いざ労働へ-2
体の奥底からの渾身の雄たけびとともに、斧を振るうドリオー。
その重たい一撃を受けた太木は――
「え、すごっ!」
たった一振りしかしてないにも関わらず、斧の刃は幹の半分くらいまで食い込んでいた。
「……!」
解説を求めて、隣にいる男に視線を送るが、流石に言葉を失っているみたいだ。
「いやああああ、これ体力持ってかれるわああああ」
息を荒げながら、ドリオーはその場に腰を下ろす。
「い、今のなんだ…? こんなことできたのかドリオー。
……すごすぎるだろ」
「あっはは…できるようになったのはつい最近だぜ。
一発で切り倒せたらカッコよかったんだけどなぁ」
「いや十分すごいって…」
「…なかなか素晴らしい芸当だったぞ。我の背を見てさらなる成長をするといい!」
本人は満足いってないみたいだが、これはだいぶ人間離れした所業だよな…。
というか、なんだかんだこういうファンタジーらしい力、こっちに来てから初めて見た気がする。
「へへ。そんな褒められると照れるなぁ」
鼻の下を指でこすりながら、まんざらでもない様子のドリオー。
「あれは魔法か何か?どうやってやるんだ?」
「魔法なんて俺が使えるわけねぇよ。難しい説明は俺もうまくできねぇけど……
なんとか、っていう…体の中にあるエネルギー?……をこう、集中して、体に流して、ぶっ放す!
……みたいな?
「ほう……」
よーしわからん。
どうせオレにはできないしいっか。
「興味あるなら俺が特訓付き合うぜ!」
「......気が向いたらな。
ちなみにタイゼンもできるのか?これ」
「――え?も、もも、もちろんだ!……しかし我は力の無駄遣いを好まぬ。
見せてと言われてもできかねる…からな!」
「うん。言わないから安心して」
自分に振られると予想してなかったのか、分かりやす過ぎるくらい動揺するタイゼン
ちょっと意地悪してしまっただろうか。
「多分だけどよ、この村に出来る人はあんまいないと思うぜ」
「そんなレアな技なのか...そのシンギ...?…ブギ?ってやつは」
「決して大きくはない村だしな。使いこなす奴はこんなとこに来ないだろうな。
俺が知ってる中だと、親父と…あとトバ食亭のおっさんも使えるって噂を聞いたことがある……そのくらいだな」
あーそういえば身近にいたな、ファンタジーみたいな馬鹿力のおじさんが。
「どの世界でも才ある奴とない奴がいる、ってことかね…」
正直、自分も使ってみたかった、という気持ちはある。
そんな才能があったらオレの人生ももっと……というのは見苦しい言い訳か。
「ところでこれはどうするんだ?」
タイゼンが指さすのは、今さっきドリオーが半分くらいまで抉った木。
「このまま放置するのもあれだし、さっさと切り倒しちゃうか」
「すまん…俺さっきのでだいぶ疲れちゃったからあとは2人で頼むわ」
どうやら燃費は悪い感じらしい。
自嘲気味の笑みを浮かべる彼から、タスキを渡された。
「――おけえ。じゃあやるか、タイゼン」
「ふっ。仕方があるまい。我の力を貸すときが来たか」
それから真面目に作業にとりかかり、20分ほど経ったころ――。
「これで、終わりぃー!」
オレがとどめの一撃をかます。
メキメキと鈍い裂音が弾け、生木から素材となったそれは、支えを失いそのまま地面へとゆっくり倒れ込む。
「はぁぁ…」
「お疲れ」
「おう」
近くで座って休んでいたドリオーが労いの声をかけてくれる。
オレも隣に腰を下ろし、息を整える。
一仕事終えて達成感に浸りたいところなのだが、1つだけずっと引っかかっている点があった。
「……おいタイゼン。結局おまえほとんどやってねーじゃねーか!」
「ッ……!」
あからさまに視線を逸らすタイゼン。
「おい!」
作業の途中1回だけタイゼンに交代してもらったのだが、3,4回斧を振るうとおもむろにそれを手放し、
「これは我の役割ではなかったようだ」
とかなんとか言いだして、それ以来一度も代わってくれなかった。
おかげでオレはヘトヘトだ。
「ふむ……真の強者は力を見せびらかさないのだッ!」
脳鷹みたいなことを言うな。
「ははッ!」
他人事のように笑うドリオー。
いやまぁ元々オレの仕事だし、「やれ!」なんていうのも違うんだけどさ……。
「こっからこれ持って帰るんだろ?
