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2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者のタマゴォ】/燿霞乃夜
第1章 非日常を求めて

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「……っ、は……」






 右手で頭部を首から引き離し、左手で両脚を腰からもぎ取った――。




 肉体の連なりを失ったドリオーの胴体だけが、力を失ったように地面に落ちる。



 彼の声は――もうしない。












「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」












 そして、右手に持った頭部を――――投げた。




 それは放棄というより、投擲。


 遥か彼方へ投げられたそれは、弧を描き、やがて視界の外へ消えていく――。




「――――」




 現実が、飲み込めない。


 目の前で見せつけられた行為を、どう処理すればいいか、分からないまま。



 その場から動けずに立ち尽くすオレなど気にも留めず、妙人の理性を欠いた(おぞ)ましい行動は、まだ終わらない。




 左手で掴んでいたドリオーの両足を、空いた右手も使い今度は両手で持ち直す。


 「何をするつもりだ」そう思った瞬間――異形の怪人はそのまま、自身の鈍器のような身体を回し始めた。


 まるで重さなど感じていないように、腕を振り回し、勢いをつけていく。




 競技じみたその動きは、ハンマー投げを彷彿とさせるものだった。




 握られた両脚が円を描く度、辺りにはドリオーの脚から血が飛び散る。



 くるり、くるりと。徐々に速度も上がっていく。



 そして、遠心力が最大に達した時――――











「うおおおおおおおおおお!!!!!」










 叫びとともに、それも投げ放った。






 空を舞う脚はあっという間に小さくなっていき、どこまで飛んでいくのか、目で追うことすら難しい。



 そして頭部と同様、遥か遠くへと消えていった――。






「……っ…」






 ――もう、届かない。

 

 すべてが手遅れ。




 妙人はこの始終になんら感慨も示さない。


 ただ軽く投げただけ、という様相で再び視線をルピナスらの方へ向けた。






「――――」






 何度も何度も自分の無力さを叩きつけられる。



 もう一度、首から下げた結晶に手を当ててみるも、都合よく奇跡が訪れることはない。






 オレの中で、何かが音を立てて崩れていく――。



 自分という人間が、壊れていくような感覚。










「――ごめんっ」










 何をすべきか分からない。

 でも何を考えるより先に足が動いていた。




 唯一の友に背を向け、走り出す先は魔法使いの少女――ルピナスのもとへ。




 理由なんて考えていない。

 助けを求めたかったのか、ただ逃げ出したかったのか、


 ……独りになるのが嫌なだけだったのか。




 背後からヤツが追ってきているか、それを確かめる余裕はないから振り向かない。


 ただ今は、己の足音だけに意識を向ける。










 ――だが、気づけば重く邪悪な気配は、オレのすぐ背後にあった。




 後ろから乱暴に頭を掴まれ、視界が強引に回転。


 景色が横滑りした直後、腹に重く鈍い衝撃が叩き込まれた――。






「……ぐぉはっ…!」






 肺の中の空気が一気に吐き出され、声にならない音だけが喉から漏れる。



 息が…吸えない。


 オレはみぞおちを押さえたまま、その場で膝が折れる。




 視界が低くなる。


 地面がやけに近い。




 もう抵抗も遁走(とんそう)も、何もできない。





 けれど、怪人はそれ以上こちらを見ない――。



 用済みだと言わんばかりに視線を逸らし、少し離れたところで今も攻防を繰り広げる、魔法使いの少女の方へと身体を向けた。



 地面にうずくまるオレなど、最初から眼中にない存在なのだから。








 苦しさに沈む意識の縁。






 咳き込む音の中に、はっきり“声”が混じった――。








 詠唱だ。



 少女の声が風をくぐって届いてきた。


 自信を持った迷いのない声。

 そろそろ詠唱は終わりかけのころだ。



 伏せていた視線を上げると、ルピナスが今にも大魔法を撃ち込もうとする姿が見えた。




 彼女の周囲に渦巻く炎、やがてそれは集束し、巨大な竜の輪郭を形作っていく。




 「やってくれ…!」心の中で、オレはそう声を飛ばし願った。






 一瞬の静寂のあと、ルピナスが杖を振り下ろす――。




 そして解き放たれた炎の竜は、三つ顔の植物妙獣、その中の泣きっ面へとまっすぐに突進して襲いかかった。






「……ぁ」






 空気が悲鳴を上げ、地が震え、熱風が頬を叩く。


 炎竜が大型妙獣を焼き喰らい、灼熱の地獄へと還す、その瞬間―――――オレのすぐ隣にいたはずの鈍器人間が、軌道上に割り込んでいた。






 ――激突してくる炎竜に対し、妙人は躊躇なく拳を振るう。


 防ぐでも避けるでもなく、ただ殴りつけるように。






 ――空気と光が弾け、轟音が爆ぜる。


 殴られた衝撃で竜の形を成していた炎の塊は押し潰され、大きく歪んだ。




 純粋な力だけで魔法を殴り壊すという妙業。


 決定打になるはずだった炎のドラゴンは、拳一撃で砕け、空に散ったのだった。








「……え…」








 ルピナスの呆気にとられたような声が聞こえる。


 静まり返った空気と、理解の追いつかない沈黙。




 そこに、








「この殺戮者がああああああああああ!!!!!」








 剥き出しの憤怒が投げられた。



 まばたき一つ分の空白の後、妙人はルピナスとの距離を一気に詰め、彼女の首を掴んで力任せに引き寄せる。


 抵抗も、回避も許されない速さ。

 動きを目で追うことができなかった。






「アナタ許しませんよおおおおおおおおおお!!!」

「……ぅ…っ……」

「よくもジブンのサンボちゃんをおおおおおおおおおお!!!」






 華奢な体はまるで布切れのように持ち上げられる。


 顔を歪ませ激しく身をよじるルピナスを意にも留めず、妙人は首を掴んだまま、前方へと押し滑り込むように跳躍。


 視界が追い付くより前に、少女の身体は石壁に強く叩きつけられていた。






「……がぁっ……! 」






 空気が潰れるような音。


 声にならない悲鳴が洩れ、壁面には蜘蛛の巣のような亀裂が走る。




 ルピナスは震える指で、自分の首を絞める腕に爪を食い込ませるも、抵抗とは呼べぬほど弱々しい。


 それを受け妙人はさらに腕を押し付け、少女の身体は壁にすり潰されるように持ちあげられる。


 足先は宙を彷徨い、地面を探すように伸びる。だが、立てる場所はない。

 魔法も、声も、呼吸すら奪われた状態だ。






「アナタにはあああああ!!!

 人間の情というものがないのかああああああああああ!!!!!」

「ぐっぅ……!」






 異形の激昂は収まるどころか勢いを増し、握った拳を躊躇なくルピナスへと叩き込んだ――。



 柔らかな腹部に直撃した強烈な一撃。


 背中がくの字に折れ曲がり、鈍い息が漏れる。






 ――まだ終わらない。


 少女の命を奪い切るための暴力は、まだ執拗に続く。




 腕を引き戻し、拳を握りなおす。


 金属がきしむ音が近距離で聞こえるほど、殺すための力がそこに籠められていく。 








「己の行いを省みろおおおおおこの外道がああああああああああ!!!」








 腕を振りかぶり、今度はルピナスの顔面を砕こうと構える。






 そして、その鉄拳(てつこぶし)が落とされる寸前――











「――そこらで終わりにしてもらおうか!」











 ――――地の底の闇に、真っ赤な声が差し込んだ。






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