後輩・木下さんの「匂わせ」大作戦
「先輩、これ、私の『愛(物理)』です」
入社2年目の木下は、憧れの田中先輩のデスクに、巨大な**「プロテインの粉末(5kgパック)」**を叩きつけた。
田中先輩は、パソコンから目を離さずに言った。 「……木下さん、お疲れ様。でも、僕、筋トレしてないんだけど」
「知ってます! でも、先輩は最近、残業続きで骨密度が下がってそうですから! カルシウムとタンパク質の過剰摂取で、存在感を強固にしてほしいんです!」
木下の恋心は、常に「力技」だった。 彼女は「好きな人の役に立ちたい」という純粋な気持ちを、なぜかいつも「生存戦略」のような形に変換してぶつけてしまう。
「あの、木下さん。気持ちは嬉しいけど、このサイズは机が割れるよ」
「……っ! 迷惑でしたか!? わかりました、次は液体(ドラム缶)で持ってきます!」
「もっと迷惑だよ。座って、落ち着いて」
木下は顔を真っ赤にして椅子に座った。本当は「今夜、空いてますか?」と可愛く誘いたい。昨夜、鏡の前で100回練習した「あざとい上目遣い」を出すタイミングを伺う。
「あの、先輩……。私、最近『寂しい夜』を過ごしてまして」
「ほう、防犯上の問題か?」
「違います! 心の隙間風がすごいんです。で、その……先輩の家って、**『空気清浄機』**ありますか?」
田中先輩は首を傾げた。 「あるけど。それがどうかした?」
「私の部屋の空気が、先輩を求めて……じゃなくて、淀んでいるので、先輩の家の清浄された空気をタッパーに詰めて、私に譲ってくれませんか!?」
田中先輩は、そっと自分のマウスを置いた。 「木下さん。君、疲れてるんだよ。今日はもう帰りなさい」
「先輩! これは比喩です! 私は、先輩というフィルターを通した人生を歩みたいって……!」
「……もういい、わかったから。タッパーの空気は無理だけど、明日、仕事帰りにパフェなら付き合うよ。血糖値あげて脳を休ませなさい」
木下は目を見開いた。 「……パフェ。それって、実質的に『婚約の儀』ってことでいいですか?」
「違うよ。ただの糖分補給だよ。あと、そのプロテイン持って帰って」
木下は、5kgのプロテインを軽々と担ぎ上げ、スキップで退社した。 彼女の背中は、「愛の重さはプロテインの袋より重い」と語っていたが、田中先輩には「とにかく元気な後輩」としか伝わっていなかった。




