表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/20

10

戦闘の終結とナカスの現状について。何時もよりも長めになっております。

「君さあ、もしかしてわざとやっているの。もしそうならちょっと今後の付き合いを考えなきゃいけないんだけど……。」


 静寂を取り戻した夜の森のはずれ、木々もまばらな開けた場所に呆れたような声が響く。鈴を鳴らしたようなその声の中に静かな怒りは混じっているのを感じ、幽夜は身を小さくした。


 目の前の鎧姿の女性は地に突き刺した盾に腰かけてこちらを半睨みにしながら説教を続ける。彼女の後ろにも数人の顔見知りがいるのだが、彼女達も全員こちらを責めるきつい視線を送っていた。


「そもそも君が<ワイルドハント(ウチ)>の戦闘訓練に参加しているのも、不死系従者を怖がられて一緒にPTを組んで訓練に付き合ってくれる人がほとんどいなかったからでしょうが。それなのに骸骨マスクでさらに上乗せとか怖がられて当然じゃない。」


 ルーシェという名を持つこの<施療神官>の女性とは短くない付き合いなのだが、今その友誼も過去のものとされそうなのを感じた。一応反論してみる。


「真っ向からじゃないとはいえバランスのいい四人PT相手に半端な<召喚術師>が一人で挑むためには少しでも小細工に頼らないといけなかった。実際あの連中は骸骨マスクを恐れて追撃が甘くなったからギリギリ逃げる事が出来たし。それに皆がやって来る時間も稼げたのだから……。」


「黙れ!アイツラはともかくあの子達にさらなる恐怖を与えてどうするのよ。というか何であのマスクをつけたまま迎えにいったのよ。一杯一杯だったから忘れていたとか迂闊にもほどがあるわ。反省しなさい!」


 私の反論を一蹴したルーシェは少し離れた場所で固まっている女性陣のほうを見やる。その中心には件の少女達がいた。一難去ってほっとした時に別方向から恐怖の一撃を受けた彼女達は意識を失うほどすっかり怯えてしまった。今も女性メンバーが慰めている様子が見える。


「いやほんとに逃げるのに必死で余裕が無くて……いや何でもありません。今後は十分気を付けるのでどうかご容赦を。」


 下手な自己弁護はかえって機嫌を損ねるだけだと悟り、とにかく謝った。まあ目の前で逃げようとした彼女に咄嗟に拘束呪文をかけたりとかした私も確かに悪いのだが。


 全く男ってのはどうしてこう……などと愚痴り始めた彼女が私を解放して離れると、様子を伺っていた男声陣が近づいてきた。その中の数人が肩を叩いて同情を示す。


「八つ当たられお疲れ様。とはいえ騎士姫さま達の機嫌は未だ直らずかい。」


 真っ先に声をかけて来たのは機工式の巨大な鉄槌を背負った暗殺者だった。狼牙族特有の耳を立てて女性陣の様子を伺う彼の名はドリューといい、それなりに面識のある相手である。


「いやー、残念でしたね。女の子救った王子様になれなくて。まあ現実ってこんなもんですよね。仕方ないですよ。」


 そう言ったのは深い青に染められた長衣の裾を夜風に遊ばせる優男、弾雨であった。法儀族特有の紋章のような模様を顔に持つその青年の口調にはからかいの響きが混じっている。


「まあ、無事だったのはいいことだ。」


 そう一言呟いて沈黙したのは小柄なエルフの術師、ユート。職業は自分と同じ<召喚術師>だが精霊系と幻獣系の混成ビルドのため、その戦闘スタイルは異なる。

 多少無愛想だが気配りが出来、面倒見もいい彼はこのギルドの幹部の一角だ。落ち着きのある雰囲気も自分とはちがって見せ掛けだけものではない。


 そのやり取りを笑いながら見ていた山風がふと疑問を顔に浮かべて問いかけてきた。


「なあ、その骸骨マスクって一昨年の夏のイベント限定アイテムじゃなかったか。何で持っているんだ。お前そのときは休止中で、手に入れる機会は無かったはずだが。」


「ああこれか。確か去年のハロウィンのときに緋澄に貰ったやつだ。似合うといわれても嬉しくなかったから倉庫の奥に放り込んでいたんだが、暗視効果もあるし最近物騒だからハッタリにはなるかと思ってカバンの中に入れておいた。実際に役に立つとは思わなかったが。」


 山風に問われ、共通の知り合いの名を出す。


「あの仮面マニアか。確かアキバ辺りをふらふらしているんだったか。」

 