じゃあ運ぶために切り分けたり枝葉切り落としたりしないといけないし、それはタイゼンがやってあげたらどうだ?もうアイトも疲れ切っちゃてるしよ。
「ふむ。そのくらいならお安い御用だ!」
「頼むぜヒーロー」
「…!我に任せておけ!」
足早に作業にとりかかる自認ヒーロー男。
ドリオーがうまいことまとめてくれたな。
「ありがと。さすがに扱いが上手いな」
「ははッ。長い付き合いだしな」
「あはは…」
特に話すこともなくなったので、タイゼンが働く様子を2人で黙って見守る。
知り合ったばかりだと、「なんか話さなきゃ」と神経を配りがちだが、もうそんな関係性でもないので気が楽だ。
「・・・・・・」
そろそろ呼吸も整ってきた。
2人が来てくれたおかげで、予定より早く終わりそうだな。
早く帰って飯食って今日はとっとと寝よう。
「――なあ、アイト」
いろいろ考え事をしていると、ドリオーがこの沈黙を破った。
「ん?」
「――あのさ、お前…うち来るか?」
「はい?」
予想外過ぎる切り出しに、意図が分からず戸惑う。
「え、今から?ドリオーんち行くの?
「あーいやいやそうじゃなくて。
ごめん紛らわしい言い方だったな」
改めてドリオーは真剣な面持ちになって、
「アイトも、うちで働かないか?」
「――え?」
それはまた唐突な提案だ。
オレに大工仕事の天賦の才でも感じたのだろうか。
「いきなり…だな。どうして?」
「いやあ…アイトさ、今回の講義でエリオットさんのとこ行ってたよな?
てことは、まだやりたいこと見つけてないってことだろ?」
また職探しの話か……。せっかく頭から追い出してたのに。
もうくどい、正直今日はもうその話はしたくないな…。
「それに、手応えなかったみたいな表情してたし…。
進路決まってないんだったら、うちで一緒に働こうぜ、ってお誘い」
少し言いづらそうに、今日のオレの様子についても触れてくる。
「なあ、そんなにわかりやすく顔に出てるか?オレ」
ドリオー以外にも、今日だけで既に2回も似たような指摘をされた後だ。
なるべく表情には出さないよう気をつけているんだが。
「え、うん…珍しく心ここにあらずみたいな雰囲気だったぞ」
無理してるっつーか」
珍しく、てことはいつもはちゃんとできてるはずだよな……なんでだろう。
「で、どうよ!うちに来ないか?
話聞いてる感じさ、ミリナ村に残る人あんまいなくて寂しかったんだよ」
前のめりになって、「な?」ともう一度お誘いの言葉をかけてくる。
「そうだな...
めっちゃ嬉しい提案だけど遠慮しとくよ」
「えーー!クッソー!……ダメだったかぁ。
あ、もしかして実はもう決まってるとかか?」
「そうじゃないんだ。
ドリオーの言った通り、まだなんにも決めれてないよ」
「だったら!」ともう一回勧誘してきそうな勢いのドリオーを手で抑えながら、
「ドリオーと一緒にいるのは楽しいよ。…けどオレ、あんまり友人関係と仕事関係をごっちゃにしたくないんだよ」
「…というと?」
「なんていえばいいのかな…友達って、打算のない関係性じゃん?利害とか上下関係とかを気にしない間柄っていうかさ。
けど、仕事ってなると話は別だと思う」
ビジネスの関係になると、当然そうはいかなくなる。
見返りを求めない関係どころか、むしろ成果や効率を求められるようになってしまう。
互いに向いている方向が異なっていれば、そこから衝突が生じるかもしれないし、逆に友人であることを理由に相手に気を遣って、業務の方に支障をきたしてしまう可能性もある。
――どちらにしろ、オレはそんなことを理由に彼と仲違いなどしたくはない。
「お金や評価とかが絡んでくると人は変わっちゃう。オレは今の関係性を壊したくはないかな」
「言われてみれば…それは一理あるかもなぁ」
うんうんと頷いてはいるが、どこか諦めきれない様子。
「それに、仕事一緒にやるってなってもオレやる気とかないタイプだしさ…。
多分迷惑かけまくっちゃうと思うわ」
苦笑交じりでそう伝える。
「ははッ。想像つくわーそれ。
…そっかぁ。なら仕方ないなぁ」
「せっかく誘ってくれたのにすまんな」
声をかけてくれたこと自体は、純粋に嬉しい。
「ひょっとしてこれを言うために来てくれたのか?」
「いいや?さっきの俺の必殺技をお前らにお披露目したくてな!…てのは冗談だけど。
ただ普通に手伝いに来ただけだぜ」
「――おーい、完了したぞッ!」
ちょうどタイゼンのほうも、キリがついたみたいだ。
剣を鞘にしまうみたいな仕草を見せながら、こちらへ近づいてくる。
「おつかれー」
「2人で熱く語り合っていたみたいだが、何の話をしていたのだ?
――さては恋バナか!?」
「ちげーよ」
「恋バナといったら…そいや今日エレナと2人で帰ってたよな?アイト」
「ん、あーうん...」
別に隠してたわけではないが、こうして改めて聞かれるとなんか恥ずかしいな。
「――お前さ、エレナのこと好きなのか?」




