止まった時計と、君の不在(前編)
第1話:止まった時計と、君の不在(前編)
アオがこの世を去ってから、三ヶ月が経った。 季節は無情にも進み、窓の外ではセミの声がうるさいほどに響いている。ハルは、アオの両親に頼まれ、彼女の部屋の片付けを手伝いに来ていた。
「ハルくん、無理しないでね。辛くなったらすぐに休んで」
アオの母親の言葉に短く頷き、ハルは段ボール箱と向き合う。 この部屋の空気は、あの日から止まったままだ。机の上には、次に会う時に貸す約束をしていた小説。壁には、二人で行くはずだったライブのポスター。
「……バカだな、お前は。勝手にいなくなって」
独り言をこぼしながら、本棚の奥に手を伸ばした時だった。指先に、違和感のある感触が触れた。 引き出してみると、それは古い文庫本の間に挟まれた、一通の**「封の開いていない封筒」**だった。
宛名には、見慣れたアオの丸っこい文字でこう書かれていた。
『ハルへ。私がもし、約束の時間に遅れたら読んでね』
ハルの心臓が、ドクンと大きく跳ねた。 約束の時間? あの日、アオはハルと待ち合わせをしていた。そして、その場所に向かう途中で……。
震える手で封を切ると、中には手紙ではなく、**「古びた鍵」と、「一枚の地図」**が入っていた。地図には、二人が子供の頃によく遊んだ近所の公園の、さらに奥にある森が記されている。
「なんだよこれ……宝探しでもさせるつもりかよ」
乾いた笑いが漏れる。だが、その鍵を握りしめると、冷たい金属の感触が、不思議とアオの体温を思い出させた。




