答え合わせ
――視界に広がるのは、目を疑いたくなるような光景だった。
「……なんだ、これ」
村の中心から少し外れた場所。
そこでオレたちが見たもの。
それは、この辺一帯の家々が、まるで廃村のように無惨に破壊され尽くした跡だった。
建物の一部分に大きな穴が開いていたり潰れていたり。
柱が斜めに折れ曲がっていたり亀裂が入っていたり。
明らかに人為的な壊され方をしている。
「さっきの、何かを飛ばして攻撃してきたやつの仕業かな?」
「どうだろ……少なくともピゴラス?だっけ?あいつじゃないことはたしかだな」
「そうだね」
「.........」
リセはもう一緒についてくるだけでいっぱいいっぱいのようだ。
「一応中も見てくる。リセをお願い」
オレはルピナスにそう言い残し、近くの適当な家の中に入る。
家の中は静まり返り、床をきしませる自分の足音だけが響く――。
少し進んだ先に、食事用の部屋と思わしき空間があり、そこで横たわる人の姿が視界に入った。
「……っ!…おうぇッ…」
すでに手遅れとなったそれは、既視感のある逝き様――頭の上半分だけが欠けている状態だ。
足早にこの場を後にし、オレは彼女らのもとへ戻る。
「どうだった?……って、1人ってことは…」
「うん…もう遅かった」
この後も同じように他の家も何件か回ってみるも、どこも屍が転がっているか、あるいは誰の姿もないかのどちらか。
そして、次に中を確かめようとしていた家の前に来たところで、足が止まった。
「……ここって」
「――どうしたの?」
一度だけ友人たちと来たことのある場所。
あの時は家の前まで来て、「やっぱり帰るわ」とか言ってオレだけ1人引き返したっけか。
「レンくん...の家だよね、ここ...」
「――友達?」
「......」
「はい...長い付き合いなんです。
だからここはわたしも...一緒に見に行かせて、アイトさん」
「……うん」
後ろにいたリセが、立ち尽くすオレの脇を通り過ぎ、玄関に手をかける。
「じゃあルピナは外見張っとくから、行ってきて」
――オレはどう感じてしまうんだろう。
この先、おそらくレンは死んでる。
それを見て、オレはきっと安堵感のようなものを抱いてしまうんじゃないか...そんな気がする。
人の死で内心ほっとする自分なんて、自覚したくない。
最低じゃないか。
胃の底が冷たくなる…。
けど……ここで目を背けるという選択肢は、自分の中にない。
リセの後に続き、オレもレンの家へと足を踏み入れた。
「......レンくんの両親は、お仕事でよくデュムールの方に泊まりで行ってるらしいの。
だから...レンくんしかいない、かも」
リセが何かオレに話しかけてきているが、正直頭に入ってこない。
扉を開けてすぐにある居間、ひとまずここに誰かの気配はなさそうだ。
「レンくん、いたら返事して...!助けに...きたから」
隣の台所や食事部屋にも、誰もいない…。
その反対側にあった扉を開けると、シングルサイズのベットが2つ……レンの両親の寝室、だろうか。
…ここにも何もない。
「......こっちも、いなかった...」
オレが入った部屋とは別の部屋を調べていたリセも、首を横に振る。
残る部屋は、玄関から一番奥にある部屋。
扉の前に文字が彫られたネームプレートのようなものがぶら下がっている。
だいぶ年季が入っていて、なんて書いてあるのかは読めないが、多分ここがレンの部屋なのだろう。
リセと目を合わせ、オレたちは最後の部屋の扉を開け、中を確かめる――。
「―――え……な…」
その予想していなかった状景に、直前までの思考が全て吹き飛んだ。
寝台のすぐ横で動かぬまま横たわっているのは、頭部を抉られた2つの人影――――レンとエレナが、身を寄せ合うようにして終を迎えていた。
顔面が一部欠損しているので、顔立ちから判別することは難しい。
しかし、あの2人で...間違いない。
この場所にいること、さっき会った時と同じ服装であること、これだけで十分だ。
最期の瞬間まで一緒に過ごしていたんだろう。
ずっと曖昧なままにしておいたものが、こんな形で確信に変わってしまうとは……。
「―――っ......!ひどい...」
友人の変わり果てた姿に耐え切れず、リセの足からは力が抜け、その場に崩れ落ちる。
胃の奥から込み上げてくるものを抑えきれず、そのまま吐き出した――。
「………」
リセには悪いが、オレは背中をさすってあげることすらできない......。
もうこの場にいたくない。
もう見たくない。
早くここから立ち去りたい。
「――行こう、リセ。もうオレたちにはどうすることもできない」
「......でも...っ......」
蹲ったまま、動こうとしないリセ。
彼女はオレより何倍も長くこの2人と関わってきたはずだ、無理はない。
だが、
「まだ全員…てわけじゃない。早く行けばもしかしたら間に合うかも……」
リセの家族やドリオー、他の村の人たちだってまだ殺されたとは限らない。だからここに居続けることはリセにとっても望ましくないはず。
それを伝え、促すようにリセの肩にそっと手を置いた。
......タイゼンのことは、あえて触れないでおく。
「――じゃあオレは、先にルピナスさんのとこに戻ってる」
動揺が抜けきらず、彼女の呼吸はまだ浅い。
今は1人にしてあげた方がいいのかもしれない、そう思いオレは先に部屋を後にする。
落ち着くまで彼女の手を握る、なんて関係性ではないのだから。




