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さて久方ぶりの投稿です。同時に話の展開のため、前話の一部を修正しました。

「うーん、まあそういう事なら仕方ないわね。」


「あーあ、せっかくだからみんなでいろいろ観光しようかと思ってたのになー。現実のこの辺には来たことなかったし。」


 帰船後、食堂に集まって待機していたメンバーに八艘の決定を伝えると、不満はでたものの全員の了承は得られた。どうやら甲板から見えた街や港の被害の多さが後押しとなったようだ。


 観光気分に水を差されて残念がるはくしゅやせーでんきがいつの間にか立てていた散策計画を練り直している。

 だが眉間にしわを寄せながらも楽しげにしていたはくしゅがふと顔を上げて、質問してきた。


「ねえ、幽夜。私たちはそれでいいと思うけど、マルシェちゃんについてはどうするつもりなのー。あの人は大地人の商人さんだし、私たちはその護衛でしょ。誰かついていなくていいの。」


 そのはくしゅの指摘に一同は固まった。成程確かに彼女の言う通り、今回の依頼は物資の移送とその護衛であるがその対象には彼女の身の安全も含まれていた。

 その時はゲーム時代と同じように街の外にいるときだけのことだと思っていたが、港や街に襲撃があるとなればそうも言ってられないだろう。


「あれ、船長。もしかしてこれってちょっと不味いんじゃ。話だといつ襲撃があるか分からないって言ってましたよね。」


 ておぱるどの言を聞くまでもなく、これは不味い。もし今襲撃がありその結果ここで彼女の身に何かあれば当然依頼は失敗になるだろう。そうなればここまで来るのに費やした資材も苦労もすべて水の泡と消えてしまう。

 考えてみればそもそもゲーム時代では見えずとも勝手にパーティーにくっついてきていて、必要な時だけ現れたのだから特に気にする必要もなかった。だが<大災害>を経た今ではそんな都合のいいことはもうないのだ。


「やばい、完全に見過ごしてた。ええと、まだ彼女は船に戻っていないよな。」


 焦る私の言葉に留守番をしていたメンバーが肯定の意を返す。


「どうするの、幽夜君。探しに行ったほうがいいと思うけど。」


 せーでんきの言葉に焦りを心の奥底に追いやって考える。そして思いつくままにあたふたしながらも、指示を次々に口から出していく。


「まずは八艘や、山風に連絡する。もし捜索中に襲ってきたら追い払ってもらおう。それからカシスとせーでんきは船に残って留守番と護衛を頼む。私とておぱるど、はくしゅの三人で彼女を探しに行こう。全員完全装備で持ち場に。それじゃあ、行動開始。」


 その言葉に一同が動き出す中、私は八艘に念話をつなぎその事について報告する。同じくその危険性を見過ごしていた彼も珍しく焦りをにじませ、すぐに捜索のための人手を回すことを決めた。


「よし、二人ともそろったな。行くぞ。」


 完全装備で全身鎧を纏った二人と合流した私は岸へと渡された板を賭け下りると、両手に持った魔術書を開いて<一角獣(ユニコーン)>を呼び出す。

 流石に街中で不死系従者を呼び出すわけにはいかないだろうし、デカくて鈍い<岩石人形(ゴーレム)>などもっての他だ。それ以外に契約している精霊二体はどちらも戦闘ならばともかく今の状況では役に立たない。第一この街で<不死鳥>などを呼べば騒ぎになること間違いなしだろう。


 消去法で選んだ従者の背にまたがった私は二人から離れないように速度を抑えつつ、彼女が向かったという街の方へと港の中を疾走する。


「とこらで、船長。マルシェさんてどこにいるんです。」


「知らん。あー、きっとあれだ。商人なんだから商館か酒場とか。あとはどこかの豪邸とかか。」


「あ、二人ともストップ。あそこにいるのマルシェちゃんじゃないの。」


 私とておぱるどがその進路を決めかねていると、突然はくしゅがその足を止めて港の一角を指さした。小山を背に似たような建物が並んでいることからおそらくは倉庫街なのだろう。その手前で数人の屈強な海の男たちと話をしているのは確かに探し人であった。


