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短編集  作者: 歌を忘れたカナリア


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思い出の断片


家に帰り着いたハルは、泥のついた手を洗うのも忘れ、自室のパソコンの前に座っていた。 デスクに置かれた小さなSDカードが、まるで心臓のように脈打っている気がした。


「……見るのが、怖いな」


独り言は、静まり返った部屋に溶けて消えた。 もしこれを見てしまったら、彼女が本当に「過去の人」になってしまうような、それでいて、まだどこかで生きているような、不思議な恐怖があった。


意を決して、ハルはカードを読み込ませる。 画面に表示されたのは、たった一つの動画ファイル。更新日時は、彼女が亡くなる一週間前だった。


再生ボタンをクリックする。


画面が明るくなり、ノイズの後に**「アオ」**が映し出された。 背景は、彼女の部屋のベッドの上。少し照れくさそうに、レンズを覗き込んでいる。


『あ、映ってるかな? ……えっと、ハル。これを見てるってことは、私はまだ勇気が出せてないか、あるいは……もっと最悪な状況か、どっちかだね』


画面の中のアオは、ハルの知っている通りの、いたずらっぽく笑う彼女だった。 ただ、その頬は記憶よりも少しだけ痩せているように見えた。


『ハル。私ね、ずっと言いたいことがあったんだ。子供の頃から、君の隣にいるのが当たり前すぎて、今さら言うのは恥ずかしいんだけど……。私、ハルが好きだよ。友達としてじゃなくて、世界で一番、大切に思ってる』


ハルの視界が、一瞬で歪んだ。 スピーカー越しに届く彼女の声が、震えていることに気づく。


『でも、ただ「好き」って言うだけじゃ足りないから、ハルにお願いがあるの。私がやり残したこと、ハルに手伝ってほしいんだ。名付けて、「アオのわがままバケットリスト」!』


彼女は一枚の紙を画面に向けた。そこには、二人がいつか行こうと約束して、結局果たせなかった場所や、些細な願い事がいくつか並んでいた。


『これを全部クリアしたら、最後に一番大切なものをハルにあげる。だから……泣かないで、私の代わりに世界を見てきてよ』


動画は、彼女の眩しい笑顔で唐突に終わった。

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