愛の告白と、地獄の筋トレ指導
『愛の告白と、地獄の筋トレ指導』
ヨシオの助言(と呆れ顔)に背中を押され、ついにサキが決意した。 「もう、遠回しなのはやめ。今日、このバカに引導を渡してやるわ」
放課後の屋上。サキはカズキを呼び出した。 夕日に照らされたサキは、いつもよりずっと大人っぽく見える。
「……カズキ。あんた、ずっと『彼女ほしい』って言ってるじゃない?」
カズキは、もらったばかりの「握力トレーニング機」をギュッギュッと鳴らしながら答えた。 「おう! 毎日願ってるぜ。でも全然現れないんだよな。やっぱ俺、前世で何か悪いことしたのかな?」
「前世じゃなくて今世の脳みその問題よ! ……いい、一度しか言わないから、黙って聞きなさい」
サキは一歩踏み込み、カズキのシャツの裾をギュッと掴んだ。 「私はね……あんたのことが、ずっと、その……好きなのよ。幼馴染じゃなくて、一人の男として、付き合ってほしいの」
沈黙が流れる。 隣で見守っていたヨシオ(隠れている)も、思わず拳を握りしめた。 「いけ! カズキ! ここで気づかなきゃ人間じゃないぞ!」
カズキは動きを止め、サキをじっと見つめた。 そして、ゆっくりと口を開いた。
「サキ……お前、本気か?」
「……ええ。本気よ」
「そうか。……気づいてやれなくて、ごめんな」
サキの瞳に光が宿る。ついに、ついに想いが通じた――!
「お前……そんなに俺に『握力』で負けるのが悔しかったのか!!」
「………………は?」
カズキは感動に震える声で続けた。 「『一人の男として付き合ってほしい』……つまり、『男と同じメニューで特訓して、俺を超えたい』ってことだろ!? 切磋琢磨して、ライバルとして高め合おうってことだよな!? 泣かせるじゃねえか、サキ!」
サキの掴んでいた手が、ぷるぷると震え始めた。
「よし! ならば今日から、俺がお前のコーチだ! まずはスクワット100回から始めるぞ! 恋だの愛だの言ってる暇があったら、下半身を鍛えろ! 幸せは筋肉の向こう側にあるんだ!」
「違う……違うのよカズキ……。私は、あんたと手を繋いだり、デートしたりしたいの……」
「わかってるって! 握力が強くなれば、手を繋いだ時に相手の骨を砕くくらいの勢いで愛情を表現できるもんな! よし、まずは拳立て伏せからだ!」
カズキは「よーし、やるぞー!」と叫びながら、屋上で激しく腕立て伏せを始めた。
隠れていたヨシオが、サキの肩をそっと叩いた。 「……サキちゃん。もういい。もう、こいつを屋上から突き落としていいぞ。俺が証言してやる。『彼は自ら、空気の抵抗を調べるために飛び降りました』って」
サキは、夕日に向かって腕立てをするカズキの背中を見つめながら、枯れた声で呟いた。
「……プロテイン。明日、一番高いやつを買って、こいつの頭からぶっかけてやるわ」
カズキの恋の迷走は、ついに「アスリートの道」へと突入してしまった。




