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 はやめに上げたいといいつつ、三か月。ストックはあるのにその修正にやたらと時間がかかる。

 

 祈りが届いたかは知らないが、一時間後には私の船は無事に<セト>の海に浮かんでいた。

 途中、潮の流れに足を取られて引き綱が絡まったり、間にかかる<ビックブリッジ>の下部にマストの先端が当たりそうになったりと多少ひやひやしたところはあったもののなんとか海峡を越えることに成功し、ほっと胸を撫で下ろす。


 現在は後続を待ちつつ、仲間たちには交代で昼食を取らせているところだ。一応船のデータを呼び出してみても耐久度他に問題は見られず、また念のために行った点検でも異常は見られなかった。そのためか幾分の余裕があった。

 各乗員が思い思いお場所で休息を取っている間、私はせーでんきを共にマルシェを食事に誘ったのだが……。


「なんだ。結局当たり障りのない世間話だけで終わったのか。」


「うわー、情けないなあ。会食前には絶対奴の秘密を暴いてやる、とか言ってたのに。」


「情けないのはわかっているから、あまり言うな。凹むから。」


 会食後、成果を聞きにやってきた山風とはくしゅのその言葉はすでにフラフラだった私の心をさらに打ちのめした。故に反論の声にも力はない。

 肩を落とす私に隣でロープを指で遊ばせていたせーでんきがさらに追い打ちをかけてくる。


「顔は楽しそうだったし、話し方も穏やかだったけど、あれは絶対警戒されてたね。まだ誘いをかけるのは早かったんじゃないの。全く従者とは違って女の子の扱いがなっていないなあ。」


 そう言って彼女は大げさなまでに首を振って情けない奴アピールをしてくる。かくいう本人は会食中、四苦八苦しながら会話をつなぎつつ心の内を探ろう奮闘していた私を笑って見ていただけであったりするが。


 しばらく腹を抱えて笑っていた山風はしばらくして声を空に響かせるのを止め私に話しかけてくる。最もその口調の裏や顔にはしっかりとそのなごりが残っているが。


「まあいいか。多分無理だろうとは思っていたしな。それじゃあ、他に問題はないならそろそろ俺は戻るぞ。あと今の話は八艘船長にもしっかり伝えておくから。」


「ああ、トップ自らごくろうさま。八艘にもしっかり伝えておいてくれ。余計な部分は省いてな。」


 物笑いの種にされた分の恨みを込めたせいが幾分きつい言葉で返した。一応善意でわざわざやってきた相手に対してのその物言いにせーでんきが少し咎めるような視線を送ってくるが、この程度はいつもの軽口の範疇である。実際、山風も笑って流した。


「まあ、そういうな。船室でじっとたいきしているだけじゃ暇だしな。かといってそこらをうろついていたら邪魔になるだろ。そんなわけで少し気分転換したかったのさ。」


 実際面白い話も聞けたしな、と言って山風は呼び出した<銀尾翼竜>の背に乗ると、少し離れた位置に泊まっている<海魔>に向かって飛び立った。その際、上昇してこちらのマストの上を二度三度旋回していったのは本人も言った通り退屈しのぎの一環だろう。


「まあ、忙しくなられても困るし。護衛が暇ならいいことなんだが。」


 彼を乗せた翼竜が<海魔>の甲板に降り立つ様子を眺めながらそう呟く。なにせ彼らの役割は船団とその乗員の護衛である。その護衛が忙しいということはそれだけ危険な状況だということなのだ。


「とはいえ、退屈させたまま放っておくのも悪いか。あとで八艘たちと相談して簡単な手伝いでもおねがいしてみよう。」


 ほぼメンバー総出でギルドマスターの到着を迎える〈ワイルドハント〉の集まりを見ながらそう呟く。この体の恩恵のせいか、衝突を避けるために十二分にあけられた間を隔てた先の彼らの顔に少なくない退屈の色まで見てとれる。

 

 急な出発と航海内容のせいで人では十分とは言えない。彼らが手伝ってくれるならば多少なりとも乗組員の負担は減らせるはずだ。

 サブ職業が<船長>や<海賊船長>、<提督>などの上位航海系ならばPTメンバーに対して低レベルの航海技能を一時的に付加できるのは確認済みである。流石に船の運航指揮や操船は無理だろうが、見張りや帆の上げ下しぐらいならば大丈夫だろう。


 そんなことを考えていると念話を受け取っていたせーでんきがこちらを向いて報告してきた。


「八艘船長から連絡があったわよ。無事二隻とも海峡を抜けたみたい。点検と小休止が終わったら出発だって。」


「分かった。そろそろ休息は終わりだ。他のみんなにもそう伝えてくれるか。」






 その後は穏やかな航海が続いた。途中幾度かモンスターの襲撃もあったが、山風たちの迅速な対応で特に被害もなく撃退できた。もっとも本人たちは揺れる船に足をとられて転んだりと不本意な場面もあったようだが。


