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2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者のタマゴォ】/燿霞乃夜
第1章 非日常を求めて

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終わらない絶望





「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」





 突如響いた暴力的な咆哮。


 視界に飛び込んできたのは、世界の理屈を力でねじ曲げるような、そんな光景だった。




 人影が立っている――。

 しかしそれはドリオーではない。






 ――そいつの腕の中に、彼の姿はあった。



 右手で頭を、左手で両足を掴み、まるで雑巾でも持つかのように、ドリオーを横抱きに持っている。

 力の入れ方が雑で、扱いにためらいがない。

 生きている人間を持っているという感覚がまるで欠けている。




「―――っ」




 そこでようやくその全身を捉え、喉の奥がひくりと鳴った。


 人間だと誤認したのは、ほんの刹那だけ――。




 頭部が金属の塊で形作られ、人の頭とは明らかに異なる輪郭をしている。

 その異様さを前に、 “これ”が今までに遭遇した、妙獣と呼ばれる存在と同じ類のものだとすぐに理解した。


 角張り、所々に(びょう)が打たれた横長の鉄塊が首の上にのしかかり、無理やり胴体と繋がっている。

 その中央からは鋭い歯と口が理屈を無視するように突き出ている。

 目という目はないのに、確かにこちらを見ているのは分かる。

 口の上にある不自然な出っ張りが、ヤツの目や鼻に錯覚されるからだろう。


 体は血管が浮き出るほどの肥大化した筋肉に覆われており、肌はまるで岩と肉が混ざり合ったような重い質感。

 首や肩辺りには鎖が巻きつき、異常なまでに太い両腕には、自身の頭に酷似した形の鉄塊の凶器が食い込んでいる。

 その巨大な拳は、鉄と肉の境界が曖昧だ。


 武器を所持しているのではなく、腕そのものが武器。

 その武器の表面には、過去に叩き潰したのであろう何かの破片がこびりついている。


 そして本来、足があるはずの場所には手の平が二つ。

 指を広げたまま地面に貼りつき、それで身体を支えて立っている。



 人と、ハンマーやツルハシのような鈍器が混ざり合った、人外の異貌。


 人の形を成した狂気であり凶器。

 そう形容するのに相応しい怪人だった。


 これまでの化け物が“妙獣”なら、コイツは”妙人”とでも呼ぶべきだろうか。



 今日だけでこんな異形をいくつ目にしたのか。

 何度見ても、心が拒絶する。


 脳が壊れていくような感覚だ。






「……なせっ!この…ッ!」






 ドリオーがもがきながら声をあげるも、妙人は全く意に介さない。



 それどころか、そいつはドリオーを持ったまま、一歩ずつこちらへと距離を詰め始める。

 その足取りは重く、踏みしめるたびに、地面が手の平の形で沈み込んだ。






「こいつ......!」






 点と点が繋がったのも一瞬――オレは身体が強張って動けなくなっていた。


 なにかの能力によって、ではない。


 目の前のそれが、これまでの化け物とは次元の違う脅威だと、本能が警鐘を鳴らしているから。

 抵抗、反撃の選択肢などない。


 牙を剥けば、オレの命は秒も持たずして消し飛ぶ。

 ただ立っているだけでそれを理解させられた。




「…ぃ。……イト、逃げろ――!」


「――え」




 進まなくなった思考の中、こちらに向けて投げられた声がオレを引き戻す。








 逃げる……ドリオーを置いて…?




 ドリオーは勇気を出して、オレを助けるために出てきてくれたのに?




 ……でも、どうせ助ける手段なんて持っていない。




 じゃあやっぱりこのまま逃げ――――










 できるわけがない。



 ここで逃げたら、オレはこれからどんな面して生きていけばいいんだ。






 だからこそ、






「…!お前な――」

「これはどういうことでしょうかああああああああああ!!!!!」






 心を奮い立たせ絞り出したオレの声は、怪人の唐突な怒号に叩き潰された。






「……ぅぐ」






 ドリオーの頭と両足を掴み上げる手に、さらに力が加えられていく。


 彼の身体が軋み、声にならない呻きが漏れた。






「ちょっと目を離してた間に大変なことになってるじゃないですかああああああああああ!!!」


「は?」






 常軌を逸した声量に、反射的に耳を押さえる。






「せっかくサンボちゃんを連れて来たというのにいいいいいいいいいい!!!」






 サンボちゃん?連れてきた?


 何のことだ……。


 いや、まさか――、






「あの植物みたいな化け物、お前があいつを……?」


「ジブンの愛玩物でええええええええええす!!!」






 そう叫び答えた怪人は、既にオレたちには興味を失った様子。


 代わりに向けられる視線は、オレを通り越して後ろの方――三つ顔とルピナスが激突する戦場の方だった。




「なあ…そのお前の愛玩物、今にも討伐されちゃうよ。…あの魔法使いの子はめっちゃ強いんだ。

 オレたちなんか相手にしてないでさっさと逃げた方がいいんじゃないか…?」




 ドリオーを手から放してくれる可能性、オレはその賭けに出てみた。


 流石にこんな安い挑発に乗ってはくれない、か?

 





「ほお・・・・・・・・・・。

 思いやりの精神なんて、すぐに砕けるんだよなあああああああああああ!!!」


「はぁ......?」






 会話しているようで、さっきから絶妙に会話になっていない。


 そして数泊の沈黙が流れたのち、










「大切な仲間を見捨てるわけないでしょうがああああああああああ!!!!!」










 これまでの叫びを上回る叫声―――それと同時に、別の音が入った。




 肉が裂ける音。

 骨が外れる音。

 繋がりが断たれる音。




 ドリオーの空しい抵抗は、そこで終わる――。
















 眼前の化け物は、ずっと持っていたドリオーの身体を、引きちぎったのだ――――。






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