鋼の挽歌:第三部
カイルの放つ闇の波動が、周囲の瓦礫を塵へと変えていく。その中心で、彼はかつての親友に向かって、喉の奥から絞り出すような声で笑った。
「あの日……俺を包囲した魔族の将が、何と言ったか知っているか? アル」
カイルが静かに語り始めた。大剣を正眼に構え、その身に渦巻く魔力を極限まで凝縮させていく。
「『お前が命を懸けて守ろうとしている王は、既にお前を見捨て、撤退の準備を済ませている』とな。俺は信じなかった。だが、俺が血を吐きながら三日三晩戦い続け、ようやく逃げ延びた先で見たのは、境界の門を内側から固く閉ざし、俺の帰還を拒む騎士団の姿だった」
僕は絶句した。王国の記録では、カイルは名誉ある戦死を遂げたとされていたはずだ。
「俺は外から門を叩いた! 叫んだ! だが、連中は門の隙間から俺を射抜こうとした。穢れた魔気を浴びた者は、もはや人間ではないとな。……アル、俺を闇に落としたのは魔族じゃない。俺たちが守ろうとした、あの光の側の連中だ」
カイルの咆哮と共に、闇の炎が膨れ上がる。
「だから俺は、すべてを終わらせることに決めた。光も、正義も、友情も! 全部この手で引き裂いてやる!」
カイルが跳んだ。それは弾丸のような突撃だった。 大剣が放つ黒い斬撃が空を割る。僕は聖剣に自らの全生命力を注ぎ込み、迎撃の構えをとる。
「……それでも、カイル。僕は君を、一人で地獄に行かせはしない!」
二人の影が中央で激突し、凄まじい閃光と爆音があたりを包んだ。 カイルの大剣が僕の左肩を深く切り裂き、僕の聖剣が彼の胸甲を貫く。肉が焼ける音と、血の匂いが混じり合う。
「《断罪の終焉》!」 「《天光の道連れ(アルティメット・クロス)》!」
二人の秘奥義が至近距離で爆発した。 光と闇が互いを食らい合い、空間そのものが歪んでいく。その奔流の中で、僕たちは互いの視線が交差するのを感じた。
カイルの瞳の奥、深紅の輝きの影に、一瞬だけ、泣きそうな顔をした十六歳の頃の彼が見えた。
「……なぁ、アル。俺のいた世界は、どこで間違ったんだろうな」
カイルの呟きは、爆鳴の中で僕にだけ届いた。 直後、巨大な衝撃が二人を弾き飛ばした。




