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訓練

 アースたちが講義を始めてから数時間が経過した。途中、休憩を挟んだりしたが、中々に疲れが溜まるものだった。

 そんな時だ。アイラが時計に目をやり、口にした。

「それでは、そろそろ戦闘訓練に行きましょうか」

「……戦闘訓練?」

 アースは戦闘訓練と聞いて、自身がいた軍隊の訓練風景を思い出した。時には理不尽な要求をされることもあったが、今となってはあれがアース自身の命を助けていたとも思える訓練だ。

 アイラの言葉を聞いて、一番大きく反応したのはレイナだった。背中越しにアースたちの会話を聞いていたのだろう。

「戦闘訓練!? わたしも行く!!」

 椅子から飛び上がり、声を上げるレイナ。釣られて洋服や髪の毛がふわりと上がる。

「いけません! まだ今日の分の講義は終わっていません」

 すぐさまパストゥールが止めに入るが、レイナの固い決意は止められなかった。既にレイナは席を離れ動き始めている。

「いーやっ。今日はもう勉強しないもんねぇ」

 レイナはアイラとアイギスの腕に自身の両腕を絡めると、すぐに部屋から出て行った。アイラもアイギスも呆れた様子だったが、レイナを止めることはしない。

「ほら、勇者も早くっ」

 アースはレイナに呼ばれて慌てて席を立った。すると、部屋に残されたパストゥールに呼び止められた。

「……勇者様。どうか、姫様をよろしくお願いします」

 パストゥールはアースの両手を取って、懇願してくる。その姿はまるでレイナの実の父親の様だった。しかし、アースはゾクリとした妙な寒気を感じた。初めてパストゥールを前にした時と同じだ。眼帯で眼は見えないはず。しかし、アースはパストゥールの不気味な視線を感じていた。

「……あ、あぁ。わかった」

 アースはその場を取り繕う返事をして、レイナたちの後を追った。

 

 訓練場は城内の中庭に存在する。周囲を石造りの城で囲まれ、上を見上げれば切り取られた空が絵画の様に広がっている。地面は砂利が排除されたむき出しの土だ。訓練場の一角には倉庫があり、そこに訓練用の武器や防具が仕舞われている。

 訓練場にやってきたアースはすでに訓練をしている集団に目を向ける。訓練場の様々な場所で、おそらく部隊ごとに訓練をしている。とは言っても、魔族の姿は千差万別。人間の様に全員が同じ訓練内容というわけにはいかない。必然的に模擬戦中心の訓練が多い。

「今日も天気が良いねぇ」

 レイナは訓練場に着くと、太陽の光を全身で浴びるように大きく伸びをした。そして、すぐにどこかに向かって走っていってしまった。

「そんなに訓練が好きなのか……」

 アースは走っていくレイナの後ろ姿を見ながら、口にする。年端もいかない子供の様な無邪気な笑顔を浮かべるレイナを見れば、自然とそう思ってしまう。

「姫様は小さい頃から身体を動かすのが好きですからね」

 アイラはまだあまり遠くない過去を思い返して、頷いている。

「姫様も訓練に混ざるのか?」

 レイナは訓練をしている一つの集団に目星をつけたのか、そこに向かって軌道修正をしていた。

「いえ、姫様の場合、訓練というよりは……」

 アイギスが鎧を準備しながら、ため息混じりに言っている。そして、アースはすぐにそのため息の意味を知った。

「おりゃーっ!」 

 十分に助走をつけたレイナは訓練をしている集団目掛けて、掛け声と共に飛び蹴りを見舞ったのだ。自身の勢いを全て相手に伝える綺麗な蹴り。背中を蹴られた魔族が吹き飛び、周囲の魔族たちをも巻き込んでいく。突然の出来事に魔族たちが転げ回り、何事かと狼狽している。そんな姿を見てレイナは腰に手を当てて大笑いしていた。

