表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集  作者: 歌を忘れたカナリア


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/27

鋼の挽歌:最終部

爆煙が晴れた戦場には、静寂だけが残っていた。  二人の足元は深く抉れ、かつての英雄の居城は形を留めぬほどに崩落している。


 カイルは、胸に深く聖剣を突き立てられたまま、瓦礫の山に背を預けていた。彼の体からは、あれほど禍々しく吹き荒れていた黒い魔気が、羽虫のように力なく霧散していく。


「……あ、あぁ……」


 僕は震える手で、彼の胸に刺さった剣の柄を握りしめていた。僕の左腕もまた、カイルの一撃によってだらりと力なく垂れ下がっている。


「……勝負ありだ、アル。……見事な、一撃だった……」


 カイルの瞳から紅い色が抜け、元の澄んだ碧色が戻っていた。だが、その瞳に宿る生命の灯火は、今にも消え入りそうなほどに淡い。


「カイル……待ってろ、今、治癒魔術を……!」


「よせ……。俺が一番、わかってる。……魔の力で繋ぎ止めていたこの命は、聖なる光を浴びれば……もう、形を保てない」


 カイルは血に汚れた手を持ち上げ、僕の頬に触れた。その手は、驚くほど冷たかった。


「すまなかったな……。お前に、こんな……嫌な役割を押し付けて。……でも、お前なら、止めてくれると思ってた」


「……馬鹿野郎……。そんなの、頼まれてやるもんじゃない……」


 涙が止まらなかった。  国を守り、民を愛し、誰よりも正義感が強かった親友。彼はただ、裏切りという名の孤独に耐えられなかっただけなのだ。彼を闇に追い込んだのは、僕たちが守ろうとしたこの国の「光」そのものだった。


「アル……。門を閉ざしたあいつらを……恨むなよ。……俺一人の犠牲で、お前たちが救われたのなら……それで、良かったんだ。……あの日、そう思えなかった俺が、弱かっただけだ……」


 カイルの体が、末端からさらさらと灰になって崩れ始めた。  魔の力に侵食されすぎた肉体は、魂の解放と共にこの世界から消滅しようとしていた。


「おい、カイル! 消えるな! 一緒に帰るんだろ!」


「……もう、帰ってるさ。……お前の剣の中に……俺たちの、誓いの中に……」


 カイルは穏やかに微笑んだ。かつて、訓練の後に夕日を眺めながら交わした、あの少年の頃の笑顔だった。


「……光を、絶やすなよ……相棒……」


 最後にそう言い残すと、カイルの体は一陣の風に吹かれ、灰となって錆色の空へと舞い上がった。  僕の手元に残ったのは、血に濡れた聖剣と、親友がいた場所の温もりだけだった。


 僕は一人、廃墟の頂で叫んだ。  空は皮肉にも、闇が去ったことで美しい朝焼けに染まり始めていた。


 数年後。  王国は「魔騎士」の脅威から解放された英雄を称えた。  だが、その英雄——アルの姿は、どこの式典にもなかった。    彼は騎士の地位を捨て、辺境の境界線に小さな墓標を立て、ただ静かに守り続けている。  国を、民を、そして。  光の中に居場所を失った、もう一人の英雄の誇りを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