表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集  作者: 歌を忘れたカナリア


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/12

誘惑のサキと、鋼鉄の脳内メーカー

カズキの部屋。テスト勉強という名目で集まった二人だが、サキの狙いは別にあった。今日のサキは、あえて「お風呂上がり」を演出するため、少し濡れた髪と、肩が大胆に開いた部屋着で勝負に来ていた。



(今日こそ、このバカの理性をぶち壊してやるわ……!)


サキはわざとカズキの隣にぴたりと座り、耳元でしっとりと囁いた。


「ねえ、カズキ……。なんだかこの部屋、暑くない? 私、ちょっと……のぼせちゃったみたい」


サキは顔を赤らめ、はだけた襟元をパタパタと仰いで見せた。普通の男子なら、ここで視線のやり場に困り、生唾を飲み込む場面だ。しかし、カズキは教科書から目を離さず、深刻な顔で呟いた。


「……やっぱりか。俺もさっきから思ってたんだ」


「えっ? (ついに来た!?)」


カズキはガバッと立ち上がり、窓を全開にした。


「サキ、お前も気づいたか! この部屋、二酸化炭素濃度が上がりすぎてるんだよ! 脳に酸素が回ってない証拠だ。お前のその顔の赤さは、典型的な酸欠の症状だぞ!」


「違うわよ! 生理的な反応よ!」


「バカ言え! 放置したら意識を失うぞ。よし、サキ。深呼吸だ! 吸って、吐いて! 腹式呼吸で細胞を活性化させるんだ!」


カズキはサキの肩を掴み、全力で深呼吸の指導を始めた。サキの「色気」は、カズキの「換気への情熱」に完全に打ち消された。


「……もういいわよ。それより、ちょっと喉乾かない? 私、マンゴーの甘いジュース買ってきたんだけど……一緒に飲まない?」


サキは最後の手段として、ストローを一本だけ刺したカップを差し出した。いわゆる「間接キス」の強制イベントである。


「おっ、サンキュー! ちょうど喉がカラカラだったんだ」カズキはカップをひったくると、ストローを抜き取り、カップの蓋をバリバリと剥がした。


「サキ、知ってるか? ストローで飲むより、直接ガブガブ飲んだほうが、喉ごしが良くてリフレッシュ効果が 3 倍(当社比)なんだぜ!」


カズキはマンゴージュースを豪快に飲み干し、プハァー!と満足げに笑った。


「……あんた、それ、私がさっきまで使ってたストロー……」


「ん? 汚れてたか? 大丈夫、俺は細かいことは気にしない主義だ。それよりサキ、見てくれ! このマンゴーのビタミン成分、筋肉の疲労回復に最高らしいぞ。よし、お礼に今からスクワットの補助をしてやる!」


「…………」


サキは、窓から入ってくる冷たい夜風に吹かれながら、静かに教科書を閉じた。彼女の恋心という名の炎は、カズキの「健康管理能力」という巨大な消火器によって、今日も跡形もなく消し止められたのであった。


「ヨシオ……。やっぱり、こいつ一回埋めていいかな……」


サキの独り言は、スクワットの回数を数えるカズキの元気な声にかき消された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