「……何やってるんだ?」

「訓練、気分転換、ストレス発散。色々と考えられますが、おそらく、ただ遊んでいるだけですね」

 アイラはレイナの事を誰よりも理解している。そんなアイラが言うのだから、間違いではないだろう。レイナは本当に楽しそうに笑っている。

「いつも、なのか?」

「……そうですね」

 レイナは周囲の魔族を手招きして挑発し始める。もちろん、魔族たちは自身の主であるレイナに手を出すことはできない。

なんてことはなく、間髪入れずに反撃を繰り出していた。

「おいっ。いいのか、あれ?」

「問題ありません、いつものことです」

 初めはアイラも心配しただろう。しかし、今となっては心配するだけ無駄。そう言わんばかりに達観していた。

 レイナは自身の倍以上ある大型魔族を相手に戦っている。それも一体や二体ではない。同時に十体以上とだ。魔族たちが持つ武器は訓練用の武器だが、殴られれば怪我をするはずだ。にも関わらず、レイナは素手だ。

 眼前から迫りくる一撃を鼻先で避ける。漆黒の髪が斬られるが一向に気にする気配はない。そして、隙を見つけては反撃を繰り出している。がら空きになった身体へ重い一撃を見舞う。相手の勢いを利用して投げ飛ばす。時には跳び、相手の頭の上を移動していく。

 長い髪をなびかせ、まるで踊る様に拳を振るう。美しい。そんな言葉が口から洩れそうになってしまう。しかし、その強さは圧倒的だ。人間が束になっても勝てそうもない魔族が何体で囲んでも攻撃は当たらず、羽交い絞めに出来たとしてもすぐに抜け出されてしまう。

 笑顔で戦い続けるレイナにアースは少しだけ驚いた。まるで大人と子供の様な歴然とした差がそこにはあった。

「それでは、そろそろ行ってきます」

 隣にいたアイギスが突然、言った。それと同時に盾を持ち、ゆっくりとレイナに歩み寄っていく。

 白銀の鎧に身に纏い、鎧と同色の盾を携えている。兜の隙間から絹糸の様な金髪が揺れ、装備の色も相まって、アイギスの周りだけが神々しく思える。魔族ではなく天使。そう思えてしまう。

「姫様と組手をするのはアイギスの役目なんです。これも小さい頃からずっと」

 大勢の魔族でも適わないレイナと模擬戦をするということは、それと同等以上の実力が必要になる。アイギスはその条件を満たしているということだ。その事実にアースの期待感は高まった。これから自分の従者になる者の実力を見る良い機会にもなる。

「あっ、アイギス、遅いよっ」

 レイナはぐったりと疲れきっている魔族たちの中心でアイギスに声を掛けた。まるで今までの戦いがただの時間潰しだったように。

「それじゃあ、いくよっ」

 アイギスが無言で盾を構えると、レイナも半身を引いて構えた。今までとは少しだけ空気が変わったことにアースは気付いた。

 張り詰める空気の中、先に動き出したのはレイナだ。身体を沈ませ、すぐに加速する。土煙を上げ、一瞬にしてアイギスの懐へと滑り込む。そして、体重の乗った右拳から強力な一撃が放たれる。本来ならば防御もできないタイミングだ。しかし、アイギスはレイナの一撃を正面から盾で受け止めた。

「くっそーーっ」

 攻撃を防がれた悔しさに声を上げながらもレイナは次の攻撃へと移る。

 左右からリズムよく放たれる拳と脚。そのどれもが目で追う事すら困難な程に速い。しかし、アイギスは全ての攻撃を平然とした表情で捌いていた。

 アイギスがレイナの視界を覆う様に盾を突き出す。攻撃を出せないレイナは痺れを切らして横に出る。そしてそれは、アイギスの巧みな盾捌きによる誘導だった。盾の陰から姿を現したレイナにアイギスの蹴りが繰り出される。腹部への衝撃にレイナがよろけた瞬間を見逃さずにアイギスは盾でレイナを吹き飛ばす。

 数メートル吹き飛ばされ地面を滑るレイナ。しかし、すぐに体勢を整え、正面からアイギスに襲い掛かる。当然、笑顔でだ。

「あれが盾騎士か……」

 アイギスの姿にアースから感嘆の息が漏れる。先ほどよりも数段速くなっているレイナの攻撃を全て受け止めているのだ。それだけで実力を図るのには十分だった。しかし、それでも未だ笑顔を崩さないレイナにアースは底知れぬ恐怖を覚えた。もしもレイナが全力を出したら、アイギスと言えどただでは済まないのではないか、そう思えてしまう。

