合格者再通知
人の気配を失った村を進む。
半ば壊れ、半ば残った家々の向こうに、ぽつりと数台の馬車が停められていた。
「――では、馬車の手配をしてくる。ここで少し待っていてくれ」
そう言い残し、ヴィクトリーノは馬車の方へ歩いていく。
手持ち無沙汰になってそれを見ていたオレに、不意に横から声がかかった。
「ちょっといいか?」
「……?はい」
話しかけてきたのは、ここまで隣で歩いていた銀髪の男だ。
たしか名前は…トラノさん、だったか。
「今はまだ、気持ちの整理はついてないと思う。
これからのことを考える余裕はないかもしれないが、一応一声かけておきたくてな」
「は……はぁ」
どう答えたらいいのかわからず、曖昧に頷く。
「セントラディアについてから、もし行き場に困ったりやること見つからなかったりしたら――“総学院”に来るといい」
「総学院……?」
「ああ。魔法はもちろんだが、それ以外にも幅広く知識や技術、人は揃ってる。
まだ何をするか決めかねている人間が足を運ぶ場所としては、悪くないはずだ」
それは、勧誘というより提案だった。
ルピナスと違い、オレには当てがない。
オレの様子を見て、それを見越したうえでの言葉だったのかもしれない。
「――トラノくん、こっち手伝ってもらえるかしら?」
「分かりました」
呼ばれた男は去り際に、もう一度オレに向き直る。
「……覚えておくだけでいい。
頭の片隅にでも入れておいてくれ」
短いやり取りだけ残し、彼は話を切り上げた。
「学校か……」
正直なところ、今は乗り気にはなれない。
けれど、どちらにしろ向き合って考えなければならない。
何かしらの答えは、出さないといけないのだから。
生きることを選んだのであれば――。
「――アイトくん」
トラノとの会話が終わるや否や、今度は背後からオレを呼ぶ声がかかった。
「今の話ちょっと聞いてたんだけどさ……」
目は合わせず――ルピナスは控えめに口を開いた。
「……アイトくん、旅は好き?」
「え、あ、まあ…好きだけど……」
唐突な問いだとは感じつつも、オレは力の抜けた声で答えた。
退屈な日常の繰り返しが嫌いなオレは、非日常を味わえる旅行は、昔から好きだった。
「ほんとほんと!? だったらさ…。
――ルピナと一緒に旅をしない?」
「――え?」
質問の意味を理解しようとしていると、彼女は構わず話を続ける。
「ルピナは、今ある物を探して旅を続けてるんだけどさ。
もしこれから学院通うにしても通わないにしても…。
とにかく、セントラディアに身を置くつもりならさ、よかったらルピナと…旅をしない?……旅仲間ってことでさ」
話している間、ずっとルピナスはオレの目を見なかった。
というより、見られなかったのだろう。
それだけで、どれほど勇気を振り絞って誘ってくれているのか、分かった。
「旅、か……うん」
「ほ、ほら!首飾りの件とかもまだ気になるし……さ?
もちろん無理にとは言わないけど……!」
オレは言葉を探すように一拍置いてから、続けた。
「――じゃあ、喜んで。
オレも、連れて行ってほしい」
胸の奥で、何かが灯る感覚。
根拠のない期待。
でも、確かに前に進める予感。
――オレはその可能性に、賭けてみることにした。
「んんんよっっし…!!
じゃあ、これからよろしくね」
ほっとしたようにルピナスの表情が明るくなり、勢いそのままに手を差し出してきた。
オレはその意図を理解し、静かに握り返しながら――
「……あ! 首飾りで思い出した。
これのことなんだけど」
オレは思い出したように、彼女から託されていた四芒星の結晶へと指を伸ばす。
そして、あの時の出来事をルピナスに簡単に話した。
この首飾りを通して、オレは魔法を使えたこと。
どうやったのかは自分でもよくわかっていないこと。
一回撃ったらもう撃てなくなってしまったこと。
「なるほど……魔法を…」
「そういう道具なの? これ」
「いや、分からない…。少なくとも今までは何もなかったし。
念のため聞いておくけどさ、アイトくん自身がもともと魔法を使えたとかではない?」
「それは絶対ない」
こっちに来てから、何度『自分の隠された脳力が開花する展開』を妄想したことか。
痛いほど現実を見せられたのだから、これは確実に言い切れる。
「――だから、絶対この首飾りのおかげだと思うんだけど」
「うーん、そうだね……」
ルピナスは顎に手をやり、少し考え込むと
「――どっちにしろやっぱり誘ってよかった。帰ったらいろいろ調べてみよう。
とりあえずルピナと一緒に拠点まで来てね」
「分かった。……改めてよろしく、ルピナスさん」
「 “さん”なんてつけなくていいよ。
これからは仲間、……戦友!になるんだし……!」
『仲間』か……。
「どうしてもっていうならルピナ様、って呼んでもいいけど??
…ってのは冗談だけどさ……」
「じゃあ、 “ルピーナ”にしようかな」
「……。ふぅん…」
一瞬きょとんとした顔を見せたルピナス。
――あれ、距離感ミスったか?
少し仲良くなれたかなと思って踏み込んでみたんだけど……。
そんな杞憂をしていると、
「――待たせたな。2人はあちらの馬車に乗ってもらいたい」
ヴィクトリーノが出発の合図を告げに来た。
「実は、こちらの兵にも数名戦死者が出ていたらしくてな。
その分、あの馬車は予定よりも乗員数に余裕があるはずだ」
「......分かりました。すぐ行きます」
「じゃあルピナは先乗ってるね」
「――うん」
やり取りを終え、ルピナスは馬車の方へ小走りで向かっていった。
――ついさっき出会ったばかりの子。
だけどだいぶ打ち解けられた気がするな。
「一緒に、旅……」
オレはずっと、あの日世界を跨いだ瞬間から、己の第二の人生が始まっていたと思っていた。
けど、そうではなかったのかもしれない。
きっと今日この時。
彼女の招きを受けて、初めてこの世界に迎え入れられたのだ。
だからこそ、本当の意味で再び歩き出せる。
別世界での新たな命を。