 ゲーム時代とは違い、自分のいるマップを見るミニマップ機能は使えなくなっている。しかし船に乗っている状態ならば〈船長〉などが作成できる海図を使えばおおまかな位置の判別は可能なため、夜間すら航行は可能なのだ。

 ただし今回は練度と人員不足の関係で夜間の航行は控え、日の入り前に適当な小島の入り江に停泊することにしたのだが。


 それでも風に恵まれたおかげもあり、翌日の昼過ぎには目的地であるナインテイル東岸の町<ヒュウガ>を望むことができた。


 事前にマルシェに告げられたように少し沖合で船団を止めると、知らせを受けた彼女が甲板にやってきた。

 大きめの鞄を手にやって来た彼女を待っていたのは旗艦から飛んできた山風と八艘他数名である。彼らはこれから船団の入港許可などを取るために先に港に入ることになっていた。


 マルシェおかげか諸々の許可を得て八艘達が戻ってきたのは間もなくのことであったがその中になぜかマルシェの姿はない。


「あれ、依頼主さんはどうした。」


 訝し気に山風に問いかけると、あっさりとした答えが返ってくる。


「ああ。なんでも街の領主と面会するとかで港に残った。夜には一度船に帰って来るそうだから昼食のリベンジならその時にすればいい。」


「それを引っ張るのはやめろ。まあそれはいいとして何だか浮かない顔をしているな。何かあったのか。」


 停船場所を記した紙を受け取りながら山風に尋ねる。その問いに山風は少し躊躇いつつも答えた。


「ああ、どうもきな臭い。よくわからんが警戒されているようだ。気を付けたほうがいいと八艘船長からも言伝を受け取っている。」


「分かった気を付けておく。とりあえずは港に入ってからにしよう。詳細はそのあとで聞かせてくれ。」


 その言葉にひょいと手を上げて軽く答えた山風はそのまま待機させておいた<鋼尾翼竜>の背に飛び乗ると他の船へと停船場所を記した紙を届けに行った。念話で伝えるのは厳しいとはいえ、それでも護衛の隊長に使い走りを頼むのはどうも気が引ける。


「色々世話になっているし何時か埋め合わせをしないとなあ。」


 そんな言葉を漏らしつつ、私は先程渡されたメモへと視線を落とす。私の肩越しからそれを覗き込んだておぱるとが素直な感想を漏らす。


「へ~、海側に突き出た中の港ですか。街から一番遠い場所を指定されるってことはやっぱり警戒されているってことでしょうかねえ。」


「さあな。一応冒険者用の港って注意書きはしてるが、どうなんだろうな。」


 互いに不安な予想を共有したところで、前に停泊していた<海魔>が動き出した。それを見て私もこの幽霊船を動かすための準備に入るべく声をかける。


「まあ、とりあえず入港しようか。体感的に初めて入る場所だ。油断はできないしな。」


 それで会話を終わらし、他のメンバーにも声をかけつつ入港に備えた。その視線の先にあるこれからしばしの拠点となるはずの街は、今はただ静かに私たちを見ていた。






 陽光の街<ヒュウガ>。名前の通り現実世界では九州東岸部の地、日向の場所にある。現実と同じく三つの港を要し、古くから南北のナインテイルをつないでいる海運の要所だ。


 また<不死鳥>の加護を受けているという伝承があり、それに関連したクエストがいくつもある。私を含む<召喚術師>ならば炎の上位精霊である<不死鳥>の従者契約クエストの始まりの地と認知しているかもしれない。


 街の北に進めば人造モンスターうごめく廃都市が、内陸に進めば<神祇官>や<吟遊詩人>向けのクエストが豊富な夜神楽の里<タカチホ>がある。

 一方南に進めば、南国風の広大な花樹海とそれに埋もれた古の楽園<ミイスホム>を初めとした高難度フィールドが存在し、それらへ向かう中継地や一時的な拠点としてゲーム時代には何度か滞在したこともあった。


 またよく晴れた空の下に広がる花畑が有名な街でもあり、ゲーム時代ではこのヤマトサーバーでも通年で人気の観光スポットとして名を馳せていた。しかし……。


「観光地の割には随分とボロボロだねー。あそこら辺の花畑なんてもうぐちゃぐちゃだよー。」


「ああ、あそこもひどいわね。よく見ると港の中もガレキが転がってたりするし。」


 水門を抜け、港を守る防壁内へと侵入した船の上から街や港の様子を一目見たはくしゅとせーでんきが率直な感想を漏らす。その言葉に妙な胸騒ぎを覚えながらもとりあえず私は桟橋への接舷作業に専念する。


