『風道を駆けろ』
【ユーリ視点】
吹雪が轟き、世界が一本の“流れ”のように見えた。
イゴールが作った逆流――
本来は本部を破壊するための風。
だが、その風は、角度を読み、速度を合わせれば、
“本部へ最速で向かう通路” になり得る。
(計算上は可能だ。
問題は、俺の未来予測がどこまで持つか……)
「アニエス、しっかり掴まれ!」
「わかった……!」
アニエスが背中に腕を回し、
俺は風道の“入口”へ踏み込む。
ゴォォォォッ!!
空気が押しつぶすように流れ込み、
足が半歩浮いた。
(重力方向が……乱れている……!
だが、進むしかない!)
身体が風に乗り、凍土を滑るように前へ押し出される。
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【アニエス視点】
(速い……!
こんな速度……普通の兵士じゃ耐えられない……!)
風が斜め下から押し込み、
気を抜けば吹き飛ばされる。
でも――
(ユーリの背中……揺れない……
どうしてこんな風の中で、姿勢を保てるの……?)
彼の足が雪面をわずかに読むように、
風の乱れに合わせて踏む場所を変えていた。
右へ。
左へ。
体を倒す角度が数度変わるたびに、
風の“方向”も透けて見えるようだった。
(これ……未来を読んでる……?)
「アニエス、次は右だ!」
「右!? そんな急に――きゃっ!!」
風が真横から押し寄せ、
身体ごと吹き飛ばされそうになる。
だがユーリの左腕が支え、
ギリギリで風道の中心へ戻る。
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【ユーリ視点】
(風の揺れ……変わった!)
視界に走る白い線が、
一瞬で三本に分岐した。
(この先、風道が崩れる……!
その位置は……)
「アニエス、しゃがめ!!」
「えっ――」
前方の風道が“裂けた”。
空気が横滑りし、
渦の中心が爆発するように広がる。
ドォン!!
(くそ……!)
渦に触れれば一瞬で吹き飛ばされる。
だが、その端の“弱点”が見えた。
(そこだ!!)
風の力を逆に利用して、
身体を横へ滑らせ、アニエスを抱え込むようにして飛んだ。
ザザッ!!
雪面を低空で滑り抜け、
渦の轟音が背をかすめる。
「ユーリ……今の……!」
「予測だ。
揺れから破裂点が読めた」
「読めたって……あなたもう補給官じゃないわよ……!」
「俺は補給官だ。
この風も戦場も――“計算”で動く」
アニエスは呆れながらも、
その目にはどこか安堵が浮かんでいた。
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【本部視点(中継 Officer)】
「外壁温度、マイナス七十度突破!!
装甲が持ちません!!」
「第一通路、凍結!! 氷走隊侵入!!」
「司令室が……このままでは……!」
本部内部は悲鳴と怒号で満ちていた。
暖房管は軒並み破壊され、
壁の内側に氷が花のように広がっていく。
「誰か……誰かユーリ中佐と連絡は!?」
「風の乱れで通信完全に断絶!!」
将校たちは当然のように言った。
「中佐なら、戻ってくる……!」
その言葉に根拠はなかった。
だが、それでも信じられていた。
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【イゴール視点】
凍土の高台で、
イゴールは風道を眺めていた。
「……崩壊点を読んで避けたか。
やはり期待通りだ」
口元にかすかな笑み。
「ユーリ。
風道を抜け、本部に到達した時……
お前は“本物の兵站参謀”になる」
「だが――」
彼の瞳が凍てつく。
「そこから先は、誰も手を貸さない。
戦場は、選んだ者を容赦なく試す」
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【ユーリ視点】
本部がようやく見えてきた。
黒煙が立ち昇り、
外壁は砕け、
内部から光が漏れている。
(間に合う……!
風道があと三百メートル!)
「アニエス! 掴まれ!!」
「もう掴まってる!! 腕千切れる!!」
「ここからが本番だ!!」
風道が急激に狭まり、
蛇のようにうねり始めた。
(これを抜ければ――本部前!
そして――俺の戦場だ!!)




