『嵐の核』
【ユーリ視点】
(風向きが……反転している……!?)
白影を倒した戦場とは思えない。
空気が唸り、吹雪が逆巻く。
イゴールを中心に、
“巨大な渦”がゆっくりと形成されていた。
「まさか……
嵐そのものを動かしているのか……」
「ユーリ!! 見て!!」
アニエスが指す先――
本部の外壁が、まるで紙のように軋み始めていた。
ミシ……ミシミシ……!!
(まずい……!!
この風圧では、本部が押し潰される!!)
【本部内・タルボット大尉視点】
「外壁圧力、限界値突破!!
これ以上は……耐えられません!!」
「補強材は!? 温度は!?」
「氷点下八〇度!!
金属が結晶化して崩れます!!」
(イゴール……
あれはもう、兵器じゃない……天災だ……!)
「全隊に告ぐ!!
中佐が来るまで一秒でも持ちこたえろ!!
絶対に本部を明け渡すな!!」
「「了解ッ!!」」
本部に残る熱は、もはや“意地”だけだった。
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【前線・兵士視点】
「うわっ……!!
風で身体が持っていかれる!!」
「踏ん張れ!!
このままだと吹き飛ばされるぞ!!」
雪面が削れ、足元の氷が風で割れていく。
「この嵐……
本部ごと押し潰す気かよ!!」
「イゴール……あいつ、化け物か……!!」
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【イゴール視点】
高台から見下ろすイゴールの毛皮が、
凍った風にたなびく。
「白影を倒した。
ならば次は――“本物の戦争”だ。」
指先で空を裂くような動きをすると、
渦がさらに深く回転し始めた。
「ユーリよ。
俺はいつも言っているだろう。」
凍土に響く声は、静かで――冷酷だった。
「補給とは“心”を折る武器だ。
天候も、地形も、兵士の士気も……
すべて折れば、敵は前へ進めなくなる。」
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【ユーリ視点】
(この風……通常の暴風じゃない……
風の層が複数……しかも逆向きに重なってる……!)
戦場に渦巻く風を“線”として見る。
凍土の地形を“陣形”として見る。
(風裂陣……
まだ完全じゃない……
でも、この嵐を破るには、使うしかない!!)
「全隊!!
これより風裂陣の形成に入る!!
隊列を三〇度右へ振れ!!
風下側は一歩後退!!
アニエス、俺の右!!」
「了解!!」
「了解ッ!!」
(風を……割る……
風そのものを捉えて、“道”を作るんだ……!!)
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【アニエス視点】
(ユーリの視線が……
まるで風を“読んでいる”んじゃなくて……
“見えている”みたい……)
「ユーリ!!
本部の外壁がもう持たない!!
急がないと――!!」
「わかってる!!
あと少しで“裂け目”が見える!!」
(裂け目……?
風の……?)
アニエスは震える指を銃に添えた。
(信じるしかない……!!)
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【本部外・兵士視点】
「来た!!
中佐が陣形を作るぞ!!」
「中佐の指示どおりに動け!!
風を押し返すんだ!!」
兵士たちが一致して動く。
踏みしめる足音が、
風の中でひとつの“流れ”を作る。
(すげぇ……
風が……押し返されてる……!?)
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【ユーリ視点】
(見えた……!!
嵐の“核”……!!)
風の歪みが、
巨大な一点に集中している。
(あそこを裂けば……!!
本部は助かる!!)
「全隊!!
嵐の核を突破する!!
風裂陣――展開ッ!!」
「「了解ッ!!!」」
――その瞬間、
地平線の向こうで、
イゴールが静かに笑った。
【イゴール視点】
「さあ来い。
ここからが決着だ。」