「確かに壊れたりしている建物も多いな。妙に船の数も少ないし。港を囲む防壁もところどころ崩れていたし、モンスターの大規模襲撃でもあったのかな。」


 碇を海へと投げ込み、船を止めたカシスが二人の言葉に追従した。ようやく停船作業を終え、船尾に上がってしばらく世話になる予定の港をぐるりと見まわし、その言葉を認める。


 かなり広大な港なのだが、今のところ私たちの船以外の姿はあまり見られない。寂れた雰囲気は感じないのに妙に船の数は少なく、またよく見ればやけに多く武装をした警備の人員が港内や防壁の上を往来している。


「やけにものものしいな。警戒されているとは言ってたが、私たちの事じゃあないのか。とりあえず全員念のため武装して船から離れないように。私はこれから八艘達と一緒にここの責任者とかいうやつのところに行ってこなきゃいけないらしいから。」


 そう言い残し、かけられたばかりの木製タラップを下る。すると先に陸へと足を下していた山風が手を振りながら声を上げてやって来た。


「おおい、こっちだ。見ればわかると思うが雰囲気がどうもおかしい。俺たちに対してみたいじゃないが、もしかしたら手間取るかもしれないし、警戒しておけよ。」


「分かった。ともあれ、港の利用手続きだっけか。ゲーム時代には省略されてたようだが、なんでまたこんな時に限って。」


 そう愚痴をこぼしつつ、私は少し先で待つ八艘達が待つ場所まで向かった。





 予想に反して手続きは意外なほどに早く終わった。二、三の注意や港の規則などを口頭で伝えられるだけであり、サインだの書類だのはなかった。どうやらマルシェが手を回してくれたようである。


「さっき下したばかりだってのに随分と手が早いな、あの女商人。」


 とは山風の感想だ。


 とりあえず、停泊のための手続きを終え、この港で数少ない損傷が見られない管理施設から出る。途端に向けられる無数の視線を振り払うように船へと向かう。

 だがその途中で山風が先程聞いた話についてポツリと聞いてきた。


「ところでどう思うよ。さっきの責任者の話。」


「ここ連日モンスターに襲撃されている件か。十日ほど連日でやってきては暴れて帰っていくとか、なんでまたよりにもよってこのタイミングで。」


 追加されそうなトラブルに頭を痛めつつ、答える。それを受け、先程聞いた情報を確認するように八艘が言った。


「襲ってくるのは海竜だったか。二十匹以上の小型、中型と数体の大型が群れてやって来るって話だったな。防壁を破って港内へと侵入してくるって話だし、船の護衛を強化したほうがいいな。山風さん、頼めるか。」


 とりあえず対応を決めると船団の護衛を引き受ける山風に八艘は尋ねた。難しい顔をしながらも了解の意を伝えた彼はしかしその危険を軽減するための要望を伝えることも忘れない。


「まあ、やってみる。だが一応、なるべく船に留まってくれるようにメンバーに通達は出しておいてくれ。まあ無いとは思うが、万が一を考えるとバラけられると手が届かなくなるかもしれない。」


「とはいっても皆、上陸を楽しみにしていたから船に缶詰って訳にもいかないだろ。マスター代理の注文もあるし、外出時は武装していくようにってのが限界じゃないか。」


 だが山風の言葉に私は異を唱えた。その言葉は最もだが割と問題児が多いこの遠征メンバーが素直に従ってくれるとも思えず、しょうがなく口にだしたのだ。


「そうだな。じゃあ、なるべく外出は避け、もし外に出るなら武装したうえで最低三人以上で行動することを決めておくか。一応今回のメンバーはそれなりに戦闘出来るやつを連れてきたから最悪、逃げるだけならどうにでもなるはずだ。」


 山風の要望と私の意見を両方取り入れ、八艘が最終的な判断を下す。一応、復活が可能な冒険者だが、ここ実はここ<ヒュウガ>の街には神殿は無い。そのためこの地で死亡し、蘇生が間に合わなければ<ナカス>へと強制送還されてしまう。

 当然再度の合流など不可能なため、危険はなるべく避けておきたかった。


「新規クエストっぽいこの海竜の襲撃とか<ワイルドハント>の団長として気になるかもしれないが今回は自重してくれ。今度来るときには運んでやるから。」


「そうか、悪いな。なら今回は見送るようによく言い聞かせておく。その変わり次に来るときには頼むぞ。」


 内心気になっているであろう山風に釘を刺すついでに次回への気遣いをしておいて私は二人と別れ、船へと戻った。


「さて、どうやってあいつらを説得するか。大丈夫だとは思うが、それでもなぜか素直に聞いてくれる気がしないのはなぜだ。」


 なせかそんな矛盾する予想を覚えつつ、仲間が集まっているはずの船室へと足を向けた。

更新スピードを上げたいけどままなりません。とりあえず次は気長にまってください。

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