『本部、凍てつく地獄』
【本部・タルボット大尉視点】
外壁が悲鳴を上げる音が、建物全体に響いていた。
「外壁温度、マイナス七十七度!
金属結晶が変質、装甲が割れ始めています!!」
「暖房管は全区画で凍結!
動けない兵が続出しています!」
「氷走隊が第二通路へ侵入!!」
報告は尽きず、凍りつく空気の中で兵たちの息が白く散る。
(……中佐なら、どう動く?)
タルボット大尉は震える手で地図を抑え込んだ。
(暖かい“熱核”がまだ一つだけ生きている……
中佐ならそこを中継点に、動線を組み替える……!)
「本部全区画、動線を再編!!
熱核付近へ負傷者と兵を集中!
全員、中央へ後退だ!!」
「こんな状況で再編!?
大尉、正気ですか!!」
「正気じゃなきゃ勝てん!!
中佐がいたら必ずそう指示したはずだ!!」
一瞬の沈黙。
次に響いたのは――兵士たちの咆哮。
「……やるしかねぇ!!
あの人に教わっただろ!!」
「死ぬなら中佐の指示を信じて死ぬわ!!」
本部に、わずかながら“熱”が戻った。
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【医療区画・サーシャ軍医視点】
「凍傷が……手がもう……!」
「落ち着きなさい! 凍結は浅い!
まだ間に合う!!」
医療区画は地獄だった。
薬液は凍り、器具は氷膜に覆われ、
患者の皮膚も金属のように冷たかった。
(暖房が死んでいる……このままじゃ……)
「誰か!
ガス炉は!? まだ動く!?」
「残り十五分が限界です!!」
(十五分で……何人救える……?)
それでもサーシャは手を止めなかった。
(ユーリ中佐……
あなたが残した“物資の優先配分ルール”……
そのおかげで、この十五分が残ってる……
無駄にはしない……!)
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【中央通路・工兵曹長視点】
「来るぞ!!
氷走隊だ!!」
白い影が四つ、跳ねるように迫る。
「閉鎖板!! 閉鎖板を下ろせ!!」
「う、動かない!!
凍結して固まってる!!」
(まずい……!
ここまで来られたら中央区画が終わる!!)
跳躍。
刃。
白い音。
――その瞬間。
ガラガラガラッ!!
天井が崩れ落ち、通路の中央に巨大な氷塊が落ちた。
「な、なんだこれ!? 天井が凍結崩落を!!」
「こんな偶然……いや、違う!!」
工兵曹長の顔に電流が走った。
「あの“融雪管ライン”だ!!
緊急時に自動で熱核を配分し、
構造を意図的に“崩落させる”仕掛け!!」
「そんなもん……いつ設置を……?」
「ユーリ中佐が……ずっと前に!!」
(中佐……
どこまで未来を読んでたんだ……!?)
氷走隊は瓦礫の前で足を止め、
一瞬だけ動きが鈍った。
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【指揮所・司令代行視点】
「第二通路、防衛線が保てません!!
凍傷者続出!!」
「外壁の破断まで残り五分!!」
「暖房管死滅!! 室温が氷点下三十度に!!」
部下が震えながら告げる。
「……司令代行、避難を……」
「避難などするか!!
ここを捨てたら本部は終わる!!」
床が震え、本部の柱に亀裂が走った。
(ユーリ……
お前の作ったこの本部は
今、崩れ落ちようとしている……
だが――皆、お前を信じて動いている……
早く戻ってこい……!!)
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【ユーリ視点(風道出口付近)】
(風の揺れが変わった……!
この先、風道が完全に崩壊する!!)
「アニエス、伏せろ!!」
「わ――っ!!」
風道が破裂し、横殴りの風が雪を粉砕した。
だが未来予測の線が示す“穴”へ跳び込む。
ザザッ!!
(見えた……!
本部まであと二百メートル!!)
「アニエス!!
本部が……!!」
「崩れ始めてる!!
急がないと!!」
ユーリは最後の追い風を掴み、
本部へ向かって疾走した。
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【本部外壁直下・合流視点】
「外壁破断まで残り六十秒!!
氷走隊が――」
「待て!!
前方に……誰か……!」
白い風を割って、一つの影が飛び込んでくる。
「ユーリ……中佐……?」
「中佐だ!!
ユーリ中佐が戻ってきた!!!!!」
叫びが本部全体を駆け巡り、
凍えかけた兵たちの心に火が灯った。
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【ユーリ視点】
(間に合った……!)
本部前に着地し、アニエスを支えながら叫ぶ。
「全隊に告ぐ!!
本部動線と風向管理は俺が再編する!!
氷走隊は――俺が止める!!」
凍土の風が吹き荒れる中、
兵たちが歓声を上げた。
(ここからが――
俺の戦いだ!!)