「あら、みなさん。そのような出で立ちで外出ですか。」


 騒々しく駆け寄ってきた私たちに気が付いたマルシェは首をかしげながら尋ねてきた。その答えを返したのは一番先にたどり着いたはくしゅである。


「マルシェちゃんの帰りが遅いから、みんな心配して迎えに来たんだよー。モンスターの襲撃もあるかもしれないって聞いたら、幽夜とかもう動揺しちゃってさあ。」


 嘘は言っていないが明らかに印象操作が為されたその言葉に私は逡巡するも結局は何も言わなかった。それはその言葉を受け取った彼女の様子をおかしく感じたからかもしれない。


「……<冒険者>様が必要もないのに<大地人>(わたしたち)の心配を?……。」


 ほとんど言葉にならないその呟きは冒険者の強化された聴力でもすべては聞き取れなかったが、同時に向けられた私やておぱるどへの視線には驚きと困惑があった。

 それらに引っかかるものを私は反射的に問おうとするが、それよりも早くマルシェはいつもの笑みへと表情を戻して礼を言う。


「まあ、そうですか。わざわざありがとうございます。ちょっとこの方たちと話し込んでしまって遅れてしまいました。……、ええ。少しお話したいこともありますので船へと戻りましょう。」


 先ほどまで話していた男たちに向かって最後に二言、三言交わした彼女は、まだ引っ掛かりを解けない私をよそに船へと向かって歩き出した。他の二人もそれに続いたが、しかしその場に留まったままの私を奇怪に思ったのかておぱるどが足を止めて振り返る。


「どうしましたか、船長。何か気になることでも。」


「何か引っかかった気がしたんだが、それが分からなくて悩んでいた。」


 訝し気な問いに素直に答える私にマルシェを追ったまま足を止めなかったはくしゅが声だけをかけてくる。


「うーん、何を悩んでいるのかはしらないけど、それってもしかしてアレのことー?」


 そう言って彼女が指さした先には武器を手にした物々しい姿の集団がいた。こっちに向かって駆けてくる十人ほどの集団の中に八艘の顔を見つけたておぱるどがこっそりと私に話しかけてきた。


「何か、無駄に騒ぎを大きくしただけでしたね。どうするんです、船長。」


「聞くな。今考えているから。」


 殺気立った様子でこちらにやって来る一団の姿を認め、私は力なく答えるしかなかった。





 その後、私は無駄に騒ぎを大きくした事で山風達から嫌味と共に貸しを押し付けられることになった。まあ、すわ緊急事態かと本気装備一式を着込んで出撃したはいいが、何もなかったのだ。そう考えると仕方ないかもしれない。


 そんな風に一騒動の後始末を付けたのち、私は八艘や山風達と共に<幽霊船>の船長室にいた。正面にすわるマルシェから相談したい事があると言われたためだ。

 こちらとしても今回の件のように護衛などいくつか確認しておかなければならないことが発覚したために、その提案は渡りに船の形となった。


 彼女の相談事については後で構わないと向こうが申し出たので、まずはこちらからの確認を済ませる。

 護衛については街の中にいる場合は必要だと思ったら協力をお願いするので、それ以外の時は考えなてくれなくていいとマルシェは言った。

 だが突発的事態が起きたときのためにも同行者を一名は連れて行ってほしいという私たちの主張に何か考えを改めたようだった。


「では、早速お願いさせてもらっていいでしょうか。」


 その言葉を皮切りに相談事について彼女は語り始める。


「実は明日、この<ヒュウガ>の街を治めるオージュ=サンクルス様にお目通りがかなうことになったのですが、その席に<冒険者>様を同席させてほしいと条件を付けられてしまいまして。なぜなのかはおおよそ想像はつくのですが……。」

 

 そこまで言ってマルシェは言葉を濁した。同時に私たちを見る視線にはこちらの様子を伺うようなものを感じる。

 その意味をおおよそのところ理解しつつも、私は黙ったまま話の続きを促した。


「とはいえ商人としては直接領主様と面会できる機会を逃したくはないのです。どうか明日、わたしと一緒に領主様と会っていただけないでしょうか。」


 歯切れの悪い口調で困惑の表情を浮かべているところから、彼女自身にも予想外の出来事だったのだろう。それでも想定外の出来事も好機に変えようとは、なんとも若さあふれる商人らしく感じた。


(まあ、モンスターの襲来を受け続けている街の領主がわざわざ<冒険者(私たち)>を招くなんて理由は一つだよなあ。)

 

