大型妙獣-2
「――アイトくんはここから逃げて。その時間はルピナが作る」
ルピナスはオレの言葉を押しのけるように言い放った。
「……は?」
「もう逃げ切るのは多分難しい。だからルピナが相手するしかない。
――ここで倒し切る」
はっきりと言い切った。
「でも、万全じゃないってさっき…」
「うん、万全じゃない。けどこれが最善」
話し合い相談しよう、という雰囲気ではない。
一方的に決定事項をオレに告げるような口調。
「でも……」
――――嫌だ。
絶対に首を縦に振ってはいけない。
本能がそう囁いている。
こんなの、絶対にオレを逃がすために彼女が犠牲になる流れじゃないか。
またオレのせいで誰かが殺されてしまう。そんなのは――
「――ダメ!
逃げるなら一緒に…!あなたここで死ぬつもりでしょ!」
「……え?」
戸惑い混じりの声が漏れた。
「オレを守るために、身代わりになって…そんなの絶対にさせられない」
「…え、ちょっと待って待って。違うよ。
そんなつもり微塵もないよ!」
「違うって……」
彼女は強がって言っているのかそうじゃないのか、分からない。
「ルピナがそんなことしてあげるわけないじゃん。
さっきも言ったでしょ?――最強の魔法使いになる、って」
「そんなの負けない理由にならない」
「アハハ、バレたー?」
こんなときでもちゃらけた調子を見せてくるルピナス。
しかし、瞬きの次には表情を整え、落ち着いた声音で
「よく聞いてね。
ルピナにはまだ隠し技…的なのがあるんだけどさ、それを使うとアイトくんがあの大型の標的になっちゃうの。
そうなったら多分守りきれない。だからアイトくんは逃げて――」
「それは、どういう…?」
彼女が切り札を使うと、オレが狙われる?
どういう仕組みなんだ。
「詳しい説明は全部あとでするから」
噛み砕くと、とりあえずオレは足手まといだからどっか行ってほしい、ってことか…?
なんだか今しがたの杞憂がどこか恥ずかしく感じるな。
そんな気持ちを抑えつつ、オレは結局ルピナスの案に従うほかなくなった。
「……わかった」
「じゃあ、ルピナがまたあいつの視界を遮るから。
――その魔法を合図に走り出して」
「うん…」
「――あとこれ」
「え?」
淀んだ受け答えをしていると、ルピナスがオレに向けて手を差し出してきた。
その手の平の上に置かれていたのは、彼女の胸元に寄り添っていたはずの、黄金色の四芒星の結晶をあしらった首飾りだ。
「……な、なんで?」
「こっからはルピナがついてあげられないから、代わりに。
きっと役に立つんじゃないかな、って思ってる」
思ってる、とはまた曖昧な言い方だ。
「大切なものなんでしょ?オレなんかに渡していいのかよ」
「んーそれなんだけど、さっきも少し話してたけど…この結晶さ、やっぱりキミに反応してる気がするんだよね。
ただの直感だけどさ…」
ルピナはオレの手を取り「だから持ってて」と、掌に押し込むように渡してきた。
「…って言われても、オレこれをどう使うのか分かんない」
「大丈夫。ルピナも分からない」
「は?」
何も大丈夫ではないんだが。
「この首飾りはルピナがめっちゃお世話になった人が前にくれたものなんだけど、急に光り出すなんて今まで見たことなかったの。
それがさっきキミと会って初めて起こった――。
どっちみちルピナが持ってても使えないし…だからアイトくんに賭けてみる」
「そっか……でもあんま期待はしないでね」
重大な役目を任されたみたいで、少々腰が引ける。
「あ、なくすのは許さないから」
「お…おう」
フラグ的な発言をされ、一気に不安が膨れ上がる。
ルピナスは自身の禍々しい杖を握りしめると、
「じゃあ、いくよ!」
「―――!」
ルピナスの頷きに、オレも頷き返す。
「――レアフラミナ」
横でそう小さく唱えられた。
視界の前方で爆ぜた炎の閃光を号砲に、ルピナスは大型妙獣の方へ、オレはその反対方向へ走り出す。
「――絶対に死なないで!」
「――当然っ!」
そしてできるだけ戦場から離れて離れて、オレは逃げる――――フリをした。




