくったら、小麦のようなものを売る枡っぽいものは同じサイズなのだという。どこの家でも店でも。
あー、これでこの人は分量計っていたのか。すごいな。
研究してるわこの人。
これで問題なくお菓子がつくれます。ありがとうございます。
鶏卵じゃないだろうけど、卵もあるし、牛乳もあった。
この世界なんでもあるといえばあるのかもしれない。だからこの人もきっと生きていられたんだろう。
重曹代わりにはこれを使う、まで書かれているからよっぽど頑張ったんだろう、本当に。
いやまて、オーブンとかないよね?と台所を見渡す。
釜がある。うん。あれ現代人の私にはこれが一番の難関じゃないか?
何よりものヒントが書かれている本をぱらぱらめくると、この世界には当たり前だがオーブンはなく、釜で焼くと。
調節は魔力と書かれている。
いや待って?魔力?私なくない?
ていうか、魔法あるのこの世界。すごい世界じゃない、これ。
ぱらっとめくると、この世界の人間なら誰でも使えるらしいが私は使えなかったので誰かに手伝ってもらう必要があった、だと?
あれこれ私も?いやでももしかして喋れている私にはそれさえ問題なく使えるというオチがついてきたりして?
じーっと本と釜を見つめ、ボソッと呟いてみた。
「余熱170度」
ぼっと火がつきました。
こわ!私こわ!!なんでもありか!?
え、なにあのちゅーにそんな効果あったの?まじで?すごいよスミンさん。
いやスミンさんがすごいのかわかんないけどすごいよ!
余熱が完了できたら焼けちゃうよ!
「よし!やるかー!」
さくさくっと粉をふるって、バターを溶かす。
卵を入れてよく混ぜて、さらに砂糖を入れる。
そのあと粉をいれたら、さっくり混ぜる。
型に流し込んで…
「あち、180度で20分」
任せろ!とでもいいたそうな感じで釜が火力を少しあげた気がした。
すごいな。
某アニメ映画にでてくる火の妖精?精霊?みたいになってない?
喋ったり顔があったら卵の殻放り込んだのに。
ちなみに型はこの家にありました。さすが文献さん。
ありがたく使います。
お、いい匂いしてきたー。
これは期待できるやーつ。
ふんふんと上機嫌モード突入やで。
これであのなんとも言えない食事から少し解放されるかもしれない。
いや食事があるだけ非常にありがたいんですけどね?あれはおいしい!てなれないの。
なのに他の人みんなおいしいって食べるからもうなんとも言えないよね。
味覚がこの世界の人と違うのかもしれないから、もうそれもどうしようかしら…っていう理由で城をでたかったのですよ。
私の好きにさせて!と。
困っちゃうよねー。
なんて独り言を漏らしながら、買って来たベリーっぽい果実に砂糖をかける。
小麦っぽいのがあるなら、パンが焼けるわ。
城ででた、フランスパンよりはるかに凶悪的な硬さのパンではないふわっとしたパンが!!
ならジャムは必須ですよ。柑橘系っぽいのもあったから、すこし味見。
あ、これオレンジっぽい…ようなみかんのような?
まぁ、マーマーレードになっておしまい!!
ということで、これも砂糖をまぶしておく。
皮はよーく洗ってから刻む。一応ね、薬品とかないかもしれないけどね?気分は外国なんですよ。外国の果物ってワックスすごい印象あるじゃん?
あくまでも印象なのは知らないからだけどさ?
あ、そろそろ20分たっちゃう。
ひょっと釜を覗き込めばいい焼き色になりました、簡単マドレーヌ。
細い枝のようなものをすっと刺しても…なにもついてこない。よし、完成です。
いそいそと取り出して冷ましていく。
よしよし、じゃあ次の生地には紅茶の茶葉を細かくしていれてみましょうかね。
お薬つくってたんならあるでしょう!と発掘したのは乳鉢。これで紅茶を細かくすり潰します。
あとは先ほどの作り方と一緒。粉と一緒に追加して混ぜて、焼く。
果物もいい感じに水がでてきたから、鍋に移して中火で煮立てて、アクが出たら取り除く。
とろみがでたら、これも完成。
空き瓶を煮沸消毒しておいたものに、いれる!
「いい色!」
綺麗な色だーとクルクル回っていると、夕月と呼ばれた。
この声は!っていうか、私スミンさんとドヤ顔医者とその周りの人しか知らないっていうね?
扉を開けると、やっぱりスミンさんがいた。
「なにをもっているんだ?」
あ、ジャム持ったままだった。
どうぞーと招き入れ、お茶とマドレーヌを出す。
この世界、紅茶はめちゃくちゃおいしいです。なんというか渋みとかえぐみが全くなくて、とっても飲みやすい。
これはとてもいいことだ。
「なんだ?」
「お茶菓子ですよ。甘いものですね。」
結局帰ってから作ったりしていたからお昼ご飯もまだなのだ。
軽いランチとして付き合ってもらってもいいだろう。
いただきます、とマドレーヌに手を伸ばす。
ほんのりあったかい。しっとり、バターの風味がいいですね。これは現代でも売れるレベルの美味しさ!
「んーまい!!」
「こどもみたいな顔をするな」
呆れた表情でこちらを見ていたスミンさんもマドレーヌを一口。
尻尾がぶわって膨らんだ。ぶわって!
そのあと高速で揺れている。めっちゃ揺れてる。あれ、すごい。千切れないの?
「うまい、なんだこの味は!こんなうまいものがあったのか!」
わぁめっちゃ褒められてる!
しかもいつものきりっとしたお顔はどうされたんですか。めっちゃ笑顔。すんごい笑顔。
やばい。私の心臓止まりそうなぐらいの破壊力を持つ笑顔だわ。
かわいい!
「お口にあってよかった」
ちょっとすましていってみたけど!!
もっと笑顔が見たくてさりげなく紅茶入りのやつをお皿にのせてみたら、いいのか?とまた一口。
あぁぁぁー、眩しい!その笑顔眩しい!その笑顔100点!私の心臓頑張って!
「夕月はなんでもできそうだ!」
素晴らしい悩殺笑顔で私昇天しそうです、神様。