聖域の食卓:最終部
痛みは、ある一点を超えたところで唐突に消えた。 腕から滴り落ちる鮮やかな赤が、真っ白な床を汚していく。父さんはそれを見て、狂ったようにアルコールを浴びせ、何度も何度も、こびりついた汚れを落とすように僕の皮膚を削り続けた。
「まだだ、まだ赤が出てくる。どうしてだ。なぜお前は、これほどまでに不潔なんだ!」
父さんの叫びは、もはや言葉ではなく獣の咆哮だった。 母さんはその傍らで、床に広がった僕の血を、真っ白な布で熱心に吸い取っていた。 「見て、あなた。布がこんなに赤くなってしまったわ。洗わなきゃ。真っ白に洗わなきゃ」 彼女は血のついた布を口に含み、汚れを「洗浄」しようと必死に咀嚼し始めた。
その光景を見たとき、僕の中で何かが、プツリと音を立てて切れた。 この人たちは、もう救えない。そして僕も、このままでは彼らの一部として「白く」塗りつぶされて終わる。
「……お父さん」
僕は、削られた腕の痛みを無視して、静かに口を開いた。 父さんが動きを止める。その目は充血し、狂気で濁りきっていた。
「お父さんが一番、汚れているよ」
父さんの動きが止まった。 「……何だと?」
「お父さんの目の中。真っ赤だよ。お父さんの喉の奥も、きっとドロドロの赤だ。お父さんが生きている限り、この家から赤は消えないんだよ」
父さんは自分の手を、鏡のように磨かれたキッチンのステンレスに映した。そこには、返り血を浴びて、誰よりも「不潔な色」に染まった自分の姿があった。
「あ……あああぁぁぁ!」
父さんは絶叫し、自分の顔を爪でかきむしり始めた。自分の中に眠る「色」を追い出そうとするかのように。 母さんはそれを見て、さらに激しく笑い転げた。 「ああ、お父様が汚れてしまった! 洗浄しなきゃ、一番大きな漂白剤で、全部、全部!」
二人が互いの中にある「色」を排除しようと掴み合い、もつれ合う隙に、僕は震える足で立ち上がった。 玄関へ向かう途中、床に落ちていた「赤い破片」を拾い上げる。 それはもう、僕にとってはただのプラスチックではなかった。僕という人間が、まだ痛みを感じ、血を流す生き物であることの証左だった。
背後で、重い液体が飛び散る音と、何かが壊れる音が聞こえた。 漂白剤の強い刺激臭が、鼻をつく。 僕は一度も振り返らずに、重い玄関の扉を開けた。
外は、夜だった。 街灯のオレンジ色、信号機の青、車のヘッドライトの黄色。 父さんが忌み嫌った「不純な色」が、洪水のように僕の目に飛び込んできた。 そのあまりの眩しさに、僕は涙を流した。
翌朝、その家からは何の音もしなくなったという。 通報を受けて駆けつけた警察が見たのは、家中が真っ白な漂白剤で水浸しになり、その中心で、色素を失って真っ白にふやけた二つの死体が、互いの喉を締め上げている姿だった。
僕は今、遠い街の病室にいる。 僕の腕には、一生消えないであろう、酷いケロイド状の傷跡が残った。 看護師は「可哀想に」と言って目を伏せるが、僕は鏡に映るその赤黒い傷跡を見るたびに、少しだけ安心する。
この「色」がある限り、僕はまだ、あの聖域の家畜ではない。 ただの、汚れていて、不完全で、生きている人間なのだから。
今回は今までとは違い重い話をテーマにした話をAIと協力しながら書きました。AIが作った話を僕が出来るだけ清書し世に羽ばたかせています。半分以上は僕の分です。設定はAIですけどね。




