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目が覚めて、医者がきて
「わしが言った通りじゃろ」
なんてドヤ顔してるけど、いや確かに10日ぐらい寝ていたみたいだけれど。
私キスの前に目覚めてましたが。その間にされたキスでなにか蓄積されるんですか、ね?
というかこのスミンさんも残念な役を押し付けられて可哀そうに…と思わず申し訳なくなる。
いくら助けるために人工呼吸したからって、そのあとそのまま目覚めさせるために毎朝口づけって不幸すぎないかしら。
私からしたら、モデルですか?と聞きたくなるスミンさんの口づけは今考えればラッキーと思えるぐらい。
ただ、さっきも説明されたように、私はこの世界の異界の者らしい。
一千年前の文献に残っていたのじゃ!と医者がまたドヤ顔を決めているが…。
どうやらその文献にも、魔力をためる泉から出てきた人がいたらしい。その人がなにをしゃべっているのか全くわからなかったそうだ。
いやまて、私めっちゃわかる。
めっちゃ理解してるで、言葉。でも見せてもらった文献は全く読めなかった。
どこで言葉理解したの?私。
魔力の水飲みすぎた?
というか、私もわかってるけど、スミンさんにも伝わってたよね?
「お前、名前は?」
ドヤ顔医者に、さすがでございます!と人が集まっているが、スミンさんだけが目の前に跪いている。
こんなイケメンが…。いや、単純に背が高い人なので目線を合わせるためにしゃがんでくれているんですけどね。
やさしく手なんて握られたらもうときめくわ。
「えっと、飴 夕月です。」
「綺麗な響きの名前だな。」
この人女ったらしですか?さらっとこんな言葉言えるとか、もう私の心臓持ちません。
顔が熱くなるのを自覚していると
『え!?しゃべってる!?』
と、先ほどの医者軍団がたいそう驚いていた。
それもそうか。きっとしゃべれない、わからないと思っていたんだろう。
スミンさんは、確かに伝わってるな、とことの重要さに今気が付いたようだ。
確かにわかる、と頷いてるけど天然なのかしら?
ドヤ顔医者になぜわかるのだ!?と質問されても、わかりません、しか答えようがない。
思い当たる節はないのか!と言われても、落ちて溺れて救出されて今さっきまで寝てましたけど。
いやいやいや、ぶっちゃけもしかして?と思ってるなんてそんな、ねぇ?
文献の人との差が、泉から出てきたとき私は溺れてたっていうことですし?
確か人口呼吸されたあとに、大声でしっかりしろ!と叫ばれた覚えがあってその時にはすでに言葉わかってましたし?
そうなると可能性として、ちゅーしたら…と、なるわけで…
ないないないない!
たまたま!たまたまやって!な!?
ぶんぶんと頭を振ってその考えを払いのける。
「おい、夕月が困ってる」
どうやら自分の世界に入り込んで考えてる間に質問攻めになっていたようで、答えずに頭をぶんぶんと振ったものだから、勘違いをさせてしまったらしい。
また明日来るからゆっくりするのじゃ!と言い終わると同時に扉が閉められた。
「すまない、疲れただろう」
困った奴らだと呆れた顔で言いながら、気を遣ってくれているのがわかる。
ご迷惑ばかりをおかけしております、はい。
本当に異界なのかを確かめたくて、外を見たくなった。
立ち上がろうとするも、10日も寝ていたため脚に力が入らずへたりこんでしまう。
筋力って、簡単に落ちるのね。
「どうした?」
「あ、外をみたくて」
すいっと自然な流れでお姫様抱っこされました。
これ私は鼻血でちゃう。ていうか重くないのかしら、私むちむちですけど。
そのままバルコニーらしきところに連れて行かれて、外を見ると言葉を失った。
見渡す限りの草原。
大きな月が空に浮かんでいる。
「異世界だわ」
「夕月は異界の者だからな、この世界に驚くことは当然なのかもしれん」
風が冷たいから室内に戻ろうと、早くに部屋に戻られる。
確かに冷たい。さっきまで蒸し暑い梅雨の季節からやってきたから、急激な温度差に体調を崩していたのかもしれない。
自分の服も着ていない。この世界のものらしいワンピースを着ている。
「あの、服は…」
「さすがにナースが着替えさせた」
「そうですか…なんかすみません、ご迷惑ばかりおかけして」
「いや…逆にすまない」
ベッドに戻され、柔らかい素材のストールっぽいものを肩からかけてくれる。
その顔がバツが悪そうで、どうしたのだろうと気になる。
あれもしかして、私なんかやらかしてる?
スミンさんに嫁がいるとか!?なのに医者に言われて口づけて離婚危機とか!?
「その、獣人に口づけされていたとわかって不愉快だっただろう。俺たちは嫌われている存在だとわかっていたのだが…」
ん?なんだって?
とりあえず離婚危機とか私がなんかやらかしているわけではなさそうだ。
「え?いいえ!逆に私みたいなどこのどいつかもわからないような、しかも本当に普通以下の女にそんなことさせてすみませんでした。どうせならめっちゃ美人だとよかったでしょうに」
「いや、夕月はかなりの美人だろう。この世界の誰よりも」
やだスミンさん。お世辞がお上手。
ただ私は本当に平凡というか本当に普通以下の女だ。
目も一応二重だけど奥二重だし睫毛ふさふさ!には程遠いし、鼻が低い。口もおちょぼ口で好きになれない。身長は168でそれなりに高くても、残念なことにお腹がぷよぷよだ。というか全体的にややむちっとしている。
これは最近仕事が忙しいことに託けて不摂生と運動してなかったしわ寄せだけども。
「いえいえ、こんなむちむちの女に…。お世辞でも嬉しいです」
「いや、夕月は美人の自覚がないのか?あの時いた俺の部隊の奴らは美人すぎて直視できない!と騒いでいたぐらいだぞ」
あれ?なんか話がおかしな方向に進んでませんかスミンさん。
ボケてんの?関西人として突っ込むべきなの?
と表情をうかがうも、至って真面目な顔そのもの。
これまじなやつやで。
「俺としてはかなりの役得だとは思ったんだが、なんせ獣人だからな。目覚めてから罵倒される覚悟はできている。遠慮なく言ってくれて構わない。」
表情こそ、キリッとしているが尻尾も耳もぺたんとしている。
これって悲しんでるよね?
オオカミって言ってたけど、犬って怒られたらこんな感じになってた気がする。
そんなことない!と反論しても、いやそんなわけないんだ、と頑として受け入れないスミンさん。頑固。めっちゃ頑固。
どうやら美的感覚がちょっと違う世界のようですがありですか?神様