「勇者、そろそろこちらも始めるぞ」

 アースは不意に呼ばれ、声の方に顔を向ける。するとそこにはグラオベンが漆黒の鎧を身に纏って立っていた。

「俺もやるのか?」

「もちろんだ。勇者には早く力に慣れてもらわねばならない」

 アースの体は召喚された時に魔力の影響なのか、人間を遥かに超越した力を出せるようになっていた。しかし、今のアースはその力を扱いきれていなかった。時が経てば徐々に力を制御できるようになるらしいが、それでは時間が掛かってしまい、組手で強制的に力に慣れさせるらしい。そして、その訓練は魔族軍トップであるガルディア・グラオベンが行う。アースが召喚された時に剣を交えた翼を生やした男だ。

「これを使え」

 グラオベンは一振りの直剣をアースに放った。刀身は鈍く光り、可もなく不可もない重さだ。おそらく訓練用の直剣なのだろう。

 アースとグラオベン。両者は互いに距離を取って、向き合った。

「それでは、勇者。早速始めるぞ」

 グラオベンは直剣を構え、アースを見据えた。訓練と言えど、その身体から放たれる気迫は相手を無意識の内に身構えさせる程だ。アースも直剣を構え、グラオベンを見据える。

 周囲には多くの魔族が集まり、二人の対峙に注目していた。もちろん、最も注目する点は、魔族軍のトップと勇者はどちらが強いのか、だ。

 二人の間に静寂が訪れる。しかし、それも一瞬のこと。グラオベンが大地を蹴り、アースに向かって突進した。まるで次の行動を宣言している様に小細工など一切ない突進。真っ向勝負だ。

 一瞬、虚を突かれたアースだったが、次の瞬間にはグラオベンに応えるように突進していた。グラオベンの気迫に当てられた様に身体が自然と動く。

 互いに正面から全力の一撃を放つ。この一撃で相手をねじ伏せる。実戦では到底有り得ないが、実力を試すには丁度いい。

 二つの斬撃が交じり合った瞬間、大気が揺れる。周囲に衝撃波が飛び、土煙を上げて、大地をえぐる。

「——くっ!」

 想像以上だ。アースはあまりの衝撃に目を見開いて驚く。つい先日まで普通の人間だった自分がこんな人外の戦いをするとは思っていなかったのだ。普通の人間ならグラオベンの全力の一撃を受けた瞬間、何も分からずに死ぬはずだ。しかし、今のアースはその一撃を受け、第二撃、第三撃をも凌いでいる。

「不慣れな力に振り回されている様には、見えんなっ」

 刃と刃が混じり合い、周囲に鋭い音が拡散していく。そんな中、グラオベンが斬撃の合間に話しかけてくる。不思議とその声はハッキリと耳に届いていた。

「しかし、防いでいるだけでは実力は分からんぞ。ほら、打ち込んでこい!」

 そう言って、グラオベンは攻撃の手を緩め、防御に回った。それはアースを舐めているのではなく、実力を正確に図ろうとしての事だ。しかし、

 ——ふざけやがってっ!

 アースはグラオベンの態度が気に食わなかった。まるで、お前は弱い、と言われている様な気がしたのだ。

「はぁぁっ!!」

 掛け声と共に鋭い斬撃が放たれる。しかし、グラオベンはそれをいとも容易く捌いた。それでもアースは続けざまに斬撃を放ち続ける。

 アースの斬撃は全て目の前の直剣に吸い込まれるように捌かれていく。あの黒い輝きを放つ鎧には一撃も当てられない。しかし、徐々にだが確実にアースの体には変化が訪れていた。

 歯車が少しずつ噛み合っていく様な感覚。一撃放つごとに斬撃は速度と正確さが増し、時折見せるグラオベンの反撃に対しても反応が良くなっていた。

「ようやく、慣れてきたか……」

 斬撃を捌き続けるグラオベンもその変化に気づいていた。心成しか、アースの成長に喜んでいる様に見える。

 ——もっと速く、もっと速く!

