祝福の苗床
聖教国の辺境にある村では、十年に一度、「聖女」を神に捧げる儀式が行われる。
「聖女」に選ばれた少女は、地下深くにある「光の揺り籠」へと送られ、一生をかけて国を覆う結界の糧となる。村人たちは、選ばれた少女の家族に多額の寄付を送り、涙を流してその自己犠牲を称えるのが通例だった。
今年の聖女は、十六歳になったばかりのエルナだった。 エルナは目隠しをされ、白い絹の装束を纏い、神官たちに連れられて地下の最深部へと足を踏み入れた。背後で重厚な石の扉が閉ざされる。ここからは神域であり、不浄な者の立ち入りは許されない。
「神よ、この清らかな魂を捧げます」
神官の唱える祝詞が止むと、目隠しが外された。エルナが恐怖に震えながら目を開けると、そこには、村人が語り継いできた「光の園」など存在しなかった。
目の前にあったのは、無数の巨大な肉塊が、天井から吊り下げられた鎖に繋がれている光景だった。 その肉塊には、かつて「聖女」として送り出された少女たちの顔が、歪んだ状態で埋め込まれていた。彼女たちは死を許されず、魔法陣を通じて生命力を強制的に吸い上げられ、肥大化した肉のバッテリーと化していた。
「……あ、あぁ……」
エルナが絶叫しようとしたが、その前に神官が彼女の顎を掴み、喉の奥に黒い石をねじ込んだ。声が出なくなる。
「安心しなさい。君もすぐに、この大いなる平和の一部になれる。国を護るための、尊い歯車だ」
神官たちは冷淡な手つきでエルナを寝台に固定し、彼女の四肢に銀の杭を打ち込んだ。激痛が走るが、喉に詰められた石のせいで、彼女の悲鳴はただの空気の漏れる音にしかならない。
数時間後、神官たちは地上に戻り、広場に集まった村人たちに告げた。 「聖女エルナ様は、神に迎え入れられました。彼女の尊い祈りが、これから十年の平和を約束しました」
村人たちは歓喜し、エルナの親族は「誇らしい」と誇らしげに胸を張った。 その足元、遥か深層では、肉の塊に変えられつつあるエルナが、光の届かない闇の中でただゆっくりと、腐ることさえ許されない永劫の苦痛を味わい始めていた。
国の結界は、今年も一点の曇りもなく輝いていた。




