『風裂陣の目覚め』
【ユーリ視点】
(来る……!)
白影が空気ごと消え、
次の刹那――風が一滴だけ“逆向き”に跳ねた。
(そこだ!!)
「全隊、射線合わせ!!
撃てッ!!」
ダダダッ!!
集中した弾丸が風を裂き、
白影の跳躍方向を“削る”。
白い影がはじめてわずかに失速した。
(読める……!!
揺れが……風が……線になってる!!)
未来ではない。
今、この瞬間の“軌道”。
その線が白影の周囲にうっすらと見える。
(これが……俺の補給戦で磨き続けた“現在読み”……!)
白影が姿勢を変え、反撃に移る。
「ユーリ!! 右上!!」
「把握!!」
ガキィッ!!
刃と銃身がぶつかる。
火花ではなく、冷気が散った。
(まだだ……押しきれない……!
俺一人じゃ、この速度には届かない!!)
そのとき――
風が“歪んだ”。
(……いや、違う。
俺の感覚のほうが、風に合わせて歪んでいる……?)
風が道を作っている。
白影を誘い込む一本の細い裂け目。
(これが――“風裂陣”……!?
補給路の最適化と同じ……!
風の流れを“道”として見るんだ!!)
「全隊!!
白影を前方二〇メートルの裂け目に誘導!!」
「了解ッ!!」
兵士たちの動きが風と重なり、
雪片が一本の渦を描く。
白影が跳ぶ。
風が裂ける。
刹那、風の“道”に飲み込まれた。
(今だ――!!)
ダンッ!!
アニエスの弾丸が白影の胸を撃ち抜いた。
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【アニエス視点】
(入った……!!
風が、ユーリの読みと一致して……
“道”になってた!!)
白影が地面に叩きつけられ、
その身体は霧のように崩れ始める。
「やった……の……?」
瞬間、全身から力が抜けた。
(本当に……倒したんだ……
あの白影を……!)
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【前線・兵士視点】
「白影が……!!」
「中佐が……!!」
「倒したぞォォォォッ!!」
歓声が凍土を揺らす。
白影を恐れ、絶望しかけていた兵たちが、
今ようやく声を取り戻した。
「まだやれる!!
本部は守れる!!」
「中佐の指揮に続けぇぇ!!」
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【ユーリ視点】
(これが……風裂陣……
未来を見なくても、“今”を読めば戦える……!)
身体の深部が熱くなる。
風の流れが、地形の形が、兵の動きが、
一本の網のように重なって見える。
(……俺は、前へ進める)
本部の崩壊は、もう止められる。
そう確信した――その時だった。
――風が、逆流した。
(……何だ……!?)
吹雪が唸り、
大地を揺らすほどの“外側からの突風”が押し寄せる。
「ユーリ!! あれ……見て!!」
アニエスが指さした先――
遠方の高台に、黒い毛皮の男が立っていた。
【イゴール視点】
「ようやく面白くなってきたな。」
イゴールの手にある杖が、凍った地面へ突き立つ。
「白影を倒すとは……
見事だ、ユーリ・コールドウェル。」
吹雪が一点に集中し始める。
いや――
“呼ばれている” のだ。
嵐が、イゴールの位置を中心に渦を巻く。
「だが、まだだ。
お前が学ぶべきは――
“戦場を喰らう嵐”との戦いだ。」
【ユーリ視点】
(……嵐の核を……動かしている!?
そんなことが……人間に……)
背筋が凍りつく。
風が、空気が、世界そのものが
イゴール一人を中心に歪んでいく。
(この嵐……!
本部ごと飲み込むつもりだ!!)
「アニエス!!
ここからが本番だ!!」
「わかってる!!
何が来ても撃ち抜く!!」
白影を倒した安堵は、もうどこにも無かった。
(イゴール……
お前が相手なら――
風裂陣を“完成”させるしかない!!)
凍土の風がうねり、本部へ向かって襲いかかる。




