表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者のタマゴォ】/燿霞乃夜
第1章 非日常を求めて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/39

奇妙な襲撃






「――バルド...おじさん...?」






 ありえ...ない。

 いろんな意味でありえない。




 まず一つ、ここはまだトバ食亭からも町の中心からも距離がある。

 こんなところにバルドおじさんがいるわけがない。


 ……加えて腕だけとなれば余計意味が分からない。



 そしてもう一つ、仮にオレを迎えに来たとか何かしらの理由で、偶然彼がここに来てたとしよう。

 だとしてもなぜ腕がちぎられている。


 熊相手にも引けを取らなさそうだ男だぞ…?

 何が相手なのか知らないが、こんな容易く敗れるはずがない。

 いや、片腕だけで敗れたと決めつけるのは早計か……。



「……うっ…」



 地面に横たわる大きな腕を恐る恐る拾い上げると、べちゃっとした透明な何かが付着し、不快感が手に染み込んでいく。




――見つかったのは片腕だけ。




オレは頭をフル回転させながらあらゆる可能性を探っていく。



「……ん、そうだ」



 腕だけ…ではないんじゃないか?


 近くに片腕を失った巨躯の姿があれば……或いは、もう人の姿を保っていないとしても他の部位も見つかれば……。


 状況を一歩ずつ理解するため、彼がここにいたのかどうか、なぜ腕だけがここにあるのか。

 まずはそこから確定させよう。

 この不可解な現象も、少しずつ形を帯びていくはず。



 できれば前者であることを願い、周囲を警戒しつつ、巨躯の姿がないか辺りを見渡しながら足を踏み出す。




 ――だが、その期待は外れるどころか、想像していた斜め下の現実が目の前に広がっていた。




「なに…これ...」




 人の姿を保っていない部位が……いくつも転がっている。



 けれど、それはバルドおじさんのものではない。

 どれも別々の人間のものっぽく、まるで投げ捨てられたようにあちこちに無造作に散らばっている。



「ぉうぇっ......」



 あまりに気色の悪い光景に吐き出しそうになる。


 咄嗟に手で口をおさえギリギリのとこで耐えるが、胃酸が喉元までこみ上げてきて焼けるように痛い。




 ここから見える範囲だけでも、右足部、胴の一部?、左手、上腕、顔面の下半分、などさまざまな肉体の一片が確認できる。


 だがどれも見知った人のものではなさそうだ。

 そのことに心がゆるんでしまった自分が憎らしい。

 やっぱりオレも汚い人間だ。


 人がこんな無残な目に遭っている事実は変わらないというのに――。


 とにもかくにも、事態はさらに不可解さを増す一方だ。

 この場でじっとしていても埒が明かない。



「――りえあず…かないと」



 村の中心の方へ向かうつもりだったが、方向を変え、トバ食亭を目指して駆け出す。


 一刻も早くトルナおばさんにこのことを知らせないと――。




 もはや舗装された道を選んでいる余裕なんてない。

 一直線でそこへ向かうため、足場の悪い草道でもお構いなしに走り抜ける。



 ――掴んでいる大きな手を落とさないように――それ以外のことは考えない。



 今はこれだけが心の頼りなのだから。

 もはやさっきまでの暗鬱な気持ちなど、とっくに意識下から抜け落ちている。




「……はぁ…はぁ」




 息も切れかけてきたころ、ようやく村の家々が並ぶ一帯に入った。


 周りは異様な静寂が漂っている...。






 ”誰でもいいから人に会わせてほしい“






 自分の中でこんな感情が芽生えたのは初めてだ。

 ずっと人間から離れたがる人間だったはずなのに...。



 目指していた建物を視界に捉えた。


 ただ縋るように足を進めるうちに、いつもとは違う違和感に気づく。




「………暗い…?」




 ――おかしい。



 この時間はとっくにトバ食亭の営業は開始してるはず。

 なのに、店の灯りが一切ついていない。




 本能がそこへ近づくことを拒絶し、足を止めてしまう。

 絶対にそうであってほしくない嫌な予感が、頭から離れない。


 でもトルナおばさんに早く伝えないと。




 ――いや違う。もう誰でもいい。誰でもいいからこの恐怖を共有したい。




 一歩ずつ、ゆっくりとトバ食亭の扉へと向かう。

 かつて、ただ歩くことがこんなにも難しいと感じたことはない。



 あと少しで辿り着くという距離に差し掛かったところで、中から微かに音が聞こえた気がした――――それとほぼ同時に、






「うわぁぁあああああ」






 悲鳴を上げながら、誰かが勢いよく扉を開けて逃げ転ぶように出てきた。


 しかもそれは見知った人物で――。








「――タイゼンっ!」








 やっと形を保った人間に出会えたこと、それが友人であったことに安堵し、確実に聞こえるように声を張って彼の名を呼ぶ。


 だが、反応はなく、こちらにも気づいていない様子。


 表情こそ見えないが、その挙動からかなり焦っているのは分かる。

 タイゼンがあんな姿を見せるのは初めてだ。



「おいっ、タ…」



 何があったのか聞こうと、もう一度彼の名前を呼ぼうとした時、束の間の安堵はあっけなく砕け散った――。




「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だァ!来るなァァァァァ!!!」




 ドンッ!と荒々しく、閉じていたもう片方の扉を破る勢いで何かが出てくる。




「――なんでいるんだよぉ!

 嫌だ...死にたくない!死にたくない!」



 タイゼンの叫びなど聞こえていないかのように、じわじわと“それ”は距離を詰める



「――んだあれ…ブタ……?」



 状況が理解できず、オレもその場で立ち尽くしてしまう。


 不気味なブタのような生き物…?が今にもタイゼンを襲おうとしている。

 でも絶対にブタではない。

 



 大きさはオレが知ってる普通のブタと同じか、それより少し大きいくらい。

 だがそれよりも視線を奪われるのは…顔と、おそらく脚と思われる部分だ。


 巨大な人のような唇に、同じく人のような歯を覗かせて大きく開いている口元。

 おまけに目は白目を剥いている。


 脚……は人間の手の指のように見える。脚と呼んでいいのか分からないが、下部に爪のようなものがあって、ところどころに横に走る皺もある。

 色こそブタらしい色をしているが、形状はどう見ても人の指。それを前後ろ計4本、四肢のように使って動いている。



 はっきりいって、気持ち悪い。

 そんな率直な所感を持たざるを得ない奇貌だ。




「……さすがに…負けないよな」



 …とにかくタイゼンを助けなければ。


 奇怪な見た目こそしているが、猛獣を相手にしているわけではない。

 男2人がかりで抑え込めば十分に勝算はあるはず。


 そう意気込んで斧を握り――





「………ない」








 斧がない。








 ――そうだ、あの時落としてきてしまったんだ。



 いくらなんでも丸腰でぶつかる自信はない。




「何か、ない…か……!」



 

 すぐに周辺を見回し、武器になりそうなものを探す。



 …………!


 戦いには向いてないが、ないよりはマシだ。

 そう思い、家の壁際に置かれていた伐採の時用の籠を手に取り、






「タイゼン、今行く!

 だからおまえも――」



「……!…イト、助け――」






 タイゼンがやっとオレがいたことに気づいてくれた、その次の瞬間――――








「まっ……!」








 皮膚が裂ける音と、骨が砕ける鈍い響きが空気を震わせる。




 内部から出てきた赤いものと白いものが混ざり合い、地面に散った。








 無残にもたった一噛みで、タイゼンの頭の上半分が噛み砕かれたのだ――。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