鋼の挽歌:第二部
空気が爆ぜた。 カイルの振り下ろした大剣が、僕がいた場所の石畳を粉々に砕き、巨大なクレーターを作る。衝撃波だけで肌が焼けるような熱さを感じた。
「どうしたアル! 騎士団随一の速さはその程度か!」
カイルが吠える。間髪入れずに放たれる横薙ぎの一撃を、僕は聖剣の腹で受け流した。金属同士が擦れ合い、火花が散る。かつて訓練で数千回と繰り返した型。しかし、そこに乗せられた質量と殺意は、あの頃とは比較にならない。
「……くっ!」
僕は反動を利用してバックステップを踏み、聖教魔術を剣に宿す。 「《光輝の断罪》!」
白銀の閃光が幾筋もカイルを襲う。だが、彼は避けるどころか、左手を無造作に突き出した。 彼の掌から溢れ出した漆黒の霧が、聖なる光を文字通り「食い破り」、霧散させる。
「無駄だ。その程度の光、俺の闇には届かない」
カイルの姿が掻き消えた。 ——上だ。 直感に従い、僕は頭上に剣を構える。直後、大剣が聖剣を押し潰すように激突した。膝が震え、足元の地面がひび割れる。至近距離で、彼の深紅の瞳が僕を射抜く。
「覚えているか、アル。この技はお前が俺に教えたんだ。守るための力だと」
カイルが右足で僕の腹部を蹴り飛ばす。僕は瓦礫の中を転がり、血を吐き出した。 彼は追撃の手を緩めない。大剣を地面に突き刺すと、そこから影の棘が蛇のように地を這い、僕の四肢を絡め取ろうと迫る。
「《聖域の盾》!」
僕が展開した光の障壁を、影の棘がガチガチと音を立てて削っていく。 カイルはゆっくりと歩み寄ってきた。その足取りには、絶望的なまでの余裕がある。
「アル、お前の剣には迷いがある。俺を殺したいのか、救いたいのか、自分でも分かっていないんだろう」
「黙れ……っ!」
「迷いは『不純物』だ。戦いにおいて、それは死に直結する。かつての俺がお前に負けていたのは、守るべきものが多すぎたからだ。だが、今の俺は自由だ。すべてを捨て、ただ破壊という純粋な真理に到達した」
カイルが大剣を天に掲げる。黒い炎が渦を巻き、巨大な闇の柱となって天を突いた。
「お前のその『綺麗事』と一緒に、この街を更地にしてやる」
カイルの全身から溢れ出す魔力が、物理的な圧力となって僕を押し潰そうとする。 僕はボロボロになった体を起こし、剣を正眼に構え直した。視界は血で滲んでいるが、彼の構えの「癖」だけははっきりと見えていた。




