表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集  作者: 歌を忘れたカナリア


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/27

鋼の挽歌:第一部

空は、どろりと濁った錆色に染まっていた。  かつて「王国最強の双璧」と謳われた僕たちの故郷は、いまや異界の魔気が渦巻く廃墟と化している。


 瓦礫の山の頂に、男が一人、背を向けて座っていた。  漆黒の甲冑を纏い、禍々しい紫の炎を放つ大剣を無造作に地面に突き立てている。その背中を、僕は嫌というほど知っていた。


「……カイル。そこにいるんだろ」


 僕の声に、肩が微かに揺れる。  ゆっくりと振り返ったその男の顔には、かつての快活な面影はなかった。右半分が黒い紋様に侵食され、瞳は濁った深紅に輝いている。


「遅かったな、アル。お前なら、もっと早く俺を殺しに来ると思っていたよ」


 カイルの声は、地底から響くような不気味な震えを帯びていた。  三年前。北の境界線で魔王軍に包囲されたとき、彼は僕を逃がすために一人で殿しんがりを務めた。死んだと思っていた。国を挙げて彼を英雄として弔った。


 だが、彼は生きていた。  魔の力をその身に宿し、昨日まで守っていたはずの民を、自らの剣で蹂躙する「魔騎士」として。


「どうしてだ、カイル。あの日、君が守ろうとしたのは、こんな地獄じゃないはずだ」


「ああ、そうだな。あの日、俺は確かに正義を信じていた」


 カイルは立ち上がり、大剣を引き抜いた。  重い金属音が廃墟に響き渡る。


「だが、暗闇の中で泥を啜り、自分の肉が腐り落ちていく音を聴きながら理解したんだ。正義なんてものは、腹を空かせた獣の前では何の役にも立たない。光の下で笑っている奴らのために死ぬのが、どれほど馬鹿げたことか。……アル、お前も『こちら側』に来ればわかる」


「行けないよ。……君をそこに置いたまま、どこにも行けるはずがない」


 僕は腰の聖剣を抜いた。  清冽な光が、錆色の空を僅かに切り裂く。かつて二人で切磋琢磨し、共に騎士の誓いを立てた剣だ。


「殺してでも連れ戻す。……それが僕の、最後の友情だ」


 カイルの口元が、歪に吊り上がった。


「いいだろう。なら見せてみろ。その『光』が、俺の絶望に勝てるかどうかをな」


 一瞬の静寂の後、二人の影が爆発的な速度で交錯した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