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神との制約

「竜! 速く速く~!」

 華恋が後ろの方をゆっくりと歩く竜に向かって叫ぶ。いつもはおろしている長い黒髪はツインテールにしていて、動くとふわふわ揺れる。

「リヒトのところい行くとは言ったけど、こんな朝早くから押しかけて行くことねーだろ……」

「だって今日楽しみだったんだもん! ほらほら、歩くスピードが遅い!」

 竜の手をとり、満面の笑みを浮かべる華恋を見ていたうさぎは、竜のかばんから顔を出した。家で寝ていたところを無理矢理連れ出されたのだ。

「あのねぇ……どうして僕まで行かなくてはならないんですか?」

「あ? 言い出しっぺお前だろ? ダメだった時は責任取ってもらうぞ」

「えっ……」

「責任とまではいかないけど、殴り飛ばしちゃうかも」

 物騒なことを言ってうさぎを青ざめさせたのは華恋だ。彼女と竜は喧嘩も強く、ヤ○ザを司る神も一目置くほどの実力の持ち主である。

 竜が困ったような顔で彼女を振り向いた。

「リヒトって宮殿のどの辺にいるんだ……?」

「んっと、それらしいムードのある所とか……?」

 天界でも最も輝きを放っている場所、宮殿。そこはすべての神が集まっている円居の場所であり、神達の仕事でもある。ほとんどの神は宮殿で寝泊りしているのだが、気ままなリヒトはどうかわからない。放胆な行動をする彼に二人はよくドキドキさせられるのだ。

「それらしいムード……と言われましても……」

「ムードなんか俺に女の子一人プレゼントしてくれたらいくらでも漂わせてやんよ?」

「あなたは異常ですよ……」


 なんのあてもなくただひたすら歩き回っていると、豪華な扉の前についた。扉の横には女と男が見つめ合っている素敵な絵画が飾られている。竜は華恋とうさぎを見て、絶対リヒトの部屋だよな、と薄く笑った。それぞれの神の部屋の隣にはその神に関連するような絵画が飾ってあるのだ。つまり、どうみてもこれは恋愛の神、リヒトの部屋だ。

 竜は扉を蹴飛ばし、中に入る。

「おいリヒト、お前に話が――」

 飛んできた小さなケーキを竜の顔面が捕らえる。綺麗な顔面キャッチに思わず笑いそうになった華恋とうさぎは、口を押さえてケーキが飛んできた方向を見た。

「あはははは! まさか顔面に当たるなんて……ぷっ、はははははは! やっぱ君、最高だよ!」

 燃えるような赤い髪を無造作にくくり、長い肢体を折り曲げながら楽しそうに笑うその人――リヒト。想像していた神とは違いすぎる整った顔に華恋は開いた口がふさがらない。

「もっと年取ったおじいさんかと思ったのに……」

「僕はヴィーナスを想像しましたね…」

「ん? 誰かと思えば甘い果実を連想させるような美しいプリンセスじゃないか。あと緑の毛玉」

「ぷ、ぷりんせす?」

「僕適当すぎません? ま、いいですけど」

「けっ、そんな気障な台詞よく言えるな、女嫌いのクセに」

 竜が眉間にしわを寄せるのも気にせず、リヒトは大きなソファに深く腰掛けた。

「女の子は愛でるだけで充分だからね。それで? 俺を楽しませるためにこんな朝早く押しかけてきたわけじゃないんだろ?」

 リヒトはうっすら微笑みながら鋭い目で二人と一匹を見た。心の奥を探られるようなその瞳に華恋は背筋が寒くなる。彼の目は少しも笑っていないのだ。

「あのさ、一つ質問していいかな。君たちの仕事は何をすること?」

「お前が選んだ人間の恋を手伝って、その恋を実らせることだな」

「雑用とかもするよね~」

「僕は草木の愚痴を聞いたりします」

 律儀に自分まで答えているうさぎに、お前は関係ないだろ、というような視線を送るリヒトだが、やがて少し怒ったような顔になる。

 それもそのはず。竜と華恋は最近、生まれ変わるための練習を理由に仕事の命令を全て無視していたのだ。

「恋の手伝いって簡単に言ってるけど、実際は大変だってことをよくわかってるのは君達だよ? 命令を受け付けないとか、そんな態度じゃ生まれ変わらせてあげることなんて無理だね」

「えっ!?」

「てめぇ……視てたのか!!」

「ちょっとだけ☆ 何で天使が生まれ変わらせてもらえないかわかる? 生まれ変わらせる能力を持つ神が少ないからだよ。でも俺はそれが出来る」

 ドヤ顔をするリヒトに少しいらつきながらも、竜は必死に頼む。

「ずっと仕事の成績も一番だったじゃねーか! これくらいしてくれよ!」

「なんでもするから! お願いします!」

 なんでも、という華恋の言葉にリヒトの耳がピクリと動く。楽しそうに何度も頷いた後、彼女の目の前に立った。

「ふう~ん、じゃあ○○○○○ができるんだよね?」

「ふ、ふぇ?」

「他にも□□□□や△△△とか」

「ふぇぇぇぇ?」

 伏字にすることしか出来ないような卑猥な言葉を浴びせられ、顔を真っ赤にして腰を抜かす華恋。その意味を理解している竜は後ろの方でわざとらしく咳をしている。

「おい、華恋は純粋なんだからそういうことは……」

「嫌だよ」

「へ?」

「君達を生まれ変わらせるなんて絶対に嫌だ。俺を楽しませてくれる最高の玩具がなくなっちゃうじゃないか!」

 だから、とリヒトは二人を見る。「一生天界に閉じ込めてもいいんだぞ……? 俺の力を使えばそのくらいのこと簡単に出来る。逆らうなら……消えてもらうしかないがな」竜は目を見開いた。血のように赤黒い彼の瞳に飲み込まれたような気がして、足が一歩も動かない。まさに蛇に睨まれた蛙だ。

(マジかよ……これがリヒトの本性だとしたら俺なんかじゃ全然歯が立たない……! だけど、ここまで来たんだ、簡単に諦めてたまるか!)

「逆らってやんよ! 俺達の力、舐めんじゃねぇ!」

 その場の勢いで言ってしまった竜の言葉に、リヒトの眉が上がる。

「では、条件を出そう。クリアできたら無事に生まれ変わらせてやるよ」

「条件……ですか……?」

「そ。条件は『あるターゲットを幸せにすること』だ」

「……え?」

「そ、それだけなの?」

「意外……ですね」

 どんな難しい条件か身構えていただけあって、拍子抜けする二人と一匹。リヒトはふっと笑って続ける。

「この条件、受けるようだね。ただし、チャンスは一度だけ。失敗すれば素晴らしいお仕置きが待ってるからね?」

 お仕置き、という言葉に華恋の肩が震える。それに気付いていないのか、竜はリヒトを睨みつける。

「……おもしれぇ。絶対にターゲットを幸せにしてやる!」

 そう言って、彼は華恋とうさぎを連れて宮殿を後にした。そんな彼等を見て、リヒトはうっすらと目を閉じ、うっすらと微笑んだ。



天界での二人の最後の仕事になりそうですね!

竜と華恋も好きだけど、リヒトくんも何気に好きだったりしますw


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