表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集  作者: 歌を忘れたカナリア


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/11

泥棒界のニューノーマル

深夜2時、田中さんの家に忍び込んだ男・佐藤は、リビングで立ち止まった。彼はプロの泥棒だが、最近流行りの「ライフハック」に毒されすぎていた。


「よし、まずはこの部屋の動線を確認しよう。……ダメだ、この家具の配置は生産性が低すぎる」


佐藤は盗みに入る前に、まず散らかったリモコンと雑誌を整理し始めた。


「物の定位置が決まっていない。これでは、この家の住人は朝の5分を無駄にしているぞ」


彼は本来の目的(金目のもの)を忘れ、タンスの引き出しを開けた。


「……っ! なんだこの靴下の畳み方は! コットンへのリスペクトが足りない!」


佐藤はついに我慢できなくなり、暗闇の中で黙々と靴下を「米軍式」に丸め直し始めた。そこへ、物音で目が覚めた住人の田中さんがリビングに入ってきた。


「……え、誰?」


佐藤は振り返り、鋭い目つきで言った。


「君か、この部屋の住人は。言っておくが、寝室の加湿器のフィルターが汚れているぞ。あれでは良質な睡眠は得られない。パフォーマンスが落ちる一方だ」


「あ、すみません。……って、泥棒!? 警察呼びますよ!」


「呼びたまえ。だが、通報する前にこのクローゼットを見てくれ。色別にグラデーションで並べ替えておいた。これで明日から、服を選ぶ時間を 20% 短縮できる」


田中さんは、美しく整頓されたクローゼットを見て、思わず感嘆の声を漏らした。


「……すごい。お店みたいだ」


「だろう? 泥棒も今は、価値を提供する時代なんだ。ただ盗むだけ(Take)の時代は終わった。これからは付加価値を与えて(Give)、その対価として『不要な資産』を少しだけ再分配してもらう」


佐藤はそう言うと、田中さんの机の上にあった「去年の年賀状の束」と「中途半端に残ったプロテイン」を手に取った。


「これらは君の人生に『ときめき』を与えない。私が処分(盗)っておこう。あ、窓のサッシの掃除もしておいたから、明日の朝は空気が美味しいぞ」


「あ、ありがとうございます……?」


佐藤はスマートな身のこなしで窓から去っていった。翌朝、田中さんは人生で最もスッキリとした目覚めを迎え、そして気づいた。


「……あ、やっぱり財布は盗まれてるわ」


部屋はピカピカ、財布はカラ。田中さんは、なんだか複雑な気持ちで、ピカピカの窓を開けて深呼吸した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