 アースの心の中がその言葉に埋め尽くされていく。圧倒的な体格差の前に、力では勝負にならないと分かっていた。ならば、グラオベンすらも反応できない程の鋭い斬撃を見舞うしかない。

 すると、徐々にグラオベンにミスが目立ち始めた。そして、ついに一歩後ずさった。瞬間、アースは隙を逃さず、今までよりも速く鋭い一撃を放つ。

「はぁぁぁぁっ!!」

 一撃はグラオベンの直剣に阻まれることなく、漆黒の鎧へと伸びている。そして、金属同士のぶつかり合う甲高い音ではなく、鈍い音がアースの耳に届く。手は少しばかり痺れている。直剣は動きを止め、グラオベンの胴を捉えていた。鎧を砕くことはできなかったが、多少なりともグラオベンにダメージを与えたはずだ。アースはそう思いながら、グラオベンの顔を見た。しかし、

「……ほぅ」

 グラオベンは何事もなかった様にアースを見下ろしていた。むしろ、楽しそうに笑っている。ゾクリとした感覚がアースを襲う。

 直剣は鋭さを抑え、強度を上げている。つまり、切れ味よりも破壊力を優先している。そして、そんな直剣の一撃ならば鎧の上からであろうが体にダメージは届くはず。しかし、グラオベンは血を吐くことも、ましてや、痛がる素振りも見せていなかった。

「剣撃は中々だな。しかし、それは人間の戦い方だ」

 アースはグラオベンから一気に距離を取った。グラオベンから放たれる言い様のない空気に体が勝手に反応したのだ。

「これから、魔族の戦いというものを見せてやろう」

 言葉と共に発せられる殺気がアースの全身に絡みつく。殺気は身体を重くし、一瞬すら視線を外すことができず、指先すらも動かせない程に呑まれてしまう。しかし、このまま立ち尽くしていては、死ぬのは確実だ。

「う……ウアァァァァァァッ!!」

 アースは奇声にも似た大声を上げ、絡みつく殺気を振り解く。その姿にグラオベンは驚きとも喜びとも取れる表情を浮かべた。

「死ぬ気で抗えよ」

 グラオベンは直剣を天高く掲げた。距離を詰めて来ないということは離れた場所にいるアースですら既に射程圏内にいるということになる。そして、

「オオオオォォォォォォォォ!!」

 怒号と共にグラオベンは直剣を大地に振り落とした。

 地震だ。初めにアースが感じたのは地震にも似た大地の脈動。そして、次の瞬間、大地は左右に捲れ上がり、周囲は突風に曝される。斬撃は衝撃波となって、アースを襲撃した。

「なっ——」

 この場所にいては体を左右に引き裂かれる。そんなイメージが脳内に弾ける。イメージは言葉になるよりも早く、身体へと命令を下していた。土煙を上げ、大地を左右に割りながら押し寄せる衝撃波を寸前のところで大きく回避する。それでも、砂礫や空気圧により鎧から露出している部分にいくつもの切り傷が出来上がる。

 視界が土煙に包まれ何も見えなくなる。アースはグラオベンの姿を見失っていた。

 ——どこだ!?

 直剣を構え警戒する。そして、背後から感じた僅かな風と異常な殺気でグラオベンの居場所を把握した。

 ——なんで、そこに!?

 グラオベンはアースの真後ろ。しかし、今さっき遠く離れた場所にいたはずのグラオベンがなぜ自分の後ろにいるのか。そんな疑問が脳内を過ぎるが、その答えには至らなかった。しかし、アースは振り返った瞬間に理解した。

 自分目掛けて振り下ろされる刃に直剣を構えて向かい受ける。アースの視線はグラオベンの直剣を捉えて離さないが、視界の端には黒く大きな影が揺れている。グラオベンの背中から生える黒い翼だ。鳥類の羽根の集合体とは違う、おとぎ話に出てくるドラゴンが持つ様な翼は大きく広げられている。おそらく、地面に直剣を叩きつけた後、グラオベンはすぐに飛び立ち、アースの背後に回ったのだろう。

