恋愛のプロ(独身)と、鈍感すぎるバカ
「彼女が欲しい」と嘆くカズキ。そこに、唯一事情を知っている「ただの男友達」のヨシオが加わると、事態はさらにややこしい方向へ転がります。
『恋愛のプロ(独身)と、鈍感すぎるバカ』
放課後の部室。カズキは床に転がりながら、親友のヨシオに泣きついていた。
「ヨシオ……助けてくれ。俺、もう女子の気持ちがさっぱり分からん。どうして俺には春が来ないんだ!」
ヨシオはポテトチップスを食べながら、窓の外でカズキをじっと待っている幼馴染のサキを指差した。
「おい、カズキ。あそこにサキちゃんが待ってるだろ。あんなに可愛くて、お前のことを毎日待っててくれる女子、他にいないぞ。あの子でいいじゃん」
カズキは体を起こし、鼻で笑った。 「ははっ、ヨシオ。お前は何も分かってないな。サキは『家族』みたいなもんだ。例えるなら、実家のこたつだよ。安心はするけど、ときめきはないんだよ!」
「お前、その『こたつ』が他の男の家に貸し出されたら、冬越せないだろ……」
「とにかく! 俺はもっとこう、ミステリアスで、運命を感じるような出会いが欲しいんだ!」
そこへ、しびれを切らしたサキが部室に入ってきた。 「ちょっとカズキ! いつまで喋ってるの。ほら、これ。あんたが欲しがってた限定のキーホルダー、たまたま見つけたから買ってきたわよ」
サキはツンとしながら、小さな箱をカズキに渡した。
「……! サキ、これ! どこに行っても売り切れだったやつ! お前、まさか隣の市のショップまで行ってくれたのか?」
「……別に、散歩のついでよ。感謝しなさいよね」
サキが顔を赤くして出ていくと、ヨシオがニヤニヤしながらカズキの肩を叩いた。 「おい、今の見たか? 『散歩のついで』で隣の市まで行くやつがいるかよ。完全に愛だろ、愛」
するとカズキは、神妙な面持ちでヨシオの目を見つめた。
「ヨシオ……俺、気づいちゃったよ」
「おお! ついに気づいたか!」
「サキのやつ……足腰、めちゃくちゃ鍛えてるんだな。 散歩で隣の市まで行くなんて、あいつ、将来は登山家か何かを目指してるに違いない。俺も負けてられないな!」
ヨシオは持っていたポテトチップスを握りつぶした。 「……お前、一回、脳の精密検査受けてこい」
「それよりヨシオ、相談があるんだ。サキがせっかくお土産くれたから、お返しに**『超強力な握力トレーニング機』**をプレゼントしようと思うんだけど、女子って何キロくらいから喜ぶかな?」
「喜ばねえよ! 握りつぶされるぞ、お前の頭を!」
「えっ、なんでだよ。登山には握力も必要だろ?」
ヨシオは天を仰いだ。目の前の親友が「彼女ができない理由」が、宇宙の謎よりも深く理解できた瞬間だった。
「カズキ、いいか。お前の運命の相手は、今、ドアの外で『握力計より重いため息』をついてるよ」
「え? 誰かいるのか?」
カズキがドアを開けると、そこには虚無の表情で立ち尽くすサキがいた。




