悪魔のような救世主-2
「はい......あ、ありがとうございます」
またも誰かに命を救われてしまった。
――数刻前の自分の行動が、じわじわと胸を締め付ける。
――まんまと助けられたという事実が、刺すような後ろめたさとなって心に沈む。
「ルピナスさん、でしたっけ……。
実はあのブタみたいややつ以外にも何かがこの村には多分いるっぽくて…早く、この村から逃げた方がいいです……」
もうオレを守るために誰かが犠牲になるのは見たくない。
だからこの人を早くここから遠ざけないと。
目の前で魔法というものを見せられたのは、正直すごく驚いた。こんな経験初めてだ。
けど、それだけで希望を抱くなんてできない...。
バルドおじさんも、さっきの兵士だって…そこらの一般人と比べたら相当な手練れだったはずだ。
そんな人たちがあっさりと……。
変に期待した分、後々苦しくなるだけ――。
「ふーん、ピゴラス以外もね。まあどうにかなるでしょうて。
…あれ、なんでルピナの名前知ってんの!?どこかで会ったっけ……」
オレの憂慮など存ぜぬといった様子で、少女――ルピナスは飄々ととぼけた反応を返してくる。
「いやさっき自分で名乗ってたでしょ…?」
そう軽く言い返すと、「あぁそうだった!」とこの張りつめた空気を癖のある笑い声が塗り替えた。
気づけば向こうのペースに巻き込まれてしまう、掴み切れない愛嬌のある人だ。
「それにさ、ここでキミを見捨てるなんてしたらルピナ悪魔みたいじゃん……。
――あ、てかさっきルピナのこと悪魔呼ばわりしてたでしょ!!」
しっかり聞かれていたらしい。
「え、いや言ったけど...悪い意味じゃなくて......。
そ、そう!カッコイイなって...その杖とか!」
「……え、でしょでしょ!分かる!?
みんな『なんか...怖い』とか『趣味が悪いです!』とか言ってきて誰もこの良さを理解してくれなかったのよ!」
「そうなんだ…」
実際にそれを言ってきた人物のであろう声真似をしながら、上機嫌に語ってくれるルピナス。
「これお気に入りなんだよね」
「見て見て~」と言わんばかりに、手に持った邪悪な魔法の杖を自慢してくる。
…というか、こんな雑談をしている場合ではない。
「そうじゃなくて…ほんとに早く逃げた方がいいんだ。
よく分かんない攻撃のせいで、武技?とかいうのを使える戦士の人が一瞬で殺られてたんだって...」
彼女がピゴラスと呼ぶあのブタの妙獣、絶対にあいつの仕業ではない攻撃。
あれがまた来たら回避するのは難しいだろう。
「もしかして、そこらの兵士とルピナを同じだと思ってる?だったら心外だよ。
――言ったでしょ?最強の魔法使いになる女だって」
どこまで適当こいているのか判断がつかない。
あるいは、100パーセント本気で言ってるのか。
「......でも...」
「ちなみにさ、そのよく分かんない攻撃ってのはなに?
何の仕業かも分からないの?」
「うん......どう説明したらいいのかな。
コイツなに言ってんだ、って思うかもしれないけど......」
「言ってみて」
「突然……人間の身体の肉片、とか…建物かなんかの破片?みたいなものがすごい速度で飛んできて、気づいたらオレの目の前にいた兵士の頭がえぐれてて......即死だった...。
その前にも1回、別の場所で......人間の身体の一部が、辺り一面に転がってるのを...見た。
多分、それと同じやつなんじゃないかなって...思ってる」
信じてもらえるかはわからない。
それでも、オレはあの時の異常な状況を、できるかぎり言葉にして伝えてみる。
「ふーん、なるほど……さすがに知らないかも。
まあルピナも妙獣に特別詳しいわけじゃないけど…」
少し考える素振りを見せた後、ルピナスは迷いを振り払うように、
「――分かった。じゃあ行ってみよう」
「え?」
「それはどこから飛んできたの?」
「……あっち。村の中心の方だったと思う」
「…なら人は多いってことかな。なおさらモタモタしてられないね」
そう言って、颯爽と歩き出してしまう。
「……え、待って」
オレも小走りで後を追う。
命の保証もないエリアへ、この魔法使いを名乗る少女と共に向かうことになってしまった――。