 戸惑いながらも商魂のたくましさを感じさせるその強い視線を避けるように思案顔を見せつつも、心の中でこっそりと呟く。


 八艘も特に何も言わなかったが明日、私と山風に同行するように言ったところを見ると、同じことを察しているのだろう。

 一方、古くからの友人はすました顔をしてその要請を受けたが、その内心は思わぬ機会が得られるかもとワクワクを必死に抑えているはずだった。

 

 私たちの了承を得て少し表情を緩めて笑顔で当てがわれた船室へと引き上げていく彼女を見送ったのち、八艘はこの遠征の主要メンバーである他三隻の船長を呼び出した。


「それで、一体どうするよ。」


 先のマルシェの要請を話し終えると、<渚のジョナサン>号船長を務めるキューブは言った。その顔には余計な面倒は勘弁だという本音がありありと見えるようだ。一方その隣では<ジョーカー>のアンナ船長が来る面倒事に心を躍らせている。

 露骨に内心を露わにする二人にたしなめる視線を送りながら、<銀カジキ>の船長、スミトモが話し出した、


「わしとアンナ、それにキューブの班は予定通り、護衛の一隊と共に採集活動のためこの港を出ていく。笑福どのは街に残りたいとさっき希望をだしてきたが、残りの<第八商店街>の面々も一緒だ。マスターからの要望でもあるし、変更はできん。それに幽夜達もあの嬢ちゃんの護衛で街を離れる予定なんだろう。」


 明日以降の予定を確かめてくる彼に対し私はうなずきのみで肯定する。それを見て取ったスミトモは航海に当たって丁寧に整えたカイゼル髭をいじりながら街に残る八艘へと視線を転じて言った。


「もし、領主の依頼がわしらの想像通りだとして、それに対処するのにお前らだけで手が足りるのか。」


 強い口調で問われた八艘は少しの間、思案顔を見せるもやがて肩を落として答えを告げる。


「ふう、正直厳しいだろうな。かと言って他から引き抜くと今度はそっちが危なくなる。とりあえず明日の会談次第だ。」


 無理はしたくはないが、状況がそれを許すかどうかとでも考えているのだろう。同じ予感は私も感じていた。


「まあ、これもクエストの一環かもしれないし、具体的な事が分かったからで決めればいいんじゃない?先のことよりもまずは目先のことを考えれば。」


 議論に飽きたアンナによる投げやりぎみの提案が結論となり、話し合いは終了する。解散の後、それぞれの船に帰ろうとする面々の中からこっそりと山風に話しかける。


「おい、いいのか。予想通りなら多分お前のところに負担が来るぞ。」


「なに、大丈夫だ。いい加減船に缶詰は皆飽きていたからな。ギルマスとしてはここらで発散しておきたいと思ってたところだ。丁度いい機会さ。」


 そう言って能天気に笑う旧友に私はあきれた表情で返す。だがそのあと、のんきな顔を真剣な表情へと変えると逆に聞き返してくる。


「というよりそっちこそ大丈夫か。俺たちが港に張り付いていなきゃいけないとくると、助けを求めてきても応えられんぞ。」


 その答えにうっと詰まる。確かにマルシェについて街を離れる間、何かがおきれば街にいる彼らに助けを求める予定ではあった。だがもし<ワイルドハント>の面々が船から離れられないとすると、襲い来る危険を私たちの班は自力で切り抜けなければならなくなるだろう。


 だが今更怖気つくわけにもいかない。にわかに沸き起こった不安を無理やり押さえつけるようにあえて明るく答えを返す。


「まあ、商業系のクエストなんだ。それに変則気味とはいえ<ナカス>で受けたクエストだし、そんなに厳しい戦闘とかはないだろ。多分。」


 それが<大災害>後のこの世界ではもはや甘い幻想でしかないことをその時の私はまだ知らなかった。





 あくる日、午前の早い時間に私はマルシェのお供として山風、それに飛び入りとして加わった笑福と一緒に街の中心にある領主の館へと向かった。石垣で補強された高台の上に築かれた木造の館は南国らしい開放的な造りで、深い軒下に巡らされた外回廊からは街と港が望むことが出来る。

 


 これまた南国らしくゆったりとした服装の使用人に案内されたのは広い板敷の間であった。柱以外に外と遮るものがないこの間は風通しがよく、晴天の下を駆けてきた風から熱を奪って気の早い夏の気配を遠ざけてくれる。