「今は〈七福宝船団〉のアキバ支部に居候中。もっとも放浪癖は相変わらずみたいらしいが。」


 長い付き合いだが彼女とはあまり相性が良くない山風が顔をしかめた。以前同じ大規模戦闘系ギルドに所属していたときは二人合わせて<双鬼>と呼ばれていたほど共に活躍していたがそのときもなぜか彼女を苦手としており、天敵といってもいい間柄であった。

 ギルドを立ち上げた頃にも彼女はコマチを通じて幾度となく助っ人に呼ばれ、共に戦っていたがそれでも苦手意識は克服できなかったようだ。

 他人に無闇に仮面や被り物を勧めたがるところと戦闘中のハッチャケさえ目をつむれば、気のいいのんびりとした女性プレイヤーなのだが。


「まあいい。あの鬼姫については脇においておこう。話す事もあったし。」


 軽く頭を振って思い出した苦手意識を払った山風は彼女達の今後について話し出した。


「さっきコマチとも話したんだが彼女達はウチのギルドで面倒を見るってことでいいな。一応本人達の意思も確認はするがあの連中がまた襲ってくるかもしれない以上、放置は出来ない。」

 

 会話を切り替えた山風は今回の事後処理に移った。先程私が絞られている間に相談して決めたのだろう。


「ごめん、頼めるか。そっちも大変だろうけど<七福宝船団>は戦闘系のメンバーが少ないから荒事になると不安がある。」


 私の言葉に山風は気持ちのいい笑いで答えた。


「まあ。いいさ。気にするな。とはいえお前の方も気を付けろよ。今のこの状況じゃ何が起こってもおかしくはないし、さっきの事で逆恨みされて矛先を向けられるかもしれないからな。」


 顔は笑っていたが、その中には先程一人で応援を待たずに突っ込んでいった事を責める響きもあった。


 確かに彼の言うとおりさっきの私は危なかった。本来<召喚術師>は従者とセットで運用するのが想定されている。一度に呼び出せる従者は基本的に一体のみなので、短時間召喚や特殊召喚で補ったとはいえ一対一でも不利な状況で四人を相手にするのは確かに危険だったのだ。山風はそのことを指摘していた。


 逃げるだけならどうにかなると踏んではいたものの、かなり危ない場面もあったのも事実だった。もし<妖術師>以外の三人がこの世界での戦闘に慣れていたならば、今頃は神殿の冷たい床に転がっていただろう。


 もっともあのマイムとかいう少女の危機を知る事ができたのも自分が<召喚術師>だったからである。そもそも<ワイルドハント>の戦闘訓練に参加させてもらっているのも先の理由の他、不死系従者に対する恐怖の克服のためだった。


 <大災害>当日の出来事のせいでデフォルメした<幻霊>以外の不死系従者を呼び出すのも臆するようになっていたし、私の精神に止めを刺してくれたあの魔術書<死の収奪>は今でもバックの奥底に封印中である。

 私にとって主力の従者と装備の封印は痛かったが、それでも数少ない精霊系や幻獣系の特技のおかげで一応最低限は戦うことはできた。


 しかし何が起こるか分からないこの状況で戦力低下をいつまでも放置しておくのも怖い。ゆえに暇を見つけては苦手としている従者を呼び出して慣れようとし、知り合いのメンバーを誘っては戦闘訓練に勤しもうとしたのだ。


 だが当然のことながら<不死>が怖いのは私だけではない。ただのモンスターと直接対峙するのにも勇気がいるのに、さらに恐怖の代名詞<不死(アンデット)>である。日中がギルドの仕事で忙しく、主に夜に戦闘訓練をする事もあり極一部の例外を除いて訓練に付き合ってくれるギルドメンバーはいなかった。

 結局山風に頼み込んで<ワイルドハント>の夜営と夜間の訓練に参加させてもらうことで解決したが、それまでには少なくない苦労と騒動があった。


 おかげで戦闘にも<不死>系召喚モンスターにも大分慣れることができた。そもそも従者を前面に押し立てて戦う<召喚術師>である。一時の恐怖を我慢すれば後は適度に距離を取っていればいい。


 距離の分だけ恐怖はやわらぎ、精神も安定する。そのことを知った私は積極的にそれを活用した。元々私のスキル構成は状況に応じて従者を入れ替え、その戦術を臨機応変に変更する高速召喚と汎用性を重視したている。

 <幻霊>などを呼び出してから離し、召喚中の従者をその場で別の従者と入れ替える<従者入れ替え>で慣れない不死系従者と入れ替えて戦闘する。私自身が危なくなったら<岩石兵士>などを普通に呼びだして守らせる。

