悪魔のような救世主
土煙の中から姿を見せたのは、不格好な着地をお披露目した1人の少女だった――。
「うわー、もう最悪だよ。こんなの聞いてないって......」
足元をふらつかせながら、不機嫌そうに立ち上がる少女。
年齢はオレと同じか、ちょっと下くらいだろうか。
少女は紫の衣の上から、黒を基調に白い刺繍があしらわれた、フード付きの外套を身にまとっている。
広い袖口をヒラヒラさせながら、その外套は肩からゆるく滑り落ちており、マントを羽織るみたいにラフな着こなしをしているのが個性的だ。
一見するとだらしない印象を与えそうな着崩しだが、これも含めコーデなんだと思わせられるくらいによく似合っている。
――その理由は単純。
女の生まれ持った容姿が、それを成しえている。
まるで夜空を映したみたいな、淡い煌めきを一本一本に秘めた菫色の髪。
ダイヤモンドのような輝きを瞬かせる透き通った銀色の瞳は、自信と余裕を宿しており、眼前の獣など気にもしていない様子。
顔立ちはとても整っており、見れば見るほど引き込まれそうになるくらいの美人。
見惚れてしまって、ついこの危機的状況を忘れてしまいそうになるほどに。
「・・・・・・」
お腹の辺りまで伸ばした髪を後ろにパッと振り払う仕草が、余計にオレの目を奪う。
「よかったぁ。壊れてなかった…」
首から下げたペンダントのようなものを確認しながら、彼女がそう呟いた。
可憐さと凛を兼ね備えた月光のような声音に、耳まで奪われそうになる。
空からやって来た少女は服を軽く払いながら、オレたち2人を取り囲む妙獣たち――オレと同じように事態に困惑してそうなその群れを一瞥すると、
「うわっ…やっぱりピゴラスだった。ルピナこいつ嫌いなんだよなぁ。
……顔気持ち悪いし」
露骨に嫌悪を滲ませた様子で、何かを構える動作を見せる。
が、その手には何も握られていない。
「あれ?ない……あ、あったあった」
近くを見回し、この人がさっき落としたのであろう長い武器らしきものを拾い上げ、今度こそギュッと握りしめて構える。
――その姿はまるで
「………悪魔…?」
失礼かもしれないが、これがオレが抱いた率直な感想だった。
通常、女性に対して『悪魔』という表現をする場合、妖艶・あざとい・蠱惑的のようなニュアンスを含んで使われていることが多いが、そうではない。
文字通り、見た目が悪魔みたいなのだ
彼女が“杖”と呼ぶそれは、漆黒の三叉槍のような形状。
三本の刃の交点には、瞳の色に合わせた宝石のようなものがはめ込まれており、どこか禍々しい気配を放っている。
まさにデビルのステッキを彷彿とさせる代物だ。
彼女の暗色の衣装とも相まって、より悪魔感に磨きがかかっている。
「―――よし」
少女は気合いを入れるように一呼吸すると、
「――わたしは世界最強の魔法使い!......にいずれなる美姫、ルピナス・シレア!
この醜い獣どもはルピナがぶっ殺す!!!」
いろいろとツッコミどころのある自己紹介に、その美貌と美声には似つかわしくない暴言を吐いたのだった。
その口上を受けて、言葉が理解できたわけではないだろうが、醜い獣どもは彼女を“獲物”と認識した様子。
妙獣らのほとんどがオレへの興味をなくし、代わりに嘲笑の顔面は彼女に向けられた。
何度見ても気味が悪い、指のような脚で地面を掻き、今にも襲い掛かろうと狙いを定めている。
妙獣らのそんな殺気に少女は一切動じず、
「――炎の魔法、レアヴォミカ」
そう呪文のような言葉を言い放った――。
「…魔法?……えっ、うわっ!?」
――直後、少女が構えた一振りの杖から炎が噴き上がった。
炎の奔流は円を描き、取り囲む妙獣たちを呑み込んで次々と焼き払っていく。
「……す、げぇ…」
その光景に、オレはただ茫然と立ち尽くすことしかできない。
目の前の現実が、自分の知る世界のものとは思えなかった。
ブタの化け物たちはこちらに迫る隙すら与えられず、無惨に灰と化していく。
その命終を見届けると、少女は袖を揺らしながら、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきて――。
「大丈夫だった…?
上から...キミが襲われてるのが見えたから急いで降りて来たんだけど......」
「はい......あ、ありがとうございます」




