職探し講座
オレたちは話を中断し、各々席に着く。
席は自由なので、迷わず1番後ろの角席をとった。
「…ん?」
いつもとは少し違う雰囲気を感じ、オレは部屋をざっと見渡してみる。
参加者は20人弱くらい。こっちはいつもと変わらない顔ぶれだ。
が、講師側には初めて見る顔がいくつかある。
「おい、なんか今日大人多くねえか?」
隣に座ったドリオーも変化に気づいたらしく、身体をオレの方へ傾け、小声で話しかけてきた。
「オレも思った。なんかあるのかもね」
「緊張してきたぜ。発表とかじゃないといいけどなー」
「それはマジで勘弁してほしいな」
「えー、ただいまより、本日の職探しの講義を開始したいと思います。
よろしくお願いします」
壇上に立つ講師の1人に参加者たちの視線が集まる。
講師はそれを確認するように部屋を見回すと、
「えー、この状況を見て困惑されてる方も多いので先に説明しておきましょうか。
今回は、 “要塞都市国家デュムール”で現在働かれている方々を特別講師としてお招きしました」
オレたちの疑問に答えるかのようにそう説明すると、近くに立っていた数人の大人が軽くこちらに向かってお辞儀をした。
スーツこそ着ていないが、各々が自分なりにフォーマルを意識した格好をしている。
「ミリナ村の期待の若人と是非ともお話ししたい!ということでお越しいただきました。
せっかくの機会ですので、聞いてみたいこと気になることがあったら、どんどん積極的に質問していきましょうね」
言い終わると、隣に立つ3、40代くらいの意識高そうな男に頷きかける。
それに合わせ、
「ご説明あった通り本日デュムールから参りました、エリオットと申します。
私自身は普段、人材斡旋所に勤めております。簡単に言えば、人と仕事を結びつけるお仕事。そう理解していただければ大丈夫です。
今回は、同じくデュムールから来た各業界の方と皆さんをつなぐ役目を担っております。『まだ進路を絞りきれていない』という方もおられるかと思いますが、ご安心ください。
私にご相談いただければ、多様な分野の仕事をご紹介いたします」
――なるほど、今回の内容の見当がついてきた。
既に具体的に進路を決めている者は、各職域の人たちのところへ話を聞きに行く。もしかしたらそこでコネも作れるかもしれない。
そうでない人は、エリオットを通していろんな職を知っていき、絞り込んでいく。
要は、自分の将来の仕事に対する解像度を上げよう、という感じの内容だろう。
「――前回出した宿題はやってきましたか?
今日はそれを参考にするので、手元に用意しておいてください。
まず最初に、エリオットさんから要塞都市国家デュムールについて概況を説明してもらった後、各自の志望職に応じて、担当の講師のもとへ話を聞きにいく、
という流れで進めていきます。ではエリオットさん、お願いします」
「はい。えーここからは代わって私が担当させていただきます。
突然ですが、皆さんはデュムール国についてどれほど知っていますか?
じゃあ...そこの君。なんでもいいので教えてくれるかな?」
「――え?」
びっくりした。
ぼーっとしてたら当てられてしまった。
「あ、はい。えーっと......。
この村の近くにある...とかですか?」
「・・・」
――――?
わかりやすく怪訝そうな顔をするエリオット。
なんだ、この空気。
「ま、まあそうなんだけどね...。
もっとこう、君が持ってる印象とか、そういうのを聞いてみたかったかな」
あー、やらかした。
最悪だ。
どうやら質問に対して、ズレた回答をしてしまったらしい。
「私の聞き方が悪かったかな、ごめんね。
じゃあ前に座ってる君、代わりに答えてくれるかな?」
「はい。『要塞都市』と呼ばれているだけあって、とても厳重な警備体制が施されている印象です。直接見たことはまだありませんが、いずれ見てみたいですね」
オレの前に座る優等生くんが代打で答える。
先ほどの表情とは打って変わって、エリオットはご機嫌そうだ。
「お、模範のような回答だね。ありがとう!」
うわぁ、なんか嫌な記憶が蘇るな......。
わざわざ異世界に来てまで、この感覚を味わう羽目になるとは。
なんだかんだ学生時代ずーっと逃れられなかったこの不快な感覚。
学校で日常的に起こる“嫌なことランキング”TOP3に入れていたのが、この指名イベントだった。
授業中、つい思考を彷徨わせてしまう癖があったオレは、指名されるとよくズレた回答をしてしまい、教室の空気を凍らせていた。
『ちゃんと先生の話聞けよ!』と言われれば、まあその通りではある。
だが、どうしても興味のない話を聞き続けると、うとうとしてしまう。
そんなわけで、他事を考えるようにして、自分なりに対策していたのだ。
寝るよりはマシだろう?
今振り返ると、あの『なにいってんだコイツ』みたいな空気は、軽くトラウマになっていたと思う。
そのせいで当てられるたび、毎回心臓をバクバクさせていたからな。
日付と出席番号で誰を当てるか決める、みたいな展開が教師たちの常套手段だったので、その日の初め、自分が当てられる日か否かを確かめるのは習慣だった。
当てられそうなら心の準備をし、そうでないなら胸を撫でおろす。
とはいっても、教師らの頭の中も読めないもの。
予想もしない角度から自分の番号までたどり着き、名前を読み上げられる。
結局不意を突かれ刺されていた。
――と、今もこうして講義に関係ないことに思考を巡らせてますよっと。
「そうなんです。彼が答えてくれた通り、わが国デュムールは“防御性”という点に重きを置いた国づくりが特徴です。
ただ外壁を厚く高くしているだけではありません。まさに国全体が要塞そのもの!
他の国ではなかなか見られない光景かと思いますよ。
まだ見たことがない方は、ぜひ一度お越しいただければ嬉しく思います」
「――少し質問よろしいでしょうか?」
「もちろん。どんどん遠慮なく聞いてください」
「なぜそこまで防御性に力を入れているのでしょうか。自分はあまりデュムールに詳しくなくて…」
「いい質問です!ちょうどこれから話そうと思っていた内容が、その質問への答えになるでしょう。
――なぜそこまで厳重に守られているのか。
それは、わが国デュムールが位置する場所、その周辺はミョージューの目撃情報、遭遇記録、及び被害件数が圧倒的だった歴史をもつエリアだからなのです」
ふーん。
――――え?
「今、ミョージューって言ったか?」
思わずボソッと呟いてしまった。
そんなオレの引っかかりなど知らぬ様子で、エリオットはどんどん話を進めていく。
「そう聞くと、『そんなところに働きに出て大丈夫かな』と不安に思うかもしれません。
“ミョージュー発祥の国“という呼び名も広がっているせいで、あまり良い印象を持たれない方もときどき見かけます。
しかし安心してください。安全性という面では、むしろ周囲の国々よりも優れているといえるでしょう」
『ミョージュー』
オレが最近気になっていた単語だ。
文脈から察するに、おそらく獣か何かだろうか。
ファンタジー世界であることを踏まえると、ベタな推測ではあるが、魔獣的な感じをイメージしてしまう。
機を逃してばかりで聞けずじまいだったが、思わぬ収穫があるかもしれないな、今回の講義は。
......棚ぼたってやつか。
「ここミリナ村とデュムール間は、就職や交易をはじめ、人々の行き交いが珍しくありません。これからも――」
姿勢を正し、しっかりと視線を話者の方へと向ける――。
普段よりも注意深く、耳を傾けるとしよう。




