空の帰り道 (少女視点)
ずいぶんと長くなった髪を風になびかせ、大切にしている首飾りを押さえながら、夜の空を滑る。
「――今日もダメだったかぁ」
自身の身長を超える長さの魔杖に腰掛け、わたしは帰路につきながら1日の振り返りをしていた。
いつもの、もはやお決まりといってもいい流れ。
ただ今回は、それすらも放り投げたい気分。
…とりあえず早く帰らせてほしい。
「はぁぁぁぁぁ」
複数日に及ぶ探索で、疲れがだいぶ溜まっている。
それに加えて、また何も進展がないときた...。
身体的疲労に止まらず、精神的疲労も限界にならざるを得ない。
前情報ではとても期待できる回だっただけに、その落差もすごい。
とは言っても、愚痴をこぼしたところでやることは変わらない。
ただ自分の目的のために旅を続けるだけ……。
気持ちが落ち込んで、下を向きそうになったら、わたしはよく空へ行く。
真っ暗な世界をこうして上から眺めていると、これが案外、癒しの時間になってくれるんだよね。
「別に急いでるわけじゃないんだけど……なんか収穫くらいはあってほしかったなー」
ここまで手掛かりすら掴めないと、さすがに頭の中で不安がずっとくすぶり続ける。
本当に探し出せるのかなぁ、ってね…。
だからといって、すぐ見つかって終わってしまっても、それはそれでつまらないんだけどさ……。
せっかくならこの道程も楽しんでいきたい。
――あの人なら、きっとそう捉える。
そんなことを思い耽りながら見下ろしてみれば、辺り一面には森が広がっていた。
記憶が正しければ、たしかここら辺って妙獣が活発って言われてる地帯だったっけ……。
「…え、こんなところで……?」
すでに日が落ちた森の中、10人ほどの兵士らしき集団が野営をしているのが視界に入った。
――その中でも目立つのが、3人ほど。
ほとんどが白っぽい鎧を着ている中、彼らだけ装いが違う。
3人のうち2人は武装をしておらず、かしこまった形式的な恰好に見える。
「学院の人たち……?」
そして、残るもう1人は特に異彩を放っており、ひと際目を引く存在だった。
顔以外の全身を覆った真っ赤な鎧を閃かせたその姿は、周囲の風景からも集団からも浮いて見える。
夜の中の灯のように。
荷も下ろさず、誰も寝床とかを作る気配がなさそう…?
ここで野宿するわけじゃないのかな…。
いくら危険な森の中といえど、あそこまで武装した一行だ。
万が一妙獣らに襲われても、返り討ちにできそうではある。
「ルピナが声をかけにいく必要は…なさそうかな?」
わたしはそのまま足を止めず、通り過ぎることにする。
こうやって人々の1日を俯瞰できるのも、空の帰り道ならではなんだよね。
時を置かずして、見下ろす景色にまた変化が訪れた――。
「――村だ」
え、こんなところに村なんてあったんだ…。
「ここら辺ってたしかデュムールの近くだったような……」
都市以外に人が住むような場所はない国だ、って聞いたことがあった気がするけど……。
しかしどう見ても村だ。
あるものはある。
「ちょっと寄って見ていこう」
少し高度を下げ近づいてみると、村全体はとげとげした柵で囲われていた。
柵の近辺には、家も人影ひとつ見当たらない。
そのまま中に進むと、しばらくして建物が立ち並ぶ区画に入った。
しかし、
「誰も、いない?」
不気味なくらい人の気配がしない。
もしかして…もう誰も住んでいない廃れた村なのかな?
一瞬そう考えた。
「――違う」
見下ろす先視界に入ったのは、頭部が欠けた人の形をしたもの――。
実際に見るのは初めてだけど、この気味の悪い死に方には心当たりがある。
しかもそれだけじゃない。
よく見てみると、周りにも人間の一部と思わしきものや、建物の破片のようなものが散乱している。
こっちは知らない……。
ただ、どっちも薄気味悪いことだけはたしか。
「相当まずい状況に遭遇しちゃったかも」
だいぶ疲弊してるし。命力もあまり多くは残ってない。
万全とは言えないこの状況で戦場に突っ込むのは危ない。
ここは慎重を期してこの場から離れた方がいいかな…...。
そう考えながら、流れるままに風を抜けていると――
「――!?」
視界の先、動く影が目に入った。
……人だ、生きてる!
妙獣らしき獣が複数体、黒服の少年を追い詰めている。
その距離はもうわずかで、逃げ道は周囲の家々にも閉ざされている。
「――行かなきゃ!」
彼のもとへ一直線に急降下――――
した瞬間、首飾りに吊るされている四芒星の結晶に違和感が走った。
それに気を取られ、思わず視線をそらしてしまい、そのまま体が傾ぐ――。
「――今助けええぇぇぇぇぇ!?んわあああぁぁぁぁぁあ!?」