 マルシェの後ろに控えてしばらく待たされた後、奥より数人の侍女を引き連れた男がやってきた。よく日に焼けた肩や足をむき出しに、南国の風情を感じさせる明るい色彩の衣装をまとう三十代後半とおぼしき男である。

 付き従う侍女も男より劣るとはいえ色彩豊かなひらひらした衣装を身にしており、その様は華美な花に集まる蝶の群れにも見えた。


 とりあえず事前に言われていたように私たちはマルシェに従って床に手をくと、頭を下げて礼らしきものを示した。その横をゆうゆうと通り抜けていった男は、一段高くされた畳敷きの上座に上がるとそのまま腰を下ろす。

 そこからマルシェやその後ろの私たちを見る彼の顔には外の晴天とは裏腹に、暗い疲れた表情が見られた。しかし一方でその眼光は鋭くこの街の主にふさわしい貫禄を感じさせるのに十分だ。


 男は連れてきた侍女を脇に控えさせると、今一度マルシェとその後ろの私たちを一見したのち口を開く。


「<ヒュウガ>領主、オージュ=サンクルスだ。よい表を上げよ。」


 その言葉に許しをえてマルシェは顔を上げて姿勢を正すと、私たちがそれに習うのを待ってから名乗った。


「<アキヅキ>の商人、マルシェと申します。こちらは<冒険者>の幽夜さまと山風さま、そして笑福さま。ここまでの道中の護衛を務めていただいております。」


「ほう、やはり<冒険者>か。成程のう。それにお主はカマラの娘じゃな。以前に会うたこともあるじゃろう。」


 マルシェの口上にそう言葉をもらしたオージュは相好を崩した。どうやら彼女の母親とは付き合いがあったらしく、その娘というマルシェとも何度か対面していたらしい。そのためしばらくはその敏腕と言われた女商人の活躍と、南洋に消えたその末路を惜しむ話が続いた。


 当然その人物を知らない私たち〈冒険者〉は置いてきぼりである。したがって私は長話に耳を傾けるふりをしながら黙って床板の数を数えていた。山風は半分意識を飛ばしながらも耐えていたが、その一方で彼女と同じ〈交易商人〉をサブ職業としている笑福は興味深そうに耳を傾けていた。


 過去話が一段落し、献上した品々に対するマルシェの紹介など領主への謁見は順調に進んでいく。そしてその間私たちはずっとそれらの背景と化していた。

 しかしマルシェとの間で幾つかの約定が成立した後、オージュが放った言葉によって場に引き出される。


「時に〈冒険者〉達よ。一つ頼みがあるのだが。」


(来たな。)


 真剣な表情と共に声をかけてきたオージュに私たちはようやく本題が来た事を知る。それに伴って浮き上がろうとする緊張を表に出さないようにしつつ、私は答えた。


「はあ、何で御座いましょうか。」


 人々の上に立つもの特有の威に圧され、根が小市民な私は取りあえずそう答えておいた。あまり敬意の感じられない言葉であったが、しかしオージュはそれを気にせずにその頼みを口に出した。


「うむ。既に知っているのかも知れないが、ここ最近わが〈ヒュウガ〉の街の港は海竜どもの襲撃に悩まされておる。先日も近海まで来ていた船が三隻、奴らに沈められた。今のところは何とか港の中への侵入は阻んでいるのじゃが、体当たりで防壁を崩したり、壁を越えて飛んできた水弾によって船や建物に穴を空けられたりとかなりの被害も出ておる。」


 そこまで話したオージュはため息を一つくと、私たち向かって言った。


「わが騎士団も奮戦しておるのじゃが、海たけでなく陸でもモンスターの行動が活発化しておるために手が足りておらん。特に港を襲っている海竜どもは強く耐えしのぐだけで精一杯じゃ。そこで〈冒険者〉どのの力でどうかその海竜どもから港を守る手伝いをしてくれんか。」


 そう告げたオージュは頭を下げる。それから目を離した私は取りあえず現在の雇い主であるマルシェの方を伺って見る。たが彼女は私の視線に小さい頷きを返してきた。

 どうやら受けても構わないという意思表示だろうが、その一切迷いの見られない動作からマルシェは最初からこの事を想定していたのかも知れないとふと思った。


 ともあれ雇い主の許可はでた。隣の山風を見るが、彼は目で「受ける」との返事を返してきた。やはり戦闘系ギルドの長としては未知のクエストをこなす機会を逃したくはないのだろう。一方の笑福も何か思惑があるのか目配せを通してその意見を推している。


