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短編集  作者: 歌を忘れたカナリア


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9/10

魔王城、本日休業


「……あー、帰ってくれ。今日はもう閉店だ」


伝説の勇者・ハルトが、何百もの罠を突破してようやく魔王の間に辿り着くと、魔王は玉座で**「こたつ」**に入りながら、みかんを剥いていた。


「何を言っているんだ魔王! 私は世界を救うために、はるばる海を越えて来たんだぞ! さあ、剣を抜け!」


「いや、無理。今日、腰が痛いし。それに見てみろよ、外。雨だぞ? こんな日に戦ったら風邪ひくだろ」


魔王はそう言って、テレビのリモコンを操作し始めた。画面には「午後のワイドショー」が映っている。


「……魔王、お前、世界を滅ぼすんじゃなかったのか?」


「滅ぼす? 誰がそんな面倒なことを。俺がやりたいのは『二度寝』と『たまの贅沢(特上の回転寿司)』だけだ。だいたい、世界を滅ぼしたら、寿司を握る職人がいなくなるだろ。死活問題だよ」


ハルトは呆れて剣を下ろした。 「……お前、それでも魔族の頂点かよ。俺の故郷の村は、お前の軍勢が来るって怯えてるんだぞ」


「あー、あれな。うちの部下たちが勝手に行進の練習に行ってるだけだよ。あいつら、健康志向だからさ。あ、そうだ勇者。お前、来る途中の『第3フロア』に落ちてたゴミ、拾ってきてくれたか?」


「ゴミ? ……あ、あの空き缶か? 拾ってないけど」


「ダメだよ。マナーを守らない勇者は。これだから最近の若者は……。ほら、座れよ。みかん食べるか?」


ハルトは戸惑いながらも、魔王の誘いに負けてこたつに入った。 「……なんか、思ってたのと違うんだけど」


「世界なんてな、適当でいいんだよ。そんなことより見ろよ。今日の占いで、お前の星座(獅子座)は最下位だぞ。ラッキーアイテムは『鉄の剣』だってさ。良かったな、持ってるじゃないか」


「……これ、伝説の聖剣なんだけど」


「聖剣でも鉄は鉄だろ。ほら、そんな顔すんなって。お前も大変だろ、勇者なんていうブラックな仕事。残業代は出るのか? 国王はちゃんと福利厚生とか考えてくれてるのか?」


ハルトは魔王に人生相談をされ、気づけば二時間も話し込んでしまった。


「……魔王。俺、なんか世界を救うのがどうでもよくなってきた」


「だろ? 明日、街に美味しいパン屋がオープンするらしいから、一緒に行こうぜ。勇者の格好だと目立つから、その変なマントは脱いでいけよ」


こうして、史上最大の戦いになるはずだった「魔王対勇者」は、**「おじさん二人のパン屋巡り」**へと平和的に解決されたのであった。


世界は今日も、魔王のやる気のなさによって守られている。

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