「オオォォォォ!!」

 グラオベンの一撃を直剣で受け止めたアースだったが、勢いを殺しきれずに地面に片膝を着いた。しかし、それでもグラオベンは力を緩めることをしなかった。

「ぐぁっ!」

 足が地面にめり込み、着いた膝からじんわりと血が滲んでいる。力負けしているのは歴然だった。

 アースは何とかしてこの場を切り抜けようと思考を巡らせた。しかし、一つとして得策は浮かばなかった。直剣を引けば、グラオベンが振るう直剣の刃がアースを捉える。しかし、押し返すほどの力はない。引くことも押すこともできない。ただこのまま、押し潰されるのを待つだけだった。

「——なっ!?」

 しかし、アースは押し潰されることも切り裂かれることもなかった。刃を交えていた直剣があまりの圧力に耐え切れなくなり、真っ二つに折れたのだ。

 目の前で折れた直剣。そのすぐ奥には未だ健在であるグラオベンの直剣がある。グラオベンの直剣は勢いを失うこともなく、アースに近づいてくる。あまりの近さに回避は間に合わない。

 アースは自身に向かってくる刃から目を離さなかった。普通ならば恐怖のあまり目を逸らすところだが、アースは既に覚悟を決めていた。元の世界で剣を握り、戦争に参加していた以上、斬り殺されることも既に覚悟していたのだ。

 しかし、グラオベンの直剣はアースの目の前で止まった。切っ先が僅かに髪に触れる距離。あと少しでも直剣が動けば、アースの額に突き刺さるだろう。

「また剣が折れたか……」

 グラオベンはアースの直剣が折れたことにより、一瞬前まで放っていた殺気を直剣と共に封じた。その瞬間、アースは脱力した。固唾を飲んで見守っていた魔族も一同に大きな息を漏らした。

 騎士団長と勇者の戦いは騎士団長の勝利に終わった。しかし、騎士団長相手に善戦したのだ。彼らからすればアースの実力は十分に信用に値するものだった。

「しかし、これで分かっただろう? これが魔族の戦いだ。圧倒的な力で敵をねじ伏せる。小手先の技術などいらん」

 グラオベンはアースにそう告げてきた。その言葉をアースは身を持って体験した。力を持って、敵を圧倒する。単純だが抗いようがない。

「勇者も既に魔力を持っているのだ。人間としての戦いは捨てたほうがいい。魔力はイメージする力によって形を変える。今は身体を動かすイメージがし易いという事だろう」

 グラオベンはそう言うが、アースには魔力を持っている自覚はなかった。それとも、あの超常的な身体能力は魔力があるからなのか。

「お疲れ様。どうだった?」

 地面に座り込んでいるアースに声を掛けてきたのはレイナだった。いつのまにかアイギスとの組手が終わっていたようだ。

「グラオベンって強いでしょ?」

「あぁ、とんでもなく強いな」

 アースの言葉を聞くと、レイナは誇らしげは表情をしていた。まるで自分が褒められているかの様だ。

「勇者も頑張ってたよ? 魔力の使い方が分からないのに」

 レイナはアースに向かって拍手を送った。それは彼女なりの最大限の賞賛だったが、アースはそれよりも聞きたいことがあった。

「なぁ、どうやったら魔力を上手く扱えるんだ?」

「う~ん、上手く……ねぇ」

 レイナは答えづらい質問に腕を組んで考えた。しかし、一向に答えが出る気配もなく、別の案を提示してきた。

「だったら、明日は特訓しよう!」

 レイナは手を打って妙案を言っている。

 特訓。魔力を上手く扱えるようになる為の特訓。アースとしては嬉しい申し出だ。しかし、

「講義は大丈夫なのか?」

 アースとレイナはともに講義を受ける身だ。そして、その講師が特訓の許可を出すとは思えない。アイラはともかく、パストゥールは特に。

「大丈夫大丈夫。なんとかするからっ」

 レイナはそう言って笑っていた。

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