時計塔のdiamond
――ここは天界。八百万の神に仕えるたくさんの天使達が仲良く暮らしている。
当たり前だが、雲よりも高い位置にあるので空気は澄んでいるし、毎日晴れている。気温も一定で、暑くもないし寒くもないといったところだ。
分刻みで忙しく動き回る必要もないのでオフィスのようなビルもなく、あるのは商店街や大きな一軒屋くらいで少し高いところに行けば天界全体が一望できるだろう。
だからこそ、この時計塔は目立っていた。
どれだけ体を鍛えた人でも一息では登れないほどの急な螺旋階段。天界中に見えるくらいの高さがあり、大きな時計がついている。そこにある部屋は一つ。大きさは普通のマンションの一室くらいだが、キッチンやお風呂場など、本当に生活に必要なものしか揃っていない。
どこか不思議な雰囲気をかもし出している、そんな時計塔で暮らしている天使達がいた。恋愛の神に仕え、天界でトップの実力を持つ二人が。
「ふんっ♪ ふんっ♪ ふ~ん♪」
少女は長い螺旋階段をスキップで登っていた。何年も練習して、やっとできるようになった大技らしい。しかし、スキップする度に長い黒髪とフリルのミニスカート、大きな胸がふわふわと揺れているので、年頃の青年には……見せ難い姿だと言えるだろう。
部屋まで行くのに、その美しい羽でひとっ飛びした方が絶対速いのだが少女はそうしない。というか、あいにくそんな風に考えるような優れた頭は持ち合わせていないのだ。少し……馬鹿なのだ。
「よいしょっと! ふう、やっと着いた!」
久しぶりの平らな床に安心しつつ、ドアを勢いよく開ける。「ただいま~!」
「うるせぇ……もう少し静かに帰って来れねえのか?」
そういった後、青年はベッドに起き上がって欠伸を一つ。少女はそれを見てぷくっと頬を膨らませた。せっかく帰ってきたのに静かにしろとは失礼じゃないか、とでも言いたそうだ。
「……俺、寝てたから。おかえり、飯作ってるぞ」
そんな彼女を見て察した彼は刺激しないようになるべく優しく言った。だがそれにも不満があるようで、
「え~? 竜も一緒に食べようよ~! ねっ?」
と青年――竜に可愛くおねだりしてみた。彼女のような美少女にこんな事されたら、普通の人ならすぐにOKしてしまうだろう。女殺しと呼ばれた天界一のモテ男、竜はそうはいかない。もう一度欠伸をして、寝転ぶ。天界で数少ない男の天使は忙しいんだ、と言いながら、彼はよく寝ている。よ~し、と少女は助走をつけて彼のベッドにダイブ! 丁度竜の真上にポフッと落ちた。
「ぶわっ! おまっ……何してんだよ!」
「一緒に食べたほうが美味しいよ?」
「俺はさっき女食べたからいいの~」
「えっ、人食べたの!?」
「馬鹿」
竜は意地悪そうに薄い唇をつり上げた。言葉の意味がわからない少女の頭にはハテナマークが浮かんでいる。でも、元々言いたかったことを思い出したのか、その顔が徐々に曇っていく。
「私達の目的、わかってるの?」
「愚問だね。生まれ変わることに決まってんだろ?」
「……そうだけど。何か方法とか考えない? また新しく」
自分の上に乗っかっていた少女を抱き上げ、布団の上に座らせる竜。かすかな薔薇の香りが鼻腔をくすぐった。
不安そうな顔をしている彼女の頭を軽く撫でてやる。いつもの元気がないのには流石の彼も困ってしまう。背が低く、華奢なその姿を見て優しく微笑む。
「わかった。一緒に考えるか、華恋。」
「それでね? そこでカエルさんがこう言ったの! 『お嬢さん、私と一緒に甘い一夜を過ごしませんか?』って!」
「おい待て。それは現実か? だとしたら警察を呼べ。不審者だ。大体、カエルとどうやって甘い一夜を過ごすんだ?」
「知らないよ~、全部さっき言われたことだよ?」
少女――華恋はオムライスを頬張りながら嬉しそうににっこり笑った。それを見て竜も自然と笑顔になる。
まるでどこかのカップルのようだが、二人はそういう関係ではない。ただの仕事上のパートナー。恋愛の神の資料によると、二人は死ぬ前から仲がよく、本当の兄弟のようだったらしい。美男美女で、すごくお似合いだというのに恋愛対象にはならないのだろうか。
「で? 方法って、何を考えるんだ?」
竜の質問に、華恋は首を傾げる。
「私も詳しいことは考えてないんだけど、天使になってもう八年が経ったし、そろそろ目的達成できればなぁ~と思って」
理由はわからないが、天界は基本天使を生まれ変わらせることは無い。それに満足できなかった竜と華恋は、なんとしてでも二人で生まれ変わることを決めたのだった。
「そうだな。でも、今までに色々試したけど全然駄目だったじゃないか」
「人間界に無理矢理混ざりこんで華恋がなぜか窒息しそうになったりな~」
「あ、あれは、仕事以外で天使が降りていくとああなっちゃうって役人さんに説明されたじゃん!」
「俺は大丈夫だったぞ?」
「竜は特殊なんだよきっと」
にこやかにそう言われて、怒っていいのかなんなのかわからなくなる竜。そんな彼に気付かない華恋は、突然立ち上がって机を勢いよく叩く。
「もう強行突破しかないよね!」
「……ほう、どうやって?」
「さぁ?」
「……」
それから二人は様々な方法を考えたが、どれも成功する確率は低く、夜も更けてきたのでその日はもう寝ることになった。
「……竜?」
「一緒に寝たいのか? こっち来てもいいぞ、襲っても良いなら」
「ち、違うよ!! ――いつか、いつか二人で生まれ変われる日が来るのかな?」
「当たり前だろ? 信じていれば夢は叶うんだぜ」
「そっか。……何ドヤ顔してんの」
「今さ、俺めっちゃ良い事言った……!」
「は、はぁ……。もう眠いから寝ていい?」
「自分が呼んできたんだろ……?」




