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2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者のタマゴォ】/燿霞乃夜
第1章 非日常を求めて

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暁の果て






 そして1人残され、オレは静かに、壊滅した村を最後に見渡した――。






 散乱する瓦礫、崩壊した建物、血の跡。



 ほんの少し前まで、人が普通に暮らしていた場所だ……。










 ――――ああ。








 ダメだ。








 絶対ダメだ。










 一度追い払ったはずの感情が、また頭の中にまとわりついてくる。






 ――自分の中にある、気持ちの悪い“何か”。






 絶対に良くない。


 絶対に考えてはいけない。


 絶対に抱いてはいけない感情。






 なのに、少女の誘いを受けてから“それ”はさらに輪郭を持ち始めた。




 ぼんやりとしていたものが、少しずつ形を成していく。










 ――ああ、やっと......。










 違う。 


 ダメだ。


 今それを思うのは間違っている。








 友人を失った。


 恩人ももう戻らない。





 悲しい。


 苦しい。


 寂しい。






 それなのに。


 同時に、別の感情が確かに自分の中にある。






 窮屈で、息が詰まるだけの毎日。




 何も起こらない好転しない「普通」の人生。




 それに、ようやく終止符が打たれるのかもという希望。






 村が滅び、地獄のような景色が広がっているのに。




 オレは――










「やっと......終わってくれた............」










 とっっっっっっっても、嬉しかった――――。






 自分が壊したかった『普通の日常』が崩れていく。


 その感覚に、どうしようもなく“喜び”を感じてしまっていた。


 この襲撃を、少しでも救いだと感じてしまっていた。




 ――止まっていた時間が、動き出したような気がした。






 気づけば、オレは口元に薄い笑みを浮かべていた。






 村を、みんなを失って悲しいという気持ちは確かにある。


 けど、それと相反する気持ちが今自分の中を満たしている......。










 ふと見上げると、空は少しずつ白んできている。








 ――朝だ。








 訪れることはないと思っていた朝が、やってきた。






 長い長い夜が、ようやく終わりを告げてくれた――。










「............」










 本当に、オレはどこまでも...人生に向いていない人間だな......。






 何も...返せなかったなぁ......。










 ならせめて...この村で得た一切をここに置き去りにして行くとしても、今日この時抱いてしまった感情は、これからも背負っていこう。












 ――それが、いつか贖罪と呼べるものになることを願って。












 オレはポケットに入れていた、くしゃくしゃにした紙を取り出す。



 職探しで使った宿題。

 将来を“無難”に決めていくためのこの紙。



 オレは、それを一瞬だけ見つめてから引き裂き、その場に捨てた。








 それから深く息を吸い、馬車の方まで歩き出した――。






******************************







 荷台の縁に手をかけ、そのまま中へと乗り込む。


 端っこの空いてるスペースに腰を下ろした。




 それから少し経つと、車輪がきしみ、馬車はゆっくりと動き出した――。




 この村を離れていく振動が、事態の終幕を実感させる。




 そう思った途端、それまで張りつめていたものがふっと抜け、全身に重たい疲労が流れ込み、眠気が一気に押し寄せた。




 さっきまであんなに動き回っていたのが信じられない。

 今は、指一本動かすのも億劫なくらいだ。


 アドレナリンが切れた、ってやつに近いのかもしれない。






 今はただ、まぶたが重たい......。


 うとうとと、意識が沈みかけたその時。






 ――視線を感じた。






 誰かに見られている感覚。


 でも馬車の中ではない。




 無意識に、オレは外へ目を向ける。








 ――そこにいたのは、猫だった。








 いや――厳密には、猫とは呼べない。

 猫の形をした、何か。


 体は猫のそれなのに、顔だけが妙に人間っぽい。

 人面猫とでもいうべきか…。


 座っているのか立っているのかも曖昧な姿勢で、瓦礫の陰に静かにたたずみ、じっとこちらを見ている。




 目が合う――。




 怒っているわけでもない、泣いているわけでもない。

 威嚇も、襲いかかる素振りもない。



 ルピナスや近くの兵に声をかけるべきか、一瞬迷った。

 けれど、何も言えなかった。


 理由は自分でも分からない。


 夢の途中のような感覚だったのかもしれない。




 人面猫は、相変わらず動かない。

 何もしてこない。




 ――ただ、こちらを見ているだけ。




 それが、ひどく不気味だった……。






 視界が、にじむ。


 意識が、底へ沈んでいく。


 猫の姿を最後に、オレはそのまま眠りに落ちた――。








 その道中、空を裂く雷鳴が響いたことにも、オレは気づくことはなかった。










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