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2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者のタマゴォ】/燿霞乃夜
第1章 非日常を求めて

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終わらせる者






 絶望の世界に届いたのは――低く、澄んだ声。




 怒号でも悲鳴でもない一声が、一方的な蹂躙をぴたりと止めた。






 妙人はゆっくりと首を動かし、不機嫌そうな顔でその声の方向を確かめた。


 そして視界の先に立っていた存在を認識すると、








「アイツ…は、はあああああ!?!?!?!?!?」








 恐れなのか怒りなのかも分からない咆哮を放った。



 ルピナスの首を乱雑に放り捨て、荒い息を吐きながら後ずさる。

 すると背を向け――










 ――――逃げた。










「……は…?」






 予想のできない展開に、オレも固まってしまう。




 慌てた足音を残し、背中を丸め、地を抉る勢いで遠ざかっていく鈍器怪人。


 気づけば、あれほど圧倒的だった存在は、闇の向こうへあっという間に姿を消していた――。






「...な、なんだったんだよ......」




「っ......」






 かすかに聞こえた、今にも消え入りそうな声。



 我に返ったように、オレはその声の方へ駆け寄った。






「――ルピナスさんっ!」






 地面に叩きつけられた少女へと、迷いなく手を伸ばし支える。


 彼女の息は浅く、弱々しい。

 首元に残る赤い指痕が、これが現実であることを容赦なく告げていた。



 ゆっくりと身体を起こすルピナス。

 顔を上げた彼女の視線は、オレを通り過ぎ、その後ろへと吸い寄せられるように向けられている。



 瞳孔が大きく開かれたその瞳に浮かんでいたのは、恐怖ではない。


 信じられないもの見た時の驚愕と、戸惑いが混ざった色だった。






「あの人………まさかっ…!」






 釣られるように、オレもルピナスの視線を追ってゆっくりと振り返る。






「……誰だ?」






 ――そこには、数人の武装集団が立っていた。



 当然オレは、この人たちが誰なのか知らない。

 しかしルピナスの反応を見るに、有名な人なのだろうか。




 白っぽい鎧に身を包んだ兵士がほとんどを占めており、その鎧には見覚えがある。

 ピゴラスからオレを助けてくれた兵士たち、彼らと同じ装いだ。


 けれど、視線が止まるのはそこではない。




 彼らと異なる格好の3人。

 その中でもひときわ目立つ、集団の前中央に立つ赤鎧の男に、どうしても目が奪われてしまう。


 声の主はおそらくあの男だろう。



 血潮より熱く、炎すら霞む赤。

 顔以外すべてを覆う深紅の鎧は、夜の光を抱き込み、その輪郭だけで場を支配していた。


 腰には大剣が二本、右と左に携えられている。

 ただそこに立つだけで、英雄を想起させるかのような風貌。



 まるで世界の重心がそこにあるかのような圧倒的な存在感。






 彼はまっすぐ大型妙獣の方だけを見据え、数歩前へ出る。



 そしてゆっくりと右手を掲げ、低く、短い言葉を落とした――。














「――――レアオルブ!」














 魔法だ。




 救いの一手となる大魔法が行使される――そう思った。






 ……………






 ………






 …






 ――何も起きない。








 空気は沈黙したまま。




 炎が噴きあがることもなければ、風が吹くこともない。

 





「…え?」





 その光景に、ついさっきの魔法を空振りした自分の姿が重なる――なんてどこか親近感を覚えそうになったのも刹那。


 詠唱から何拍から遅れて、目の前に大きな“変化”が訪れる。










 ――――戦場が、一瞬で黒く染まった。










 ――――巨大な爆発。










 衝撃波が地面を駆け抜け、村そのものを震わせ、胸の奥まで叩きこまれる。


 天から降りそそいだ原爆めいた閃光と、深黒の爆炎が、三つの顔面を丸ごと包み込んだ。






 ――時間が一瞬だけ、音を失う。






 黒炎が渦を巻き、大型妙獣の体躯を完全に呑み込んでいく。




 そして村を蹂躙した災厄の異形植物は、抵抗する暇も与えられず、消滅した。


 根も茎も花も、灰すら残らず、跡形もない。

 



 三つ顔の泣きっ面を狙った一撃ではない。


 圧倒的な威力の前では、大型妙獣の仕掛けも特性も全て無意味で、ただ爆ぜて終わったのだった。






 こうして、終わりなど来ないとさえ思えた長き戦いは、呆気ないほど静かに幕を閉じた――。 








 …………








 残された空気は、まだ衝撃の余韻で震えている。






「……終わった、のか…?」






 肩の力が抜け、張り詰めていた緊張も(ほど)けていく。




「……ダサいとこ見せちゃった。

 恥ずかしいわぁ…」




 小さな声が現実を引き戻す。


 ルピナスは自分の手で地面を押しながら、そう言って笑って見せた。




 身体はとっくに限界なはずなのに、無理をして平然と振る舞おうとしてくれている。


 なんて強い子なんだろう。






「いやそんなこと……すごいカッコよかったよ」

「自身満々に『倒す』なんて言ったのに。……まさか人型妙獣まで現れるなんて……初めて遭遇したかも」




 人型……あの鈍器怪人のことだろう。

 オレは勝手に妙人と呼んでいたが、世間ではそう呼ばれているのか。



 妙獣に、大型に、人型――。



 この世界に来てそれなりに時は経ったが、ようやく今日、初めてこの世界のことを少し知れたような感じがする。




「…というか、どこが万全じゃないだよ!

 あんなすっごい魔法ぶっ放す力残してさ」




 畏怖すら抱かせるあの凄烈(せいれつ)な炎のドラゴンの魔法。


 人型と呼ばれる妙獣に防がれてはしまったが、あれがいなければ間違いなく決め手の一発になっていただろう。




「いやいや!ルピナの本気はあんなもんじゃないよ!もっともっと強いんだから…!

 いつか見せてあげらぁ!」




 言いながら、得意そうに胸を張るルピナス。


 オレが想像していた以上に、この子は強いのかもしれない。




「てかさ、アンタもだよ!ルピナは『逃げて』って言ったのに…!

 なんで戻ってくるんだよ!死にてーのかって…」


「それは……」




 言葉が止まってしまう。


 自分でもうまく言えない答えを探すように、視線だけが揺れる。




 ルピナスは、そんなオレの顔をしばらく見つめ――不意に、口元をゆるめた。






「アハハ…」






 場違いなくらい軽やかに、その声は洩れた。


 釣られるように、オレも笑ってしまう。






「ふふっ」






 なぜだろう。


 笑うなんて今すべきことじゃないのに。



 2人して、息が抜けるように笑い合ってしまう。






 生きていることを、確かめ合うみたいに――。








「でもありがとう…!

 戻ってきてくれたの、嬉しかった……!」








 その一言に、どこか心が温かくなるのを感じた。






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