 念のため八艘にも念話で確認をとってみたが、こちらも受けるようにと指示をしてきた。まあ、話を聞く限りでは停泊中の船にも被害が出るかもしれないから当然かもしれない。


「分かりました、受けましょう。」


 私の言葉にオージュは顔に喜色を浮かべた。だが続けられた言葉にその顔を直ぐに曇らせる。


「ですが、あくまでも私たちはマルシェさんの護衛です。故にどれ程の力になれるかは分かりません。どうかそのことは頭に留めておいてくれますよう。」


 なぜ消極的な言葉を追加したのか、その理由は分からない。だがその時私はふとマルシェの依頼を受けたときのことを思い出していた。

 どうも<ナカス>での一件から<大災害>後の世界ではクエストの自由度も広がっているように感じていた。なのでどこまで口を出せるのか、といい機会だからそれを試してみたかったのかもしれない。

 取りあえず協力の範囲はなるべく狭くしておいて、まずは担当するであろう山風達の負担を減らしてみる。その後は……。


「では報酬についての話は私が受け持ちましょう。」


 私が小さく手で示した意を受け取って笑福が発言する。わざわざ意味ありげな目配せを送ってきたのだ。先程熱心に話を聞いていたり、昨日港の中を何人かとともに歩き回っていたことから、何か思いついたのかもしれない。なのでここは任せてみる。


 その選択が正解だったのはその後の彼の活躍によって証明された。それなりの時間をかけて決着をつけ、若干顔を渋くさせたオージュの館を辞した時にはもう昼に近い時間である。その後街の商館に向かうというマルシェについて街中を歩いた。

 周辺の花畑の香りに満たされたこの街は基本、陽気で明るく感じる。だがそれでも度重なるモンスターの襲撃による不安もまたこの晴天はくっきりと浮かびあがらせていた。


 その街を行く途中で観光ついでに迎えに来ていたはくしゅ達と合流した。どうやら昨日立て直した計画通り私たちを待つ間にそこらを散策していたらしい。

 晴れの陽気のように騒がしい女性三人組とマルシェの護衛を交代した私と山風、それに笑福はそろって港の方へと向かった。


 その道中、山風が感心したように言う。


「しかし、笑福さん。報酬金の代わりに、果物や野菜なんかの素材アイテムを大量に受け取るとは、中々考えたものだな。」


「ふふ。ありがとうございます、山風さん。実は昨日、倉庫街をうろついていたときに船が中々来ないから倉庫が開かなくて困っているという話を聞きましてね。元々海運で栄えた街とテキストにも書いてありましたから、もしかしたら輸出待ちのアイテムが大量にだぶついているのではないのかとふと思いついたのですよ。マルシェさんの母親の話の中でもこの街はそれらを多く輸出していると聞きましたし、ならばやるだけやってみようかと思いまして。」


 まあ、まさかこれほど上手くいくとは思いませんでしたが、と笑福は機嫌よさそうに笑った。それにつられて笑顔を浮かべながら私は彼に話しかける。


「成程。まあおかげでマスター代理から頼まれた分は何とか確保できそうです。これなら一班ぐらいは討伐や護衛に回しても大丈夫そうですね。早速八艘とも相談してみます。まあ、はりきって出ていったスミトモさんやキューブ、アンナには悪いですが。」


「ははは、お互い様ですよ。私の方も取り分は多めに頂きました。これでマスター(カラシン)からの要望もなんとか応えられそうです。最も……。」


 そこで視線を山風へと固定した笑福はその笑みを苦笑へと変えながら言った。


「最もそれは山風さん達の働き次第ですが。でもまあ、その点については全く心配してないし、大丈夫、問題ないですよね。」


 それを聞いた山風は胸を張って鬼鎧の胸甲を軽く叩くと意気も高々に請け合った。


「任せてくれ。皆、暇を持て余していたから気力、体力ともに有り余っているし、なによりも久方ぶりのまともな飯のためだ。今ならレイドボスだって叩きのめすだろうよ。むしろ暴れすぎないように注意が必要かもな。」


 この遠征船団の戦力の大半を束ねる男はそう言って晴天に笑い声を上げた。

ついに原作開始の日が。できればその瞬間に投稿したかったけど、間に合いませんでした。無念です。

なので明日、明後日にも続けて投稿する予定でその悔しさを埋めてみます。

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