残念系女子とイケメン獣人
非常に困ったことになりました。
ここは地球ではないもう一つの世界。所詮異世界と言われているようなところ。
自然がたくさんで、のどかで。
ただ、魔法が使える不思議な世界。そして騎士団が街を守り、馬車が移動手段という世界。
そんな世界にある日落っこちたのは、私。
飴 夕月
仕事に向かう途中、いつもの道を歩いていて、車をよけるために浅い水たまりに足をつけたら、そのまま水たまりの中に落ちました。
がくっ!と大きく踏み外して、最後に見たのは、避けた車の運転手さんのびっくりした顔だった。
そりゃあびっくりだよね。私もびっくりです。なんでこんなに大きな水たまり?いや、深い水たまり?
―…あ、息できん―
泳げるけど、急すぎて上がどっちかもわからない。
がぼがぼと口から空気が逃げていくのをぼんやり見つめて意識が薄れていった。
次に目が覚めたのは、肺に息が吹き込まれた感覚だった。
「ぐ、げっほ、ごほ」
「しっかりしろ!」
だいぶ飲み込んでいたのかもしれない水を吐き出す。
急に酸素がまわったからか、水を大量に呑み込んでいるからか、何も考えられない。
結局、どこの誰が助けてくれたのかもわからないまま、その人が大声で叫んでいるのをなんとなく認識しながら、また意識を飛ばしてしまった。
さらっとしたシーツの感触といい匂いに、ここはもしかして天国かな、と思う。
いや天国でベッドで寝かせられてる状況もわからないけど。
目を開けたいけど、もう少しこのままでいたい気持ちもある。
かちゃんと扉が開く音と誰かがベッドに腰掛ける感覚。
起こされるのかしら。
起きてることを示すために目を開けようとしたら、ふに、と唇に何かが触れた。
「…え?」
「起きたか、やっと。医者の言ってたことは確かだったのだな」
目の前にはぴこぴこと揺れる犬っぽい耳と、切れ長な目。
そのまま背中に手が差し込まれ、起こされると視界には揺れるしっぽまで見えた。
「魔力をためる泉で不自然な気泡が見えたので、念のため潜ったらお前が沈んでいく途中だったのだ。助けた後も意識を失って起きぬから、医者に見せたら毎日口づければ目覚めるというのでな。お前は異界の者ということで、念のため他の者にあまり接触されても、ということと、俺は助けるときに人工呼吸をしているし、もう気にするものでもないかと思ってな。」
そういってしゃべるこの人は、確かに言った。
毎日口づければ目覚めると。
「あ、の…どれぐらい、ねてました、か?」
「あぁ、そうだな10日ぐらいか。あと俺の名前はスミン。オオカミの獣人だ。」
これが、スミンと私の出会いだった。
どうやら私は、今名前と顔を認識したオオカミの獣人のスミンのキスによって目覚めたらしい。
こんな出会いありですか?神様。