 余計なMPも面倒くさい手間も掛かるがこの方法のおかげである程度は戦闘力に期待できるようになった。


 今夜もその戦闘スタイルを研究しつつ、不死系従者との距離を縮めようとしていた。その逃亡劇を知ったのもその訓練の休憩中に遊ばせておいた<幻霊>が戻ってきた時、様子がおかしかった事が切っ掛けである。

 その挙動不審な様子に興味を覚えて後に付いていった先で猪を泣きながら走らせる少女が森の中から飛び出したところに出くわしたのだ。

 いきなり彼女にすがりつかれ、相方を助けて欲しいを懇願された私は、とりあえず山風に彼女の保護を頼む傍ら、再び<幻霊>を偵察に放った。


 とはいえ夜の森の闇は濃く、視界も聞かない。おまけに広い森の何処にいるのかも分からない。いくら夜が本領の<不死>系モンスターとはいえ正直あまり期待はしていなかった。


 しかしどうやら主に似ずやたら優秀なこの<幻霊>はしばらくの後知らせを持って帰ってきた。その森呪遣いの少女を森から離し、<幻霊>の案内に従って森の中を歩くうちにマイムと呼ばれる少女が襲われる場面を見つけたのである。


 流石に目の前で起きている事態を見逃す気は無かった。一時の恐怖と今後の後悔ならば前者のほうが遥かにマシだからだ。しかし相手は四人、こちらは一人である。考えなしに突撃すれば返り討ちに合うのは明白だ。

 故に当初は山風に念話を繋いで状況の説明と応援を頼み、監視しながら援軍を待つつもりだった。だが事態はそれを待ってくれず、結局介入する事になったのである。


 とにかく闇に潜んで姿を隠しつつ、連中を引っ掻き回すことに意識を注いだ。<従者入れ替え>や短時間召喚、そして森の木々と闇を利用して自身の居場所を誤魔化して様子を伺い、不意討ち効果を付けた<デスサイズ>を叩きこんだり<笑うしゃれこうべ>を被って低い笑い声をたてたりしてひたすら恐怖を煽り、その冷静さを奪った。


 何せこの十日の間、訓練や観察などでさんざん感じさせられたものである。自身の体験を思い返せば恐怖を演出するのだってそう難しくはない。背筋を凍らせるような感覚から心臓を鷲掴みにされるようなもの、そして不気味に見られている錯覚まで、夜の森の中という舞台のおかげもあり即席だがそれなりに再現できたと思う。


 後は隙を突いて件の女性をその場から離脱させて足止めを仕掛け、こちらにも怒りが向くように仕向けた。そしてそのまま、追われる振りをしつつ展開を終えた山風たちの下へ引きずり込んだのだ。


 彼女に対する男達の目的や欲望については念話を通じて逐一話しておいたため、むざむざと罠に飛び込んできた連中に対し山風達は憤りをもって襲いかかった。特に女性陣の怒りはすさまじかったようでその後に起きた討伐戦では男連中が思わず引いてしまうぐらいの惨劇が起こったらしい。


 罠に引き込んだ後すぐに少女を迎えに行った私はその詳細は知らないが、誰かが漏らした「一寸刻み。五分刻み……」などという言葉を聞けばあの連中に対してどんな刑がくだされたのかは想像に固くない。

 もっとも同情する気はないし、神殿での復活がある以上はその心のほうを叩き追っておく必要があったのも理解できた。


 しかし女性陣の怒りはどうやらそれだけでは収まらなかったらしい。そこに片や意識を失い、片や怯える少女達を保護した私がやってきたのだ。彼女達の様子から保護した際の迂闊な所業がバレ、冷たい視線に晒されながら説教される事態へと陥った訳である。



 結局その後の訓練は中止となり、ナカスへと帰ることになった。本来はテントや天幕付きの馬車を持ち込んで野営の訓練を行なう予定だったらしいのだが、保護した彼女達の安全と休息のために一度街へと戻る事にしたのである。


「しっかし、どんどん物騒になっていないか。」


 呼び出した<一角獣>に引かせた荷車の前の方に腰掛けた私が目の前で揺れる尻尾を見つめていると、後ろから声がかけられた。振り返ると荷台に寝転がっていたドリューが半身を起こしこちらを見ている。


「さっきの連中のことか。確かにああいった迷惑な奴らが増えているのは確かだな。とくにススキノは酷いらしい。」


 ここ最近の各街の様子をまとめた報告書を思い返しながらそう答えた。


「まあ、あの<大災害>からもう十日は経つのに暗いニュースばっかりでは荒むのもしょうがないですよ。」


 そう言って会話に加わったのは弾雨である。荷物整理の手を止めて、こちらを向くと彼は言葉を続けた。


「なにせ未だに何が起きたのかも、どうやれば帰れるのかもさっぱり分からない。その上犯罪やらPKやら勢力争いやらでますます問題が出てきますし。」


 まあ、だからといってあの連中を擁護する気はありませんが、と言って言葉を切り優男は天を仰いだ。


「そういえば、最近ミナミの連中が何かもめているって聞いたんだけど幽夜、何か知ってる。」


 弾雨の言葉から疑問を思い出したのだろう。荷台の後ろで脚をぶらぶらさせながら星空を眺めていたルーシェが聞いてくる。機嫌は直ったようだが、まだ安心できないと思いなるべく平静を装って答えた。


「ああ、<ハウリング>の連中の事か。ナカスに取り残されたはぐれ部隊の連中がここ数日、積極的に活動しだして勢力を広げようとしているって話のことだろう。ミナミ系だけじゃなく、他のところにも見境なく声をかけているから、内外でもめ事になっているらしい。」


 報告書にあった情報を思い返しつつ答えると、ドリューがため息をついて呟くのが聞こえた。


「やれやれ、まだ暗いニュースばかりの日々か。いつまで続くんだ、これ……。」


 その言葉は全員の心情を代弁していた。




 現在、ナカスの街は表向きは安定しているように思える。少なくとも多人数による衝突や混乱は起きてはいない。個人レベルはともかくギルドや街単位では平穏に見えるのだ。


 <大災害>以降、ナカスの街にはおよそ3千人弱のプレイヤーが暮らしていると見られている。そしてその7割以上が、およそ3勢力に属し表向きの均衡を危ういところで保っていた。


 一つはナカス派などと呼称される勢力だ。ゲーム時代からナカスの街に拠点を置いているギルドやプレイヤーの集まりで概算で900人ほど。現在このナカスに置ける最大勢力でもある。


 <大災害>後の情報共有と相互支援を目的として立ち上げられた組織で現在のナカスの最大勢力でもある。事態の究明と元の世界の帰還よりも現状の把握と対処に重きを置いて、ナカスの街の安定を目指している。


 しかしナカスは元々後発のプレイヤータウンで、地理的にも恵まれているとは言い難い。そのため人口も多くは無く、アキバやミナミのような大規模なギルドはほとんど存在しない。


 そのためナカス派を動かしているのは複数の中小ギルドによる連盟なのだが、あまり統制が取れているとは言えない。また外来の勢力も無視できないほどに大きく、街の主導権を握れていない。


 もう一つはアキバ派などと呼ばれる勢力だ。本来はアキバやシブヤに拠点を置くプレイヤー達の集まりで、その人数は700人ほどと多い。ナカス派や他の街のギルドと異なり、その目標は事態の対処やナカスの街の安定ではなく本拠地への帰還と仲間との合流であった。目的が明白で統一されているものの、基本的にPTか個人単位の集まりのためまとまりには欠ける。


 ナカスをはじめとしたナインテイルという地方はゲーム時代には大陸との交易や海運で発展してきたという背景が設定されていた。それを反映してか商業系や生産系のクエストが豊富であり、それら目当てでやって来るプレイヤーも多い。中には別サーバーからの来訪者もいる。


 討伐系などの戦闘系クエストが充実しているススキノとは正反対の方向性を与えられているのだ。


 彼らの大半は非戦闘系で個々の集まりも大きくはない。だが本隊からのサポートと同じ境遇と目的を頼りにしてか<大災害>後しばらくはそれなりにまとまっていた。


 ところがアキバの街で大手ギルドを巻き込んだ勢力争いが起き始め、それがナカスにも波及するようになる。本隊が巻き込まれ、それがナカスに取り残された者同士の関係にも影響を与えるようになったのだ。

 また素材アイテムの収集などの本隊の指示が負担となり、関係が悪化した例もある。それにアキバほどではないが狩場の占有や独占といった問題も聞くようになった。


 そのため<ワイルドハント>などの一部のギルドは離脱したり、距離を取るなどとしてそのつな

がりにも亀裂が出来始めている。


 最後に残ったのがアキバ派とおなじく本拠への帰還を目標に掲げるミナミ派である。その大まかな参加人数は500人ほどと3勢力の内では最も少ないが、現在では一番活発に活動している。当初は他の勢力と同じく寄せ集めでまとまりに欠けていたのだが、ここ数日で関西最大の戦闘系ギルドである<ハウリング>の一部隊が中心となって内外に影響力を強めようと積極的に活動を始めたのだ。しかしその性急で強引な拡大方針は少なくない反発を招き、完全にまとまっているとは言えない。


