灯台下暗し、幼馴染は圏外
「彼女が欲しい」と叫びながら、目の前の特等席に気づかない。そんな、救いようのない「あほな男子」のお話です。
『灯台下暗し、幼馴染は圏外』
「あー! 彼女欲しい! 誰か俺の人生に、可愛い女の子をデリバリーしてくれ!」
ファミレスの席で、高校生のカズキは頭を抱えて叫んだ。 その向かい側で、幼馴染のサキが、自分のハンバーグについていたパセリを、そっとカズキのお皿に置いて言った。
「あんた、さっきからうるさいわよ。そんなに彼女が欲しいなら、身近なところで探せばいいじゃない」
サキはそう言って、上目遣いでじっとカズキを見つめた。 彼女は今日、カズキが好きだと言っていた「ポニーテール」にして、少しだけ色のついたリップも塗っている。
カズキはパセリを口に放り込みながら、ため息をついた。 「身近なところ? ……あ! そうか!」
サキは期待で胸を膨らませ、少し身を乗り出した。 (ついに気づく!? ずっと隣にいた、この私に……!)
「わかったぞサキ! コンビニのレジの店員さんだな! 毎日通ってるから、あれはもう実質『身近』だろ!」
「……死ねばいいのに」
サキは冷めた目で、カズキのポテトを一本奪った。 しかし、彼女も諦めが悪い。次はもっと直球で勝負することにした。
「ねえ、カズキ。もし……もしよ。あんたのことを、赤ん坊の頃から知ってて、家も隣で、あんたの変な寝顔も全部知ってるような女子が『付き合って』って言ったら、どうする?」
カズキは真剣な顔で考え込んだ。 「……そんなやつ、いるか?」
「たとえ話よ! もしいたら、どうなのよ!」
カズキは腕を組み、「うーん」と唸った。 「そうだな……。俺の寝顔まで知ってるってことは、あれだろ。ストーカーだろ。 怖すぎる。警察に相談するレベルだわ」
「幼馴染って意味だよ!!」
サキは机を叩いた。ドリンクバーのコーラが揺れる。 カズキは「なんだ、お前のことか」と笑いながら続けた。
「お前はノーカウントだよ。サキはなんて言うか……『性別:サキ』って感じだし。お前と付き合うなんて、自分の鏡と付き合うくらい違和感あるわ」
「……あんた、本当に一生独身でいなさいよ」
サキは悔しくて、カズキの分のおにぎりまで奪って食べ始めた。 するとカズキが、ふと真面目な顔をしてサキの手を握った。
「……サキ」
(えっ、なになに!? ついに本気!?) サキの心臓がバックバクに跳ね上がる。
「お前、さっきから俺の食いもん全部食ってるけど、もしかして……お腹空いてんのか?」
「………………」
「いいよ、俺のパフェも半分やるよ。彼女がいない寂しさは、糖分で埋めるしかないからな!」
カズキは爽やかな笑顔で、パフェのバナナをサキの口に押し込んだ。 サキはそれをモグモグと噛み締めながら、心の中で誓った。
(こいつがいつか私の大切さに気づいて泣きついてきても、絶対、最初の三日間は無視してやる……!)
二人の春は、まだ当分先になりそうだった。