 現在ナカスの街はこの三勢力が拮抗しつつ、混迷を深めている状況だ。今のところは各勢力ともおのおのの目的を推進する事に専念していて大きな衝突は避ける傾向にあるが、互いに無視できるほどの規模でもなく採集や狩場関連での小競り合いは少なくない。

 そのにらみ合いによって街の中は静かな緊張と不穏に支配されつつあり、嵐の到来を知らせるような奇妙な感覚と息苦しさが増しつつあった。


 一方一応は安定しているように見えるこのナカスにおいて我が<快走!七福宝船団>の立場は微妙であった。<大災害>後は体制の安定を最優先していたため外部に対しては協力者を作るのみに留まっていたし、安定後も『船』という手札を生かすための航海訓練に集中している。また各街に支部を持つ関係から書く勢力とも交流がある。故に注目度は高いが、下手に動くと各勢力の暴発を招きそうな状況に追い込まれていた。

 さらここ数日は混乱中で街の今後について考えるどころではなかったのだ。


 そもそもの原因は航海訓練にあった。元々はギルメンのストレス解消と航海のノウハウを得るためのものだったのだが、その噂を聞きつけた他の船もち海洋系ギルドやプレイヤーが傘下に入りたいと望んできたのだ。

 その理由はいたって簡単であった。他の街への安全な移動手段として期待を寄せられている船であるが、動かせないのならばただ水の上に浮かぶ置物でしかない。先の見通しが立たない現状で停泊場所である港の賃料や補修材などの少なくない維持費用がかかる船の扱いに困った彼らはその運用権や所有権を委ねる代わりに<七福宝船団>にその負担を求めてきたのである。


 一応船は馬車などと同じアイテム扱いなので売買も貸し出しも所有者が認めれば可能なため、彼らの多くは傘下あるいは船主と同じような立場になって<七福宝船団>に自身の所有する船の運用や管理を委託するかわりにその負担を軽減あるいはなくすことに成功した。


 そのせいで<七福宝船団>はその所有船数を1.5倍ほどに増やしたが、当然その分維持費用の負担も増大した。

 だが受け入れなかった場合、最悪一般売りあるいは放棄されてしまう。現状においては例え必要になったとしても膨大な資材と資金がかかる新たな船の入手は難しい。故に無視するという選択肢は無かったのだ。

 幸い希少なため増えた船の多くは小型帆船だったため、負担の増大もそれなりに抑えられており、今のところはギルドの資産の切り崩してどうにかなってはいた。しかしそれでもあと数ヶ月もすれば状況によっては危うくなるかもしれず、財政担当を悩ませている。


 かくして現在<七福宝船団>は航海訓練に力を入れつつ、財政状況を改善すべく奔走していた。幸い航海訓練の合間に採取する海藻類が味のある海鮮サラダとして高額で取引されたり、<第八商店街>をはじめとする大手の商業系ギルドへ供給する代わりに融資してもらったりとそれなりに収入もあるのだが油断は出来なかった。


 ナカスの街も<七福宝船団>も先行きは楽観できず、日々もたらされるのは暗いニュースと積み上げられつつある問題の山の高さ。

 希望も見えない暗闇の中をひたすら歩き続けるかのごとき状況はいつ終わるかも知れず。日々の活力は徐々にそぎ落とされ、精神は疲弊していく。


 それでも進む歩みは止められない。待つだけで状況の改善は望めない以上、無理矢理にでも未来に繋がると信じ、例えもどかしく思おうと一歩一歩進んでいくしかないのである。




 だがその先はいったい何処に続いているのだろうか。

ナカスについては原作の設定と違い、まだミナミに制圧されていません。というよりあの<大災害>直後の時期にどうやって制圧したんでしょう。<ハウリング>あたりが主導権を握った後に濡羽かインティクスが取り込んだんでしょうか。でもTRPGのルールブックの一文だとまだ暗躍中みたいな感じでしたが。


とにかくこの作品におけるナカスはまだ制圧されておらず、一応安定は保ったままです。それについては今後書けたらいいなと思ってます。


本編も長くなったので後書きもつい長くなってしまった。これで中盤も終わり、次回からは後半に突入します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